カオス・ウォーキング

カオス・ウォーキング(2021年:アメリカ)
監督:ダグ・リーマン
配給:ライオンズゲート
出演:トム・ホランド
  :デイジー・リドリー
  :マッツ・ミケルセン
  :デヴィッド・オイェロォ
  :デミアン・ビチル
 
人の本心が見えたらイヤだろうなと思うが、それが具現される作品。男の思考が見えてしまうという植民惑星に不時着した女の抹殺をたくらむコミュニティの首長から彼女を連れて逃亡する若者を描く宇宙移民SF。
地球から人類が移民した開拓惑星が物語の舞台。そこにあるコミュニティに住む連中は男しかおらず、女はみな先住の生物に殺されたという。この星で特徴的なのが男の思考は靄のように具象化し、心の中に思い描いたことが可視化される。そんなある時、宇宙から移民団の宇宙船が調査のため先遣隊を送るが、アクシデントで惑星に墜落。一人の女性を残して皆事故死してしまう。生き残った彼女はコミュニティの首長に保護されるが、首長は彼女を危険な存在として抹殺しようと企んでいた。彼女を最初に発見した若者は彼女と共に安全とされる街へ逃亡を手助けする。なぜ首長は彼女を抹殺しようとするのか。なぜ女がいないのか。逃亡劇が謎とともに繰り広げられていく。
男の思考が靄のように頭の周りに現れるのが斬新。それが主張しており、思考の内容が相手側にまる分かりというのが怖い。それが男性のみに現れるからさらに怖い。主人公の若者は何度も自分の名前を呟いて靄をコントロールしようと努力している。イヤな奴をヘビのイメージで驚かせることもできる。それ以上にコミュニティの首長は思考のコントロールを極めており、遭難した女性を確保するために巨大な柵を見せつけて行動を制限したりもできる。違う人物は彼女の幻影を見せたりすることもできた。ある種の超能力のようにも活用できるが、後半になると設定がくどい。絶えず男どもの周りにまとわりつく靄の揺らぎが、画面にちらちらして目障りになってくる。そしてなんでこの惑星では男にだけそんな靄が出るのか。これに説明はない。所々活用したり話を動かすこともあるが、必ずしも必要な設定かと考えるといささか疑問を感じる。特定の人だけに使える超能力しておけば特別感があって物語の謎を深めたんでないかなと感じた。反面言えば女に出ないのはなぜなのか。これにも説明はないが、ここに主人公の若者と首長のいるコミュニティに女がいない秘密につながってくる。なお、女を皆殺しにしたとされる先住民も登場するが、活躍は極々わずか。それも何かのゲームに出てきそうなオリジナル性が乏しい姿形で、物語に関わってくることもない。
主役のトム・ホランドは例のクモ男と同時期の作品だったので演技に勢いがあり、初めて女性を見て妄想が具象化してしまうことに慌てたり、彼女を助けるために必死に戦ったり好印象を感じる。彼女に好意を寄せつつあり、彼女が母船に還ってしまうことを残念がる姿も切ない。しかしコミュニティのなかで一番若い設定でも、あんまり若いと感じられなかった。これは自分が日本人だから、白人は年齢がいって見えてしまうのかもしれない。
やはり圧倒的なのはコミュニティの首長役、マッツ・ミケルセンの存在。思考をコントロールできる人物で、コミュニティの連中を強く統率している。どこで手に入れたんだろう思う毛皮のコートを羽織って堂々と馬に乗り、言葉少なくても醸し出す威厳を振りまいて、これぞ強大な悪役と感じさせてくれる。彼が持つ秘密がこのコミュニティの狂気を表しているのだが、狂気の動機としては弱い。思考が可視化されれば人間は他人との接触を拒んで、個の生活を選ぶと思う。
遭難した女も割とガッツがあり、生き残ろうとする必死さを感じる。宇宙船で育ったもやしっ子だが、母船と通信ができそうな街を目指してひたむきに進んでいく。追手のコミュニティの連中と格闘しつつ機転を利かせて生き残ろうとする。デイジー・リドリーの気の強そうな顔立ちに生きる力を感じた。
キャストの演技は良好。映像も悪くなく、追われる者と追う者たちの緊張感も悪くない。しかし思考が可視化されるという設定がやや邪魔になり、せっかくのクリーチャーやこの人必要なのかと思わされる。原作のある作品らしいが、もう少しブラッシュアップがあればスッキリしたんでないかと残念でならない。

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