ヒルコ/妖怪ハンター

ヒルコ/妖怪ハンター(1989年:日本)
監督:塚本晋也
出演:沢田研二
       :工藤正貴
  :竹中直人
  :室田英雄
  :上野めぐみ
 
日本神話をベースに異形の存在ヒルコを巡って、異端の歴史学者と純情不良中学生が一夜で繰り広げるパニック伝奇ホラー。漫画家諸星大二郎の人気キャラクター、稗田礼二郎のいくつか掌編をまとめた作品。
異端の歴史学者稗田礼二郎は妻の事故死以後不遇をかこっていたが、地方の教師である義兄の手紙を受けて、ヒルコの伝承が残る妻の田舎へと向かう。しかし義兄は教え子の少女と失踪していた。そんなさなかに義兄の息子は失踪していた少女を校舎で見かける。そして恐ろしい現象が起こり始める。
原作の稗田礼二郎は長身長髪、黒の上下に理知的な佇まいでどんな危機的状況でもその知識を活かして冷静に対処して謎に対峙していく。怪異が超常過ぎて調査を断念しなければならないことばかりだが、異端ながらも探求の徒でもあり、ストーリーテラーのキャラクター。残念だが沢田研二演じる役にはそのような性格付けはなく、妖怪退治の武器を発明して、襲い来る怪異にワーワー、キャーキャーとパニックになりながら逃げ廻るコミカルな役どころ。原作キャラクターを知らない人が観れば、パニックホラーとして楽しめるのだろうが、残念なことに自分は原作のファン。こんなんじゃないだろとイライラも積もる。沢田研二の演技が申し分ないので、自分の稗田礼二郎とのイメージの乖離が凄まじく、非常に残念。ラストにはほとんど役に立たないのも残念。古事記を詠唱する声はさすが歌手出身だけあって一言一句が耳ざわりがよく、聞き取りやすかった。いろんな武器やアイテムを開発していたが、怪異に一番効果があったのが殺虫スプレーだったのが笑えた。
稗田と行動を共にする純情不良中学生も演技が固く、わざと不良っぽく見せている感が強い。怪異となってしまった好きな少女の名前を連呼するしかないのがイラっとする。映画上、不良少年の方が盛り上がるのかもしれないが、今一つ感情移入しづらい。悪かった子が最後には改心して一生懸命頑張るという展開は子供だましっぽくて好きじゃない。背中に怪異となった人の顔が火傷のように現れるのはなぜ?。説明はない。
クリーチャーは生理的嫌悪を抱かせる作り。人の生首に蜘蛛のような足が生えて、カサカサと走り回るのが気持ち悪い。しかもその顔は表情を作ったり、口から触手のような舌を出したりして犠牲者を増やし、増殖するのが更に気持ち悪い。精神攻撃もする。クライマックスで竹中直人の首が外れて、怪異に変化するシーンはなかなかの見物。ただ、生首の蜘蛛とかその原型の怪異とか某洋画の地球外生命体を思わせる造形なのが不満。
その他何でこうなる、なんでこうすると言った説明がないので置いてけぼりを食らう。そりゃ公的機関に相談しても取り合ってくれないかもしれんが、電話線と電線を切断して、人がわんさか死んでたらただでは済まない。竹中直人と少女が失踪した件も何にも騒動らしいものがない。無関心の違和感が気になりすぎる。
監督は塚本晋也。有名な鉄分大量男の映画の次作品のためか、画面の絵面がやや前衛的。鉄分大量映画はモノクロが主だったが、今作はカラーで日本の田舎の美しさを色で鮮明にして見せている。怪異に襲われた少年の緊張感、息遣い、汗等々、人物の内面の描写を外面で表現しているところはらしい演出だと感じた。怪異がストップモーションを多用して動き廻るのも鉄分大量映画からのつながりを感じる。ストップモーションの撮影は根気も必要だが、それ以上に監督と俳優のイメージや演技を合致させるのが大変そう。よく集約していると思う。
稗田礼二郎のシリーズのいくつかのストーリーをまとめていたので、あれはあの作品、これはこの物語と頭の中で照らし合わせながら観ていた。諸星大二郎の作品は作画がおどろおどろしく、テーマは壮大だが、丁寧な謎解きや神話や民間伝承の考察があるので他のオカルト物と一線を画すところがある。そういう所を大事にしてほしかったと思ってしまう。とりあえず怪異に襲われたときのために殺虫スプレーは常備しよう。

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