226

226(1989年:日本)
監督:五社英雄
制作:奥山和由
配給:松竹富士
出演:萩原健一
  :三浦友和
  :本木雅弘
  :竹中直人
  :佐野史郎
  :勝野博

毎年2月26日になると頭に浮かぶのが二・二六事件。歴史教科書では青年将校の武装決起としか記録されていないが、戦前日本を方向づける一つの転換点であった。事件が起きた昭和11年(1936)2月26日から閏29日までの4日間を、決起した青年将校を中心に描いた昭和の忘れ形見ともいえる作品。
国民の窮状を憂う青年将校たちが、旧態とした現政権を武力で打倒して、天皇親政による政治形態を要望した事件。様々な作品に取り上げられているが、映画としては最後に作られている。当時松竹富士が豪華キャストを起用して制作したが、青年将校たちの人間性にスポットを当てすぎたので、肝心の事件そのものがぼやけて見える。彼らの主張は所々語られるものの、彼ら皇道派に対抗するエリート将校ら統制派が現れないので、青年将校たちの決起が無意味な行動のように見えてしまう。視聴して消化不良感が残る。
特筆すべきは昭和から平成に代わる時代に制作された映画のため、ふんだんに資金が使えていること。キャストだけでなく、セット・衣装は非常に豪華。昭和初期の街並みが再現され、青年将校、兵士らの軍装もきちんとそろえている。装甲車も数台登場し、よく教科書に出てくる「下士官兵二告グ」のビラ、「軍旗に手向かふな」のアドバルーンも再現している。雪が舞う宮城のお堀端で整列する兵士たちなど非常に見事で、現在ならCGで再現してしまうのだろうが、ロケで撮影したことは素晴らしいと思う。
撮影された当時、二・二六事件に関する資料は少なく、各記録も今世紀なってから公開されたものが多い。そのため情報は乏しいが、制作は当事者の肉親に監修を依頼したという。それぞれ閣僚への襲撃時のエピソードも取り上げているが、やや美談的に作られているので嫌悪を感じた。この襲撃に当時の昭和天皇は激怒されたらしいが、その顛末は描かれていない。実際はそれこそが重要なのだが。その他、この事件に影響を与えた人物たちも登場しないので、二・二六事件を描き切れてはいない。
作品自体は中途半端だが、キャストは名優が多数出演しており、一人一人の演技を観ると非常に惹きこまれていく。やはり萩原健一は純然たる役者。青年将校らのリーダーを演じているが、静かな狂気をまといつつ決起行動の先頭に立つ姿はカリスマ性を感じた。この人の演技で何がすごいかというと、画面に映っている間一切まばたきしない。それでいて寡黙な演技なので全身から凄味がほとばしっている。亡くなって久しいが、こういう俳優がまた出てきてほしいと願う。
序盤に説得されて決起に参加する将校の一人を三浦友和が熱演。最初は反対の姿勢をとっていたが、決起に参加した後は最後までやり通すという鉄の意志を持ち、決起をやめようとする仲間たちに対して怒りを爆発させるシーンは青年将校たちの悲痛な叫びを代弁していた。役の人物は軍内でもかなり慕われた人物らしく、三浦友和がもつ熱さと優しさがよく人物を表現している。部下役の川谷拓三(今見ると本当に味のある雰囲気)が最後に「死なないでください」と言いたくなるいい上官だった。最近は重要な脇役が多いが、もう一度熱い主役を観たい。
その他、今でも映画やTVで活躍している俳優が若々しい姿で出演しているのが何故か新鮮。それが皆将校の軍装が似合っている。出番は少ないが本木雅弘の軍装はスマートでカッコいい。勝野博、竹中直人、佐野史郎、うじきつよし、宅麻伸、鶴見慎吾等々、若々しさとともに逸る気持ちで行動した青年将校たちをよく表現していた。割といい役で三遊亭小遊三が出ていたのにも笑ってしまったが、師匠の持つ素朴な雰囲気が一兵士の素直な思いを感じさせた。
対してこの約30年で亡くなった俳優はショーケンも含めて多く、時代の移り変わりをイヤというほど感じた。丹波哲郎はいるだけで大物感を出すので監督は有難かったろうなと思う。あと割と重要な人物に渡瀬恒彦が配役されているのだが、もっと画面に出てほしかった。自分はこの人物こそが二・二六事件の計画を立てたと思っている。
歴史上の事件なので事の終わりは周知だが、決起に失敗した青年将校たちの最期は悲しい。しかしエンディングに青年将校たちの家族とのエピソードを持ってくるのは涙ウケを狙いすぎに感じた。
CG全盛の時代だが、セットとロケを中心に据えて撮影された映画もいいモノだと再確認した。CGがリアルに近づくのは技術努力だが、リアルを元に作り上げるロケもまだまだ技術は伸びると思う。

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