2年間で司法試験論文式16位をとった行政法の学習法
行政法は「すぐ」できるようになる
本日は、久しぶりに法律の学習方法について、お話しいたします。
私は、どうやら「憲法」のイメージが強いようですが、ロースクールでは「公法訴訟実務」を担当しており、当然「行政法」も教えています。
また、大島義則[編著]『実務解説 行政訴訟』(勁草書房)の差止訴訟を担当し、平成16年改正以降のほぼすべての裁判例に目を通してまとめるなどの研究活動もしております。
しかし、実は、行政法の勉強を本格的に始めたのは、ロースクール入学後でした。
厳密には、学部時代に磯部哲教授の行政法を履修していたものの、ほぼ出席せず、期末試験も持込みで乗り切り、成績評価は「C」でした。
旧司法試験や第一志望の慶應義塾大学法科大学院は、行政法が試験科目ではなかったので、コスパが悪く、捨てていたのです。
つまり、実質的に行政法を勉強したのは、わずか2年ほどです。
それにもかかわらず、司法試験の論文式試験・公法系科目で全国16位(144.41点)で合格することができました。
(感覚的には、憲法の方ができていたので、行政法の順位はもう少し低いかもしれませんが)
行政法の教科書・参考書
私が、実質的に行政法の学習を始めたのは、慶應義塾大学法科大学院の2年の秋学期でした。
ただ、クラス担当の吉藤正道氏の「行政法Ⅰ」がわかりにくかったので、講義を聞かずに橋本博之教授のクラスの録音で勉強をしていました。
3年の春学期の「行政法Ⅱ」では、橋本教授のクラスになりましたので、まじめに講義を聞いていました。
この時の教科書は、かの有名な「サクハシ」、正式には櫻井敬子=橋本博之『行政法』(弘文堂)です。
この書籍は、従来的な体系所の目次を踏襲しているタイプの基本書ですが、コンパクトな記述の中にエッセンスが詰まっており、通読には最適です。
判例集として、橋本博之『行政判例ノート』(弘文堂)と併用することで、インプット面で不足することはないでしょう。
私のころは、まだ行政判例ノートが出版されていませんでしたが、橋本教授の講義では、この書籍のベースになっているであろうレジュメを用いていました。
行政判例ノートは、メリハリがついているのが最大の特徴です。
短答式用の判例は短く、論文式用の判例は長くあてはめまで引用がされています。
しかも、事案の概要のほか、橋本教授の鋭く簡潔なコメントも書かれているため、判例の意義、ポイント、他の判例との関係などが過不足なく理解できます。
判例百選は、すべての判例が等しく見開き2ページのためメリハリがありませんし、ケースブック行政法も分厚すぎて読む気がしませんでした。
3年の秋学期では「公法総合Ⅱ」というオムニバス講義では、国定教科書ともいわれていた曽和俊文=野呂充=北村和生[編著]『事例研究 行政法』(日本評論社)です。
この書籍は、いずれの事例問題も良問揃いであり、ロースクールの講義経験を踏まえ、躓きやすいところ、勘違いしやすいところを徹底してフォローする解説がなされており、他の科目を見渡しても、これ以上の演習書は存在しないといっても過言ではないレベルの良書です。
本書と司法試験の過去問だけをやっていれば、演習問題の数としては十分です。
行政法の過去問分析は『行政法ガール』が最適
正直申し上げて、実際に私がメインで使った行政法の教材は、サクハシ、行政判例ノート、事例研究行政法の3つのみです。
それ以外は、ひたすら司法試験の過去問分析をしていました。
過去問分析には、大島義則『行政法ガール』・『行政法ガールⅡ」(法律文化社)が最適であることは言うまでもありません。
私のころは出版されていませんでしたので、出題趣旨や採点実感に加え、受験新報、法セミ、予備校教材(ぶんせき本など)を集めて、自分なりに解答筋を考えていました。
今の受験生は、このような手間をかけることなく、良質の回答や答案例にアクセスできるわけですから、買わない手はありません
なぜ行政法は「すぐ」デキるようになるか?
