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【基本問題】職業の自由―要指導医薬品インターネット販売規制

司法試験や予備試験では、憲法22条1項が保障する「職業」の自由についてもよく出題されます。

これらの問題では、①職業の自由に対する「強力な制限」といえるかの検討方法と、②規制目的が複合的である場合の合憲性の判定基準という2つの論点が典型問題です。
平成22年旧司法試験憲法第1問平成26年司法試験令和2年司法試験のいずれも、同様の問題意識です。

また、論点が比較的明確ですので、法的構成というよりも、当てはめの主張方法で優劣が決まる分野でもあります。
いずれにせよ、先例となる薬局開設距離制限訴訟大法廷判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)の活用方法がキーとなります。

今回は、要指導医薬品対面販売規制訴訟(第一審:東京地判平成29年7月18日裁判所ウェブサイト、控訴審:東京高判平成31年2月6日判時2456号3頁)を題材に、上記①について学習しましょう。

〔問題文〕(配点:100・制限時間120分)
1 医薬品には、許可を受けた「薬局」でしか販売できない「薬局医薬品」と、許可を受けた「店舗販売業者」で販売できる「一般用医薬品」がある。
平成18年改正後の薬事法(旧薬事法)の施行に伴い改正された平成21年改正後施行規則は、一般用医薬品をリスクの程度に応じ、特に高い第一種医薬品、比較的高い第二種医薬品、比較的低い第三種医薬品に分類していた。同規則は、①薬局開設者に対しては薬局医薬品の郵便等販売を、②店舗販売業者に対しては第一類医薬品及び第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁止し、店舗内の情報提供を行う場所において対面で情報提供をし、販売しなければならないと定めていたが、最高裁判所は、②につき、旧薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効であると判断した(最2小判平成25年1月11日民集67巻1号1頁)。

2 消費者に対する調査では、一般用医薬品のインターネット販売の解禁について、賛成が42.5%、どちらとも言えないが41.0%、反対が10.4%であり、51.1%が購入したいと回答し、購入したくないと回答したのは17.9%であった。
 しかし、薬剤師に対する調査では、患者が薬の服用方法が「よく分かる」と考える薬剤師は、店舗で直接対面して行う説明では86.4%であったのに対し、テレビ電話による説明では4.5%,インターネット等の記載を患者に読んでもらう方法では3.4%であった。また、インターネット販売について、購入者の状態がわからないため適切な医薬品を選択する機会が失われ安全性や有効性が確保できないと考える薬剤師は61.4%、医療機関への受診が必要な際も購入者へアドバイスする機会がなくなると考える薬剤師は72.7%であるのに対し、医薬品のインターネット販売について対面販売と同様に適切な医薬品の選択や安全性確保ができると考える薬剤師は5.7%であった。

3 平成25年2月,政府は、各界の有識者により、一般用医薬品全体のインターネット販売等のルールの検討会を設置した。しかし、取りまとめでは、第一類医薬品につき,薬剤師の五感を用いた情報収集により未然に被害を防げた事例があるため、販売に当たっては、薬剤師による目視,接触等を含め,使用者に関して収集され得る最大限の情報を収集できる体制をとるべきとの意見と,薬剤師による目視,接触等に頼らなければ副作用被害や有害事象を防止することができないことは科学的に証明されておらず、必要な情報は収集可能であるとの意見が対立した。

4 その後、医学、薬学の専門家による検討会合が設置され、第一類医薬品のうち、店舗販売が許可されていない「医療用医薬品」を一般医薬品に転用したものや、一般用医薬品としての製造販売の承認前に医療用医薬品として製造販売されたことがないもののうち、製造販売の承認の条件として調査が義務付けられている医薬品(以下「スイッチ直後品目等」という。)は、一般用医薬品として広く様々な状態の下で使用され得る医薬品であるため,新たな健康被害・有害事象が発現するおそれがある上,そのリスクも不明な状況であり,必要なリスク低減方策も採られていないことから,販売時においては,医療用医薬品に準じた最大限の情報収集と,個々人の状態を踏まえた最適な情報提供を可能とする体制を確保した上で丁寧かつ慎重な販売が求められる旨の報告書を取りまとめた。

