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あゆかす気象学: 静水圧平衡

かすみ
今日は,静水圧平衡についてですね.

$$
\frac{\partial p}{\partial z} = - \rho g
$$

ってどういう意味かちょっとわからないので歩夢先輩を呼んで教えてもらうことにしました~

歩夢
静水圧平衡って意味は意外と単純だよ.
かすみちゃん,気圧ってどういう意味かわかる?

かすみ
気圧って空気の圧力で圧力ってたしか力/面積で出てきますね.

歩夢
力は何によるものかわかる?

かすみ
えーと,今回は空気の重さのことですかね…?

歩夢
そうだよ!つまり気圧とは,空気の重さのことだね.
じゃあ静水圧平衡の式をよく見てみよう.
偏微分のかたちだとわかりにくいから,こうしてみようね.
まず考えるのは気圧差$${\Delta p}$$は何に対応するか示してみよう.
断面積が1㎡の気柱を考えよう.ここで高さ$${\Delta z}$$にはどのくらいの空気の重さがあるか考えてみよう.かすみちゃんに質問するね.

かすみ
$${\Delta z}$$の空気の重さは,空気の質量×重力加速度ということで空気の質量って何に対応するんだろう…

歩夢
密度だね.密度って,1㎥あたりの質量だね.いま断面積は1㎡で高さは1mじゃなくて$${\Delta z}$$だから,空気の重さは$${\rho g \Delta z}$$になるね.ここで気圧差との関係を考えてみよう.

かすみ
気圧は,空気の重さで,大気の一番上からの合計の空気の重さかな?

歩夢
そうだよ.そのうち,大気の一番上まで伸びる気柱のうちある部分の$${\Delta p}$$だね.その部分の高さを$${\Delta z}$$にしてみよう.断面積は1㎡としたね.したがって$${\Delta p}$$は空気の重さで密度で表した$${\rho g \Delta z}$$に対応するね.ここでひとつ注意すべきことがあって,高度zは上空ほど高いが気圧pは上空ほど小さいから,どちらかにマイナスをつけて次の関係が生まれるね.

$$
-\Delta p = \rho g \Delta z
$$

これは静水圧平衡の関係を差分で表したものになるね.これを$${\Delta z}$$でわって,

$$
\frac{\Delta p}{\Delta z} = - \rho g
$$

この差分を無限小にして,それぞれの水平座標(x, y)での気柱である時間について考えると

$$
\frac{\partial p}{\partial z} = - \rho g
$$

となって最初の偏微分で表した式になるよ.

かすみ
わかりやすいです!つまり静水圧平衡って大気上端まで伸びる気柱のうちの,ある部分をとってきたときの空気の重さとその部分の高さの関係なんですね.でもなんで「静水圧平衡」で大気の運動が止まっていることを意味しているんですか?

歩夢
いい質問だね.実はこの式は,大気に鉛直加速度があると成立しないんだよ.じゃあある気塊の鉛直運動に注目してみよう.
運動方程式を思い出そう.

かすみ
質量×加速度=力」の式ですか?

歩夢
そうだよ!鉛直速度をwとして加速度は速度の時間部分でDw/Dtとなるね.右辺の力を考えよう.

かすみ
その気塊には重力が働きそうですね.での重力だけにするとその気塊はしたに落ち続けるだけになりそうですね.

歩夢
気圧傾度力というのを考えよう.高気圧と低気圧があると,空気は高気圧から低気圧に向かうね.このとき空気はある力をうけるね.その代表的な力は,空間位置的な気圧の差で生じるから,気圧傾度力とよばれるね.この例は水平運動で,ほかにもコリオリ力がかかるが今度詳しく説明するね.
実はこの気圧傾度力は,水平方向だけではなく鉛直方向にも働くんだよ.鉛直方向に注目すると,上空ほど気圧が低いね.そうすると,高い気圧の下層から低い気圧の上層にむけて力がはたらくね.

かすみ
つまり,気塊にかかる力は,鉛直上向きの気圧傾度力と鉛直下向きの重力ということで,運動方程式は

質量×加速度 = 上向き気圧傾度力+下向き重力

になりますね.

