パーティで女の子に話しかけるには

パーティで女の子に話しかけるには(2017年:アメリカ)
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
原作:ニール・ゲイマン
配給:A24
出演:エル・ファニング
  :アレックス・シャープ
  :ニコール・キッドマン
  :ルース・ウィルソン
 
パンクが若者の間に盛り上がるロンドンの下町で、内気な少年と美しい女性型異星人との48時間限定の恋愛を描いた青春SFラブストーリー。ファッションやサウンドが当時のムーヴメントを活き活きと映し出し、別れが宿命づけられた二人の瑞々しい恋模様が、恋愛から遠くなってしまったオッサンには突き刺さって痛い。
主人公はパンクに熱中する少年。仲のいい友達二人とつるんでパンクバンドのギグ(ライヴとは言わないで)に潜り込んでは同人誌を作り、あーだこーだと青春の日々をダラダラと過ごしていた。あるギグの後打ち上げの会場へ紛れ込もうとするが、そこには誰もいない。ふと見ると売り家に原色の明りが灯っており、そっちかと思い押しかける。そこには奇妙な原色ラバーの衣装をまとった謎の一団が、これまた奇妙なパーティを開いていた。その中で、一人の少女が仲間の制止を振り切って脱走。彼女は主人公と共に飛び出して、パンクを通じてこの世の中を知ろうとしていた。主人公と彼女の間は急速に近くなっていく。彼女の正体は、なぜ48時間しかいられないのか、謎を抱えたまま二人の恋は駆け出していく。
主人公はうん、いいんじゃない、あれで。いかにも気が弱そうなアーティスト志望のステレオタイプ。それよりエル・ファニング。とにかく彼女役のエル・ファニングが可愛い。決して個人的に好みのタイプではないのだが、儚いけども自己を持った存在感にエキセントリックな行動、飛び出す直前は硬かった表情が主人公との恋で笑顔になっていく姿に、おじさんは遠い昔を思い出してしまったよ。まぁ妄想の中だけど。女性プロデューサーにメイクをしてもらって、70年代パンクギャルになっていたが、すべてが懐かしい。リアタイ世代ではないけど。
その二人がステージに上がって即興の掛け合いで歌うシーンが良かった。多分パンクを知らない、興味ないって人には突き刺さらないだろうが、非日常で鬱屈した日常をぶっ飛ばす熱さや、決して本流にはなれないムーヴメントの激しさが、二人のシャウトから伝わった。宇宙SF的な表現もあるが、ただ純粋に惹きこまれた。
女性プロデューサー役にはニコール・キッドマン。一発で分かる存在の濃さがある。白いウィッグにこれも当時のアイラインを入れて、ヤリ手パンクプロデューサーを演じているが、なんか楽しそう。70年代なら当時は10歳前後か。当時のムーヴメントを知っているからこそできた演技だろうし、本人もこういうぶっ飛んだ役が好きなんだろうな。彼女がパンクスどもを引き連れて謎の一団の家を襲撃するシーンはカオスっぷりがあふれてて楽しくなった。
謎の一団は、白・紫・青・赤・オレンジ・黄色と色によってコロニーと呼ばれるグループを作っているが、彼らの目的は種の保全のため宇宙をさまよっているという。そのため彼らが選んだ行為は聞くと怒りを覚えるものだが、彼らの中にも多数決のような民主主義が存在している。その中で恋をした彼女は高みへと昇り、その多数決に影響を及ぼす存在になる。しかし、その多数決の権利を得るためにはこの地から去らなければならない。彼女は苦悩して飛び出すが、主人公と二人夜の団地を眺めるシーンは美しいと感じた。青春のうちに別れを経験することはその後の人生を豊かにすると誰かが言った。俺にもこんなんあったんだよなぁと懐かしんだ。あったよな?、あったと思いたい。
映画的に、ストーリーや演出はいま一つの作品だが、パンクムーヴメントを通して青春を描いた非日常的な普遍的ラブストーリーは疲れたオッサンにはちょっとした癒しになった。でも作品ではセックス・ピストルズやダムド、N.Y.ドールズとかハチャメチャ感のあるパンクへのリスペクトを感じるが、自分が大好きなのは、劇中で酷評されてたザ・クラッシュなんだよな。

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