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あゆかす気象学: 状態方程式(乾燥大気,水蒸気,湿潤大気)


状態方程式

歩夢
最初は状態方程式について説明するよ.

かすみ
歩夢先輩,よろしくお願いします.

歩夢
気体の状態方程式の一般系はつぎのように書けるね.
気圧p[Pa],体積V[㎥],モル数n[mol],一般気体常数$${R^{*}=8.31[JK^{-1}mol^{-1}]}$$にたいして

$$
pV=nR^*T
$$

とかけるね.でも気象学ではモルは使わないんだよ.その代わりに密度で表すんだよ.

かすみ
密度って確か質量/体積でしたよね.でも上の状態方程式には質量はないですよ?どうやって質量に持ってくるんですか?

歩夢
まず必要なのは質量を出すことだね.
ここでは乾燥大気の状態方程式を求めよう.そして気圧p[Pa],密度ρ[kg/㎥],温度T[K]で表そう.
質量をm[kg]とすると,モルとの関係は

$$
n=m/M_d
$$

となって$${M_d}$$は乾燥大気の分子量,すなわち1mol当たりの質量[kg]だね.

そうすると状態方程式$${pV=nR^*T}$$は

$$
p=\frac{R^{*}T}{V}\frac{m}{M_d}
$$

かすみ
なぜこうなるんですか?

歩夢
単位を見てみよう.モル数[mol]はmol=kg/(kg/mol)となるね.そうなると上の式が成り立つね.

かすみ
分子量はこの場合どうなるんですか?

歩夢
乾燥大気はいろいろな原子分子が混ざっているね.代表的なものをあげると,窒素$${\mathrm{N_2}}$$,酸素$${\mathrm{O_2}}$$,アルゴン$${\mathrm{Ar}}$$だね.これらの混合気体の分子量を求めよう.
これらの気体に対してi=窒素,酸素,アルゴンとしよう.分子量は1molでどのくらいの質量になるかだね.
1mol乾燥気体があったら,そのうち窒素,酸素,アルゴンの重量比は75.5%,23.1%,1.3%,あとの0.1%は二酸化炭素などの微小なものだけど小さいから省略するね.
窒素,酸素,アルゴンの分子量[kg/mol]はそれぞれ$${28.0\times 10^{-3}, 32.0\times 10^{-3},39.9\times 10^{-3}}$$だね.したがってi=窒素,酸素,アルゴンとして,
$${M_d=m/n=\sum_i m_i/\sum_i \frac{m_i}{M_i}}$$より,

$$
M_d = \left(1/\left(\frac{0.755}{28}+\frac{0.231}{32}+\frac{0.013}{40}\right)\right)\times 10^{-3}=28.97\times 10^{-3} [\mathrm{mol/kg}]
$$

で乾燥大気の分子量は28.97だね.

かすみ
分子量は平均で求めていって,これが乾燥大気の分子量なんですね.一方でほかの値はどうなるんでしょうか?

歩夢
気圧は全圧=それぞれの分子の分圧
体積は総体積=それぞれの分子の体積
温度は平衡状態ならばそれぞれの分子の温度も全体に等しいね.
状態方程式にもどろう.いま

$$
p = \frac{R^{*}T}{V}\frac{m}{M_d}
$$

で密度は$${\rho=m/V}$$となるね.そして乾燥大気の気体常数を$${R_d=R^{*}/M_d= 287 [\mathrm{JK^{-1}kg^{-1}}]}$$と定義すると乾燥大気の状態方程式が得られるよ.

$$
p=\rho R_d T
$$

かすみ
モルで表したものと㎏で表したものの関係性がよくわからなかったがこうやってやるんですね.乾燥大気の状態方程式では気体常数が$${R_d=R^*/M_d}$$と変形していくのがポイントだと思いました.

歩夢
ほかの気体分子でも分子量を求めて,その分子での気体常数をモル一般気体常数を分子量で割ったのをその気体分子での気体常数にすることは,次出す水蒸気でも共通だから覚えていってね.