5 これを受けて,内閣は、医薬品の販売規制の見直し等を内容とする「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律案」を国会に提出したところ,衆参両院で可決され成立した。
 本法は、新たに「要指導医薬品」という分類を設け、スイッチ直後品目等のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものと定め(法4条5項3号)、店舗販売業者に対し,要指導医薬品の販売又は授与を行う場合には薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず(法36条の6第1項),情報提供又は指導ができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない(同条3項)とする対面販売規制を定めた(以下、これらを「本件各規定」という。)。また、薬局開設者に対し、医師や歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬局医薬品の販売又は授与についても、対面による情報提供又は指導を行うことも義務付けている
 なお、国会審議において、対面販売規制の目的は、「健康長寿社会の実現を目指すため、安全性を十分に確保することにある」と説明された。

6 要指導医薬品の品目数は、薬局医薬品では約1万4000品目、一般用医薬品全体では約1万品目に対し、本法施行後から14品目から23品目の範囲内で推移している。また,市場規模は、薬局医薬品では約10兆6000億円、一般用医薬品全体では約9000憶円に対し、要指導医薬品では約50億円である。

7 X社は、医薬品の通信販売業を専門とする株式会社であり、店舗販売業者として適法に許可を得て、本法施行前から医薬品のインターネット販売を行っていた。本法施行を受けて、X社は、要指導医薬品については、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を画面に表示しながら、薬剤師によるテレビ電話での情報提供を実施しなければ購入できない独自のスマートフォンアプリを開発する計画をしており、そのための資金調達を検討しているが、出資を検討しているベンチャーキャピタルから、事業の適法性について疑問が示されている。そのため、X社は弁護士甲に対し、本件各規定は違憲であるとの立場の意見書の執筆を依頼した。

〔設問〕
 本件各規定は違憲であるとの主張をすることができるか。参考とすべき判例や国が行う反論を踏まえて、弁護士甲の立場から、検討しなさい。

【資料】
〇医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)

(開設の許可)
第4条 (略)
2~4 (略)
5 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一~二 (略)
 三 要指導医薬品 次のイからニまでに掲げる医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。
  イ その製造販売の承認の申請に際して第14条第8項に該当するとされた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの
  ロ その製造販売の承認の申請に際してイに掲げる医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が同一性を有すると認められた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの
  ハ~ニ (略)
 四 一般用医薬品 医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの(要指導医薬品を除く。)をいう。

(医薬品、医薬部外品及び化粧品の製造販売の承認)
第14条 医薬品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬品を除く。)、医薬部外品(厚生労働大臣が基準を定めて指定する医薬部外品を除く。)又は厚生労働大臣の指定する成分を含有する化粧品の製造販売をしようとする者は、品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない。
2~7 (略)
8 厚生労働大臣は、第1項の承認の申請があつた場合において、申請に係る医薬品、医薬部外品又は化粧品が、既にこの条又は第19条の2の承認を与えられている医薬品、医薬部外品又は化粧品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が明らかに異なるときは、同項の承認について、あらかじめ、薬事・食品衛生審議会の意見を聴かなければならない。
9~11 (略)

(要指導医薬品に関する情報提供及び指導等)
第36条の6 薬局開設者又は店舗販売業者は、要指導医薬品の適正な使用のため、要指導医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、厚生労働省令で定める事項を記載した書面(当該事項が電磁的記録に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。)を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
2 薬局開設者又は店舗販売業者は、前項の規定による情報の提供及び指導を行わせるに当たつては、当該薬剤師に、あらかじめ、要指導医薬品を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況その他の厚生労働省令で定める事項を確認させなければならない。
3 薬局開設者又は店舗販売業者は、第一項本文に規定する場合において、同項の規定による情報の提供又は指導ができないとき、その他要指導医薬品の適正な使用を確保することができないと認められるときは、要指導医薬品を販売し、又は授与してはならない。
4(略)

※本問は、法学セミナー2021年2月号(木下智史教授)、同3月号(当職)にて解説をしております。

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