歩夢
数式に書き下ろしてみると,質量mは密度$${\rho}$$にしてみて

$$
\rho \frac{Dw}{Dt} = - \frac{\partial p}{\partial z}-\rho g
$$

となって,静水圧平衡は左辺がゼロ.つまり鉛直加速度がないときに右辺について

$$
- \frac{\partial p}{\partial z}-\rho g = 0
$$

となるね.

かすみ
つまり鉛直加速度が存在してしまうと,静水圧平衡は成り立たないんですね.したがって鉛直運動についてつよい仮定ですねとなりますね.

歩夢
そうだね.静水圧平衡は仮定として使われて,水平スケールの大きい総観スケール以上の運動でしばしば適用されるんだよ.

かすみ
静水圧平衡は強い仮定ですが,応用例はあるんですか?

歩夢
層厚の関係だね.層厚は温度に比例するというものだよ.

$$
\frac{\partial p}{\partial z}= - \rho g = -\frac{p g}{R_d T}
$$

状態方程式$${p=\rho R_d T}$$を使って変形したよ.
もしくは差分$${\Delta}$$でかくと,

$$
\Delta z = - \frac{R_d \bar{T}}{g} \Delta \ln p
$$

が得られるね.ここで$${\bar{T}}$$は$${\Delta z}$$の気層の平均温度としよう.

この式をよく考えてみよう.
ふたつの気圧の間において,その間の平均気温が高いと高度差は大きくなるんだよ.

かすみ
え,どういうことでしょうか?

まずふたつの気圧面があって,高度の低いほうを$${p_0}$$,高度の高いほうを$${p_1}$$としよう.これは固定するものとして,気圧は$${p_0}$$のほうが高く,$${p_1}$$のほうが低いことと,高度と大小関係が逆になることに注意しよう.$${\Delta \ln p}$$は差分と同質のものだよ.そして,高度と符号が逆だから,気圧の項のほうにはマイナスをつける必要があるね.
じゃあこのふたつの気圧面$${p_0, p_1}$$の間の高度差は$${\Delta z}$$と結び付けられるね.
そしてこの高度差は気層の平均温度と比例するんだよ.
つまり,同じ気圧面の差分があれば,平均気温が高いほど,高度差は大きくなって,平均気温が低いと高度差は小さくなるということだね.これって空気が暖かいと膨張して,冷たいと収縮するのに対応するね.

かすみ
わかりやすい説明です!ありがとうございます!

歩夢
ただし,この結果は静水圧平衡の仮定があるときだけ成り立つものだよ.式変形には状態方程式を使ったね.
最後にひとつ演習問題にチャレンジしてみよう.

湿潤空気について述べた次の文章の空欄(a)〜(c)に入る適切な語句の組み合わせを,
下記の①〜⑤の中から一つ選べ。ただし,大気は静力学平衡の状態にあるものとする。
ある湿潤空気に対して,同じ圧力,同じ$(密度/比熱)$をもつ乾燥空気の温度を仮温度と定義
することにより,湿潤空気の状態を表す式として,乾燥空気に対する状態方程式を用いる
ことができる。ある気圧における湿潤空気の温度と仮温度とを比べると,仮温度の方
が$(高い/低い)$。ある地点において高度
H から大気上端までの空気の仮温度が高いほど,
高度
H での気圧は$(高い/低い)$。

第52回一般問2 一部編集

かすみ
仮温度の定義は,

$$
Tv\ s.t.\ p=(\rho_d + \rho_v)R_d T_v
$$

で,乾燥大気の状態方程式は

$$
p = \rho_d R_d T_d
$$

気圧は同じだから両者の右辺を比べると第一式の$${\rho_w=\rho_d+\rho_v}$$は第二式の$${\rho_d}$$に対応するね.したがって密度ですね!

歩夢
正解だよ!そもそも仮温度の定義に比熱ということばは出ないね.

かすみ
二つ目は仮温度の近似式だが,$${T_v \approx (1+0.61w)T}$$でかっこ内は混合比$${w}$$は正だから,1以上だね.そうすると,仮温度は必然的に温度より高くなると思います!

歩夢
そうだね!これはさっき言ったとおりだね.じゃあ最後の部分はわかるかな?