かすみ
わかりました!

歩夢
状態方程式は大気の熱力学の基本的な変数,温度Tと気圧pと密度ρを結び付ける式だよ.あと温度は絶対温度[K],気圧は[Pa]であることに注意しよう.これを間違えると変な値が出てしまうよ.
たとえば,例を挙げよう.$${p=\rho R_d T}$$で気圧一定とすると,温度Tが高いと密度が低い,つまり軽く,温度Tが低いと密度が高い,つまり重くなるね.密度は1㎥の質量だから,重い軽いといっても差し支えないんだよ.

かすみ
冷たいのは重い,暖かいのは軽いってここから来るんですね.

歩夢
つぎは水蒸気についての状態方程式を求めていこう.そしてそのあとは湿潤大気について求めよう.

かすみ
はーい!

歩夢
水蒸気だけについての状態方程式を求めていこう.まずモルで表した状態方程式から始めるよ.圧力を$${p_v}$$,モル数を$${n}$$,温度を$${T}$$と表すと,(vはvapourという意味)

$$
p_v V = nR^*T
$$

先ほどの変形を行おう.密度$${\rho_v}$$にするために,分子量$${M_v=18\times10^{-3}}$$[kg/mol]を使って
$${n=m/M_v}$$と書き換えて,

$$
p_v=\frac{m}{V}\frac{R^*}{M_v}T
$$

とかけて,水蒸気の気体常数は

$$
R_v = \frac{R^*}{M_v}=462[\mathrm{JK^{-1}kg^{-1}}]
$$

となって,状態方程式は,

$$
p_v = \rho_v R_v T
$$

となったね.

かすみ
乾燥大気と同じ感じに出すんですね!ここ導出過程は覚えておきたいですね!

歩夢
そうだね!次は湿潤大気の状態方程式に移ろう.

かすみ
よろしくお願いします!

歩夢
湿潤大気とは乾燥大気に水蒸気が加わったものだね.そうすると状態方程式はこうやって書きたいね.下の添え字のwはwetを表すとして,

$$
p_w=\rho_w R T
$$

となりそうだね.
つまり

$$
(p_d+p_v)=(\rho_d+\rho_v)RT
$$

となりそうだね.

かすみ
でも気体常数はどうなるんですか?さっきと違いと思いますが…

歩夢
そうだね.じゃあこの式とべつに乾燥大気の状態方程式と湿潤大気の状態方程式を足し合わせてみよう.

$$
(p_d+p_v)=(\rho_d R_d+\rho_v R_v)T
$$

さて気体常数が複数あるね.でもこれをこう表してみたいね.気体常数は乾燥気体のものそのままで

$$
(p_d+p_v)=(\rho_d+\rho_v)R_d T_v
$$

という風に.

かすみ
でも歩夢先輩,これって無理やり過ぎませんか.

歩夢
じつはそうで,ここでの温度は普通の温度とは違うんだよ.

かすみ
そうだと思っていました.

歩夢
じゃあここでの温度$${T}$$は仮温度といって$${T_v}$$とするんだよ.さて仮温度の具体的な形を求めていこうね.
まずこの式を比べてみよう.

$$
(p_d+p_v)=(\rho_d+\rho_v)R_d T_v
$$

$$
(p_d+p_v)=(\rho_d R_d+\rho_v R_v)T
$$

二つ目の式をこう書いてみよう.

$$
(p_d+p_v)=\left(\rho_d +\rho_v \frac{R_v}{R_d}\right)R_d T
$$

両者の式を連立してみよう.

$$
(\rho_d+\rho_v)R_d T_v=\left(\rho_d +\rho_v \frac{R_v}{R_d}\right)R_d T
$$

これを仮温度$$T_v$について解いてみると,

$$
T_v = \frac{\rho_d +\rho_v \frac{R_v}{R_d}}{\rho_d+\rho_v}T
$$

分母と分子を$${\rho_d}$$で割ってみよう.
そして混合比$${w}$$を$${w=\rho_v/\rho_d}$$と定義すると

$$
T_v = \frac{1 +\frac{R_v}{R_d}w}{1+w}T
$$

これが仮温度の具体的な形だね.

