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少年野球をどうドラマ化するか:日本未公開野球映画を観る(53)

Dealin’ With Idiots(2013)

※「日本未公開野球映画を観る」カテゴリーの作品については、基本的に結末まで紹介しています。ご了解のうえお読み下さい。

少年野球チームのドタバタ

 コメディアンが自分の子どもの少年野球チームをめぐる大人たちのドタバタの経験を映画化した即興的なコメディ。
 コメディアンのジェフ・ガーリンは息子が入ったリトルリーグのチームに集まる保護者やコーチたちがあまりにも奇妙であるのを見て、彼らのインタビューから成るドキュメンタリーの製作を思いつく。そこからのプロセスをコメディ映画にしたものが本作で、親やコーチの多くはコメディアンが演じている。
 保護者たちは、やたら栄養や食事にうるさかったり、口論好きのレズビアンのカップルだったり、セクシーなベビーシッターだったりと確かに奇妙で、プリントショップを経営する見栄っ張りのコーチは、子どもたちにバットは肩にのせて決して振るな(=フォアボールで出塁しろ)と指示する。
 そんな大人たちに対して主人公(役名はマックス・モリス)とその妻だけは常識的という設定で進行するが、最後の試合の場面で彼も「壊れる」。コーチの指示に従わずバットを振ってヒットで出塁した自分の息子を1塁に駆け寄ってハグしたところ、走者に触るのを再三注意していたコミッショナーにアウトを宣告されてしまったのだ。壊れたマックスは誰彼なくハグして回るが、それはセクシーなベビーシッターにハグする口実だったことが妻にばれて怒られるというオチ。結局マックスも、いや彼こそがidiot(愚か者)だったということになる。

単なる「変な大人たち」

 それだけである。少年野球チームの奇妙な大人たちを描くというので、自分の子どもを応援するあまり暴走するとか、選手起用や戦術をめぐって文句を言ったり対立したりとかいったエピソードが展開するのかと思いきや、野球は最後だけで、単なる変な大人が入れ代わり立ち代わり意味不明の言動をする場面がほとんどを占める。本作でも「野球は背景に過ぎない」という決まり文句を繰り返さざるを得ない。
 個々のエピソードが面白ければそれでもいいのだが、どうもそうは思えない。文脈や背景がわからないためギャグが面白くないのかとも思ったが、アメリカでの批評もおおむね厳しく、前提を共有していないため面白さがわからない、ということではなさそうだ。

子と親と指導者のドラマは?

 少年野球では選手である子どもと、指導者と保護者という大人が密に関わり、相互の利害は時に対立し、時に一致する。親は誰しも自分の子どもがいちばん大事だが、指導者や他の子ども、その親たちの言動は、自分の子どもの利益に合うこともあれば反することもある。そうしたエゴがしばしばぶつかり合う一方、チームとして力を合わせたり、ゲームのあまりの面白さにはらはらしたりもする。
 そうした意味でドラマになる要素は豊富だし、少年野球を舞台にした映画自体は決して少なくない。その中で指導者は時に重要な役割を果たすが、親はたいてい単なる背景に甘んじており、子どもと親と指導者が野球を軸に展開するドラマがほとんど見当たらないのは残念なことだ。本作が選んだ題材はそんな作品になり得たと思うが、結局「かすりもせずに」終わってしまい、83分の短い作品ながら最後まで観るのがやっとだった。

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