【3分判例】4位:国籍法違憲判決(最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁)【Ⅰ86】


判断枠組み:①重要な法的地位×②自らの意思や努力によっては変えられない⇒慎重な検討

日本国籍は重要な法的地位であり,父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であることから,こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては,慎重な検討が必要である。
⇒ ○

日本国民である父親から出生後に認知された子の日本国籍の取得をめぐる国籍法違憲判決(最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決,民集62巻6号1367頁)は,婚姻関係にない父母から出生した子について将来にわたって不合理な偏見を生じさせるおそれがあることなどを指摘し,父母の婚姻という事柄をもって日本国籍の取得の要件に区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては慎重に検討することが必要であるとした。
⇒ × この判例は、「不合理な偏見を生じさせるおそれ」という学説の提唱する「スティグマ論」(安西文雄「平等保護および政教分離の領域における「メッセージの害悪」立教法学44号81頁以下)は採用していない。

立法目的:血統主義+我が国とも密接な結びつき(法律婚の尊重ではない)

日本国民である父親から出生後に認知された子の日本国籍の取得をめぐる国籍法違憲判決(最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決,民集62巻6号1367頁)は,日本国民を血統上の親として出生しながら,日本国籍を生来的に取得できなかった子について,日本国籍を生来的に取得した子よりも日本国籍の取得の要件を加重すべきであるとする立法目的には,法律婚を尊重する観点から合理的な根拠があるとした。
⇒ × この判決は、国籍法3条1項の立法目的を「国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたもの」と認定して、合理的な根拠とあると判断したが、法律婚を尊重する観点は理由としていない。

時の経過により「夫婦の婚姻=我が国との密接な結びつき」とはいえなくなった

日本国民である父親から出生後に認知された子の日本国籍の取得をめぐる国籍法違憲判決(最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決,民集62巻6号1367頁)は,日本国民である父親から出生後に認知された子について,父母の婚姻が日本国籍の取得の要件とされている点をして,立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用したものであるとした。
⇒ ○

a.出生後に認知を受けた子について,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させると定める規定は,準正のない子に対し,日本国民である父から胎児認知された又は母が日本国民である非嫡出子と比較して,著しく不利益な差別的取扱いを生じさせている。
b.日本国民が母である非嫡出子は出生時において母の親権に服し,また,胎児認知は任意認知に限られるため,出生の時点で既に血統を超えた我が国社会との結び付きがある。
bの見解は、aの見解の批判となっている。
⇒ ○ bの指摘は、日本国民が母である非嫡出子や、母が外国人であっても日本人の父から任意で胎児認知を受けた子ならば、「血統を超えた我が国社会との結び付き」があるが、出生後認知を受けただけでは、そのような「結び付き」があるとはいえないから、著しく不利益な差別的取扱いとはいえないというaとは逆の結論に導くものである。

条約の国内法的効力は憲法に劣るという立場をとるならば,裁判所が,立法事実の存否を判断するための資料として,国際人権条約を参照することは,許されない。
⇒ × 条約の国内法的効力と立法事実の存否は、まったく別の論点である。この判決も、立法事実の存否を判断するために、国際人権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)と児童の権利に関する条約に「児童が出生によるいかなる差別も受けないとする趣旨の規定」を指摘している。

司法による一部無効による救済も許される

日本国民である父と外国人である母との間に生まれた嫡出でない子につき,父母の婚姻及びその認知等所定の要件を備えた場合に届出により日本国籍が取得できる旨定めた国籍法(平成20年法律第88号による改正前のもの。以下同じ。)第3条第1項は,憲法第14条第1項に違反するが,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた国籍法の趣旨に照らし,同法第3条第1項を全部無効とする解釈は採り得ない。
⇒ ○

国籍法第3条第1項を全体として違憲無効とせず,同項の規定の一部である準正要件を違憲無効とすることで,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,かつ,その後に父から認知された子は,準正要件を除いた所定の要件を満たすときには,日本国籍の取得が認められる。
⇒ ○

国籍法の規定に関し,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子の国籍取得に過剰な要件を設けることにより区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈することは,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するもので,国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されない。
⇒ × この記述は、原審(東京高判平成18年2月28日家月58巻6号47頁)や横尾=津野=古田共同反対意見、甲斐中=堀籠共同反対意見の立場である。この判決の多数意見は、「過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである」から、「日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿う」として、この記述の評価は「当を得ない」と判断した。

出題ランキング4位(令和2年司法試験まで)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?