かすみ
混合比$${w}$$って,水蒸気の密度と乾燥大気の密度の比で定義されるんですね.そして,これってつまり,水蒸気の質量と乾燥大気の質量の比に対応することになりますね.

歩夢
混合比の単位は[kg/kg]で無次元量だね.解釈としては,かすみちゃんの言う通りだね!もっとわかりやすく,乾燥大気が1kgあったら,水蒸気がどのくらいあるかを示しているね.
ここで仮温度の形ってちょっと複雑だから,近似式を出してみよう!

かすみ
確かに,複雑ですね.ふつうの温度との関係がよくわからないです.

歩夢
混合比$${w}$$は高々約50g/kgで,$${50\times 10^{-3}}$$で1より十分に小さい,つまり$${w \ll 1}$$となるね.
したがってwについて一次までテイラー近似をしてみよう.

$$
T_v = \frac{1 +\frac{R_v}{R_d}w}{1+w}T = \frac{1}{1+w}(1+\frac{R_v}{R_d}w)T
$$

$$
\approx (1-w)(1+\frac{R_v}{R_d}w)T \approx (1+(R_v/R_d-1))T
$$

$${R_v/R_d=1.6097…}$$より

$$
T_v \approx (1+0.61w)T
$$

の近似式が得られるね.したがって$${T_v \geq T}$$となって,仮温度は湿潤大気ならば,温度より大きいね.

かすみ
でも仮温度ってどういうものなんですかね?湿潤大気での補正した温度なんでしょうか?

歩夢
そんな認識で大丈夫だよ.温度のように扱っても大丈夫だよ.

かすみ
いくつか出てくる状態方程式についてまとめて理解することができました.

歩夢
最後に一問演習問題に挑戦しようね:

大気中の水蒸気の密度をρv,水蒸気を除いた空気(乾燥空気)の密度をρd とするとき,
ρd とρv の鉛直分布について述べた次の文(a)~(c)の下線部の正誤の組み合わせとして
正しいものを,下記の①~⑤の中から 1 つ選べ。
(a) ρd は,対流圏内では鉛直方向にほぼ一定とみなすことができる。
(b) 500hPa 等圧面上のρd は,熱帯域の方が極域よりも小さい傾向がある。

第53回一般問1 (c)は省略

かすみ
この問題は状態方程式「p=ρdRdT」を使って解けそうだね.
まず(a)は対流圏では上層ほど気温が低いし,気圧も低いね.求めるのはρで

$$
\rho_d = \frac{p}{R_d T}
$$

で上層のほうを気圧200hPa,温度-43℃,下層を気圧1000hPa,温度27℃にすると,それぞれ[Pa],[K]に直して

上層

$$
\rho_d = \frac{20000}{R_d 230}\approx 87/R_d
$$

下層

$$
\rho_d = \frac{100000}{R_d 300}\approx 333/R_d
$$

で鉛直方向に密度は一定ではないから「誤」ですよね?

歩夢
合っているよ!気圧が上空ほど低いから密度も同様にと直感でも考えられるが,今回習った状態方程式を使うと定量的に理解できるね.

かすみ
次に(b)は500hPa=50000Paでは,熱帯域のほうが温度が高いね.$${\rho_d=p/R_d T}$$から,熱帯域のほうが密度が小さくなるから「正」だと思います.

歩夢
正解だよ!直感でも暖かいほうが膨張している,つまり同じ質量でも体積が膨張していることから,密度が小さくなることが推測できるね.

かすみ
歩夢先輩,補足ありがとうございます!

歩夢
かすみちゃんありがとう!
今日はここまでかな.

かすみ
ありがとうございました!

参考文献

小倉義光 (2016) "一般気象学" 第二版改訂版
James R. Holton, Gregory J. Hakim (2012) "An Introduction to Dynamic Meteorology" Fifth Edition

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