かすみ
うーん…多分,今日学んだ静水圧平衡,層厚の式を使うのかな…でもどう使えばいいかわからない…仮温度というところに混乱している…

歩夢
ある高度Hは固定されているね.大気上端までの高度は気圧がゼロになる高度で,その高度は限りなく高いね.まあとりあえず$${z_0}$$と置こう.
湿潤大気の仮温度は(a)から同じ密度をもつ乾燥大気の温度に対応するね.仮温度が高いということは層厚の関係式,高度差$${\Delta z}$$は同じ気圧差に対して気層の平均気温に比例しているね.ここでいま高度差は$${\Delta z = z_0-H}$$で一定だね.じゅあこの逆を考えて,高度差が一定ならば,対数をとった気圧の差$${\Delta \ln p}$$,まあこれはふつうの気圧差に対応しているものは,気層の平均気温に逆比例するね.まあ式をもう一度書いてみると

$$
- \Delta \ln p = \Delta z/R\bar{T_v}
$$

と書けるね.仮温度が高いということは気圧差$${-\Delta \ln p}$$は小さくなるね.$${-\Delta \ln p= p-0}$$よって高度Hの気圧は,小さいね.ここでマイナスがついているのは高度が上層ほど大きいことに対応させるためだね.

したがって最終的な答えは,
密度,高い,低い
の順になるね.

かすみ
仮温度は湿潤大気にとっての温度だからそのまま普通に温度と同質に扱ってもいいんですね.そこに層厚の関係を考えてみるというわけですね.でもなんで乾燥大気ではなくて,湿潤大気でもそのまま層厚の関係が,仮温度バージョンで使えるんですか?

歩夢
いい質問だね.じゃあもう一度層厚の関係を湿潤大気バージョンで出してみよう.
まず仮定として,静水圧平衡があったね.

$$
\frac{\partial p}{\partial z} = - \rho g
$$

で,ここで,湿潤大気の仮温度とは,湿潤大気の気圧,密度に対して,同じ気圧,密度を持った乾燥大気の温度に対応するから,そのまま湿潤大気の状態方程式,

$$
p = \rho R_d T_v
$$

を上の静水圧平衡の式の密度に代入して

$$
\frac{\partial p}{\partial z} = - \frac{RT_v}{p}
$$

これを差分の形で書いてみると,

$$
\Delta z = R \bar{T_v} (-\Delta \ln p)
$$

となって,乾燥大気の層厚の式と同質な式が得られたよ!

かすみ
歩夢先輩,ありがとうございます!重要なことで,湿潤大気の仮温度は,乾燥大気の温度と同質なんですね.

歩夢
そうだよ!あと層厚の関係は静水圧平衡の関係式から得られる重要な結果で繰り返し出るからちゃんと覚えていてね.
今回出た重要な公式はこちらだね

$$
T_v = (1 + 0.61w)T\ s.t.\ p = \rho R_d T_v
$$

解釈は,湿潤大気の温度で,これと同じ気圧,密度をもつ乾燥大気の温度に等価であるね.

$$
- \Delta p = \rho g \Delta z
$$

解釈は,大気上端まで伸びる断面積1㎡の気柱で,気圧とは観測点から大気上端までの空気の重さの総和に対して,その気柱から高度差$${\Delta z}$$の直方体を取り出した時に,そこに含まれる空気の重さ,つまり気圧差との関係を示しているね.その気圧差はちょうどその地点の空気の重さ$${\rho g \Delta z}$$に対応することを言っているね.


静水圧平衡の図的解釈

ここから得られるもので層厚の式は

$$
\Delta z = - R\bar{T} \Delta \ln p
$$

となるね.湿潤大気の場合は$${T}$$を$${T_v}$$と置き換えれば大丈夫だよ!
これの本質は,あるふたつの気圧面があれば,その高度差,つまり層厚は平均気温に比例すること,もしくは逆にみれば,ある一定の高度差があれば,気温が高いほど気圧差は小さいということになるね.そして気圧差は平均気温に逆比例することだね.

かすみ
今日の内容の重点がまとめてわかりました!

歩夢
かすみちゃん,お疲れ様!

かすみ
歩夢先輩,ありがとうございました!次回もよろしくお願いします!

参考文献

小倉義光, (2016) "一般気象学" 第二版補訂版

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