【疑義あり!】令和3年司法試験憲法第7問ア・ウは○?×?

【訂正】2021年6月3日、法務省の正式回答が出ました。
確認したところ、アについては私の見込みと異なっていたことから、引用枠にてコメントを追記しました。

令和3年司法試験お疲れ様でした!

令和3年司法試験を受験したみなさん、本当のお疲れ様でした。
新型コロナウィルスに起因する緊急事態宣言下にもかかわらず、実施を強行されたことを受け、とまどった方も多かったと思います。

問題文も公表されていますので、早速、短答式の問題を解いてみました。

全体的な感想としては、過去問と似たような問題意識の肢がたくさん出題されており、改めて、出題ランキングや【3分判例】シリーズが役立つものであると再確認できました。

○か×か悩ましい肢―憲法第7問ア

もっとも、次の肢については、○か×か一瞬悩ましいところでした。

大学の学問の自由と自治は,大学が学術の中心として深く真理を探究し,専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づくから,教授や研究者の研究,その結果の発表,研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解されており,大学の学生が学問の自由を享有するのは,教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。(R3-7-ア)

こちらは、以前に扱った東大ポポロ事件判決を題材としたもので、類似の出題はいくつかあります。

東大ポポロ事件判決の肢ア該当部分

東大ポポロ事件判決のうち、本問に関連するのは、次の部分でしょう。

このように、大学の学問の自由と自治は、大学が学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づくから、直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解される。大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によつて自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められるのである。もとより、憲法23条の学問の自由は、学生も一般の国民と同じように享有する。しかし、大学の学生としてそれ以上に学問の自由を享有し、また大学当局の自治的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。

本問で問題となるのは、「大学の学生が学問の自由を享有するのは,教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである」という記述です。

最高裁は、あくまでも「憲法23条の学問の自由は、学生も一般の国民と同じように享有する」と判断しており、「教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである」という条件をつけたのは「それ以上に学問の自由を享有」することに限られます。
この「それ以上に」というのは何を意味しているのかというと、「一般の国民と同じ」学問の自由と比べて、より強く保障されることを意味しています。

国民一般(学生含む)と大学の教授らとで学問の自由の保障の程度が違う

そもそも、最高裁は、学問の自由を保障する憲法23条として、①学問的研究の自由、②研究結果の発表の自由、③研究結果の教授の自由、④大学の自治(特に人事権、施設・学生の管理権)の4つが保障されると判断しています。
しかし、最高裁は、この4つについては、大学と国民一般とで、保障される程度につき明確にコントラストをつけています

①学問的研究の自由②研究結果の発表の自由については、「広くすべての国民に対してそれらの自由を保障する」として国民一般に保障されるとしつつも、「特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである」として、大学おいてより手厚く保障されると判断しています。

また、③研究結果の教授の自由は、一般論としては「学問の自由と密接な関係を有するけれども、必ずしもこれに含まれるものではない」として国民一般への保障を留保する一方、大学においては「保障される」と断言しています。
④大学の自治にいたっては、当然大学の特権であり、国民一般に保障されるわけではありません。

肢アは×か○か?

この部分が理解できていれば、本問は「大学の学生が学問の自由を享有するのは,教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである」としている部分が「×」ということになります。
なぜなら、最高裁が「教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである」としたのは、大学における特別の学問の自由や大学の自治のことであり、学生に国民一般と同程度の学問の自由が保障されていることを否定まではしていないからです。

おそらく、本問を「○」と解答した方は、「大学の学問の自由と自治は,大学が学術の中心として深く真理を探究し,専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づくから,教授や研究者の研究,その結果の発表,研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解されており,大学の学生が(特別な)学問の自由を享有するのは,教授や研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。」として、本問の「学問の自由」は「特別な」学問の自由のことを指していると読み込んでしまったのでしょう。

法務省によると、本文の内容と異なり、アは「○」が正解のようです。
もしかしたら、本肢が「大学の学問の自由と自治は」で始まっていることから、「大学の学生が学問の自由を享有するのは」という部分の「学問の自由」=「大学の学問の自由」と読み込めるという趣旨なのかもしれません。
そういった意味では「ひっかけ問題」ではなかったものの、もっと素直に問題文を読まなければならないということなのでしょうね。
読者の皆様には、お詫びして訂正いたします。

たしかに、最高裁が学問の自由の保障について、大学の教授や研究者と、学生を含む国民一般とで区別していることは重要な知識です。
しかし、本問の記述は、読み込みをしすぎてしまった人が「○」を選択してしまうという意味で「ひっかけ問題」的な側面があるように感じました。

不適切な出題とまではいいませんが、もう少し、正面から知識を問うてもよいのではないかという感想を抱きました。

肢ウも悩ましい!