以上の5冊があれば、センスのある人ならば、行政法の司法試験の答案はすぐに書けるようになります。
なぜなら、行政法には、次のような科目特性があるからです。
そもそも、「行政法」という名称の法律は、この世には存在しません。
行政事件訴訟法、行政手続法、行政不服審査法などはありますが、行政法が扱っているのは、無数にある公権力と国民との関係を規律する「公法」のすべてです。
ある憲法学者が「六法全書を虫眼鏡で読んで喜ぶのが行政法学者」と評していたことに対し、ある行政法学者は「まさにその通り。それの何が悪いのか」とコメントをしていたのが印象的でした。
つまり、行政法が研究対象としてるのは、個別の法律に「共通する」特質なのです。
これが何を意味するのかというと、行政法がデキる人は、物事を抽象化する能力が高い人だということです。
たとえば、民法では、物権法と債権法とで分かれるところ、それぞれ物権や債権発生原因(契約、事務管理、不当利得、不法行為)ごとに、規律されているルールが全くと言っていいほど異なります。
そのため、民法がデキるようになるためには、すべての物権、すべての契約類型や債権発生原因をひととおり学び、攻撃防御方法のパターンを理解しなければなりません。
これに対し、行政法では、毎年異なるうえ、ほとんどの受験生にとっては初見の個別法がいきなり出題されるのです。
司法試験の他の科目では、民法ならば民法、刑法ならば刑法から出題されることと比べれば、行政法がいかに異常かがお分かりいただけるでしょう。
つまり、通常の法律科目では、その科目の法律の条文や攻撃防御方法のパターンを学び、いわば「手数を増やす」ことが重要なのに対し、行政法では、判例や事例問題から抽象化されたルールを学び、それを初見の個別法に適用しながら、個別法を読み解くというスキルが重要になるのです。
そのため、行政法の学習方法では、短答式試験は別としても、暗記をすることにほとんど意味はなく、抽象化されたルールの「適用」方法を学ぶことこそが重要になるのです。
センスがなくても大丈夫
このような行政法の科目特性からすると、個別法をすべて「暗記」することは困難です。
通常の法律科目では、「手数を増やす」ために「暗記」が有用ですが、行政法の場合、「手数」よりも、ある種のセンスがものをいうところがあります。
このセンスには、いくつかの種類があるとは思いますが、抽象化されたルールを発見し、個別法に適用することは、因数分解や数列などの数学似ているといえます。
おそらく、数学的なセンスがある人ならば、個別の判例を読んだり、事例問題を解いているうちに、ある種の抽象化されたルールやパターンが見えてくるため、すぐにマスターできるはずです。
かくいう私も、実は、小中高と算数と数学が大得意で、高校3年生まで理系クラスにいたくらいでしたので、「すぐ」デキるようになったのです。
ただ、そのようなセンスがなくても、諦める必要はありません。
「抽象化されたルール」という、いわば暗黙知を言語化している書籍が出版されているからです。
その代表作こそ、橋本博之『行政法解釈の基礎―「仕組み」から解く」(日本評論社)でしょう。
私のころは、この書籍は出版されていませんでしたが、『公法総合Ⅱ』において、橋本教授から手ほどきを受けた内容が、さらに体系化されて詰まっています。
これらの書籍を読めば、慶應義塾大学法科大学院の講義を受講したのと、同程度の教育効果が得られるように思います。
なお、受験生の中では、中原茂樹『基本行政法』(日本評論社)がトップシェアのようです。
こちらの教科書は、行政法の体系を、あえて行政訴訟の切り口から解説する画期的なものですので、売れているのも納得です。
ただ、もう一歩先に行くためには、少なくとも、上記の橋本教授のシリーズと併用することを強くお勧めします。
それ以外にも、冒頭でご紹介した『実務解説 行政訴訟』は、さすがに受験生が通読することは難しいかもしれませんが、要件事実の発想により、実務家の暗黙知や要証事実を明らかにしています。
トピック形式で書かれていますので、気になるトピックだけをつまみ食いしてみるとよいと思います。
特に、本案審理については、参考になる書籍がほとんどない状態ですから、行政裁量のステージ論とあわせて読むとよいでしょう。
以上、雑駁な内容でしたが、行政法の学習法でした。
ご質問がありましたら、BEXAの質問フォーラムよりお願いいたします。