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ドミニカ共和国の野球コメディ:日本未公開野球映画を観る(43)

Ponchao(2013)

※「日本未公開野球映画を観る」カテゴリーの作品については、基本的に結末まで紹介しています。ご了解のうえお読み下さい。

前代未聞の完全試合

 ドミニカ共和国の野球映画。このカリブ海の野球大国で製作された野球映画は本作を含めて3本ほど確認できている。
 草野球で投げていた主人公アレックスはプロ野球の新球団Gallos Del Cibaoにスカウトされ、仲間とともに年齢を若く偽って契約に臨んだところ、出生証明書が偽造であるのがバレるが、監督の温情で入団にこぎつける。ストーリーは、アレックスが先発した優勝決定シリーズの試合と彼の過去を行きつ戻りつ進行する。
 アレックスは若作りした化け物のような球団オーナー夫人に関係を迫られ、そこに夫が踏み込むが、自分はゲイだと偽って逃れた。そのためゲイを装って投げる羽目になり、「オカマのバレリーナ」のような大袈裟な仕草をマウンドでやり続ける。なおかつ、彼はこの試合で完全試合の達成に持ち金すべてを賭けているので走者を出すわけにはいかず、「オカマ投げ」と全力投球を両立すべく奮闘する。
 完全試合の進行と投手の過去のエピソードを交互に見せる演出は、ケビン・コスナーの『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(1999)もそうだったが、そのセンチメンタルさとは対照的に本作はドタバタ・コメディである。活気ある球場の風景は楽しく、明るい光と華やかな色彩に充ちた映像はなかなかきれいだ。

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盛り沢山さと「無理矢理」感

 挿入される過去のエピソードは、昔スカウトらしきあやしいアメリカ人に「メジャーリーガーになれる」と言われて家を出たまま戻らなかったアレックスの父親、そこから野球嫌いになった母親、同じスカウトに誘われて断るアレックス、オーナーの孫で実力も人望もないエース、そのエースに下剤入りのスープを食べさせるアレックス、チームよりセクシーなチアリーダーで客寄せするオーナー、落ちぶれた父親の20年ぶりの帰還、自チームの負けに賭けて試合中に用心棒にアレックスを襲わせるオーナー等々盛り沢山で、とりあえず退屈はしない。
 ただこれらのエピソードは、この国の野球とそれを取り巻く環境の一端を垣間見せてはいるものの、ストーリーとしては「無理矢理」感が否めない。この国の野球選手がメジャーリーガーをめざすなら、メジャー球団や広島カープが運営するアカデミーに入り(そこまでにも私的な育成や熾烈な競争があるが)、そこで実力を上げて認められて、という大きなルートがある。それ以外の道も皆無ではないかもしれないが、草野球をやっていたら通りがかったメジャーのスカウトに見出され…、というのは荒唐無稽だろう。なので、父は自称スカウトに騙されたのかと思えば、アメリカには行ったが本当の年齢がバレて(父も誤魔化していた)そもそも野球ができなかったというが、説得力は感じられない。
 アレックスの「オカマ投げ」も、この国の(2013年時点の)ゲイへの見方を表しているのかもしれないが、今どきこれはないだろうという感じだ。上のようにストーリーを説明したが、アレックスがなぜ「オカマ」キャラなのかは実は後半までわからない。しかしその「種明かし」をそこまで引っ張る必要があったかも疑問だ。アレックスの登場によってゲイのプロ野球選手の是非が議論になったことも描かれ、ペドロ・マルティネスとデービッド・オルティーズ(いずれも本人)がテレビ番組の中で肯定的な意見を言う場面がちょっと面白い程度だ。
 そうしたストーリーやキャラクターの作り方はともかく、野球映画として魅力的なシーンが少なかったのは残念に思う。アレックスは父もその父もそのまた父も抱きながら叶わなかった野球の夢を実現させたわけだが、それを前代未聞の「オカマ投げ」でやらせる必要はあっただろうか。試合終盤に母親がスタンドに現れた後はふつうに戻ってはいるが。
 結末は、9回2死2ストライクで腕を傷めたアレックスが「メジャーに行くためにもう投げるな」と止める監督に従わずに最後の一球を投げ、三振で完全試合を達成。出生証明の偽造の罪で100時間の社会奉仕を命じられるが、恋人と結婚して子どもたちに野球を教える。

 題名のPonchaoは「三振」の意味。舞台となる球場はこの国第2の都市サンティアゴにあって1万8千人を収容するエスタディオ・シバオで、ドミニカン・リーグのアギラス・シバエーニャスの本拠地である。この球団は1933年創設と長い歴史があるので「モデル」とは言えないだろうが、チームカラーは同じ黄色でビジュアル的には似ている。

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