また、第7問ウについても、よく考えると悩ましいところがあります。

大学における学生の集会が大学の学問の自由と自治を享有するか否かは,その集会が真に学問的な研究と発表のためのものか,実社会の政治的社会的活動に当たるかによって判断されるものであり,その集会が公開か否かといった点は考慮されない。(R3-7-ウ)

こちらも東大ポポロ事件判決であり、過去にも同様の問題意識が出題されていますが、よくよく読むと、だんだんとわからなくなってきます。
というのも、最高裁の説示は、次のように、①東大劇団ポポロ演劇発表会が「実社会の政治的社会的活動」であるかと、②この発表会が「公開の集会」ないしこれに準じるものかという点を2つに区別して判断しているからです(引用文中の①②は筆者による)。

東大ポポロ事件判決の肢ウ該当部分

①学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。②また、その集会が学生のみのものでなく、とくに一般の公衆の入場を許す場合には、むしろ公開の集会と見なされるべきであり、すくなくともこれに準じるものというべきである。
①本件の東大劇団ポポロ演劇発表会は、原審の認定するところによれば、いわゆる反植民地闘争デーの一環として行なわれ、演劇の内容もいわゆる松川事件に取材し、開演に先き立つて右事件の資金カンパが行なわれ、さらにいわゆる渋谷事件の報告もなされた。これらはすべて実社会の政治的社会的活動に当る行為にほかならないのであつて、本件集会はそれによつてもはや真に学問的な研究と発表のためものでなくなるといわなければならない。②また、ひとしく原審の認定するところによれば、右発表会の会場には、東京大学の学生および教職員以外の外来者が入場券を買つて入場していたのであつて、本件警察官も入場券を買つて自由に入場したのである。これによつて見れば、一般の公衆が自由に入場券を買つて入場することを許されたものと判断されるのであつて、本件の集会は決して特定の学生のみの集会とはいえず、むしろ公開の集会と見なさるべきであり、すくなくともこれに準じるものというべきである。そうして見れば、本件集会は、①真に学問的な研究と発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動であり、かつ公開の集会またはこれに準じるものであつて、大学の学問の自由と自治は、これを享有しないといわなければならない。したがつて、本件の集会に警察官が立ち入つたことは、大学の学問の自由と自治を犯すものではない。

最高裁は、①演劇会が「実社会の政治的社会的活動」にあたるか否かについて、㋐反戦植民地闘争デーの一環として行われたこと、㋑演劇の内容が松川事件を題材としたものであったこと、㋒開演に先立ち松川事件の資金カンパが行われたこと、㋓渋谷事件の報告もなされたことという4つの事実だけで肯定しており、演劇会が公開されていたかを考慮していません

演劇会が公開されていたか否かは、あくまでも、②演劇会が「公開の集会」ないし「これに準じるもの」といえるかの認定で考慮しています。

こちらは、過去問でも出題済みですが、警察官の立ち入りが違法ではないと判断するために、最高裁は、演劇会が①「実社会の政治的社会的活動」であり、かつ、②「公開の集会またはこれに準じるもの」であるという2つの要素を認定しています。
つまり、もし、演劇会が①「実社会の政治的社会的活動」ではなく、「真に学問的な研究と発表のためのもの」であれば、これが公開されていたとしても、捜査機関が立ち入ることは、学問研究に対する介入として、学問の自由に対する侵害となり得ます。
仮に、演劇会が①「実社会の政治的社会活動」であるとしても、これが非公開であり、②「公開の集会またはこれに準じるもの」といえない場合には、無令状での立ち入りは、大学の施設管理権との関係で大学の自治の侵害となり得ます(それ以外にも、学生らの思想・良心の自由やプライバシー権の侵害という問題もあるでしょう。)。

こうしてみると、結局は「大学における学生の集会が大学の学問の自由と自治を享有するか否か」については、①「その集会が真に学問的な研究と発表のためのものか,実社会の政治的社会的活動に当たるか」と、②「その集会が公開か否か」という2点が必要となりますので、②は考慮されないとする本問は「×」ということになるでしょう。

このような出題は、判例百選を自力で読むだけでは、なかなかたどり着けないところかもしれません。
しかし、以上で問われている知識は、いずれも過去問で出題されているものです。
そのため、過去問を解きながら、わからないところや間違ったところを確認するときに、判例をもう一度読み直していくことで対応できるようになります。

もし、自力でやるのが難しいという方は、こちらの講義などをご活用ください。


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