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社会人博士課程を振り返って:仕事と研究と子育てに奮闘した日々

この記事は,社会人学生 Advent Calendar 2019という企画に(勝手ながら)乗っかり,自分の経験を皆様にシェアしたいと考えて書きました.

※2019/12/24追記:24日目に空きが出たので私の記事を登録しました.
※2021/07/23追記:博士論文と学位審査で使用したスライドを公開しました.

私は,社会人として働きながら,2019年5月に大阪大学大学院で博士(工学)の学位を取得しました.
大学院在学中においては,同じ境遇の諸先輩方が書いた記事がとても参考になったと感じております.
以下は,参考になった記事の一例です.

研究日記 番外編 ~働きながら情報学分野で学位をとる~
社会人ドクター在学の3年間を振り返る
社会人博士課程を修了しました

私の記事も,社会人学生として大学院在学中の皆様,そして,これから社会人学生になろうと検討中の皆様への一助となれば幸いです.

経歴

私の簡単な経歴を紹介します.

・2009年3月:学士(理工学)を取得する.なお,現在の専門とは全く関係の無い研究分野なので,細部は省略します.
・2009年4月:情報通信関係の仕事に就き,現在に至る.
・2010年11月:結婚する.
・2011年4月:第一子(長女)が誕生する.
・2013年4月:組織の命令により,北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)情報科学研究科博士前期課程に入学し,情報セキュリティ(特に,暗号技術)の研究を始める.この時は「フルタイムの学生として学位を取得すること」が仕事でしたので,社会人学生と見せかけて社会人学生とは言えないかもしれません.
・2014年5月:第二子(長男)が誕生する.
・2015年3月:JAISTで修士(情報科学)を取得する.
・2015年4月:職場に復帰し,大学院での経験を活かした業務に従事し,現在に至る.
・2017年4月:社会人学生として,大阪大学大学院工学研究科博士後期課程に入学し,情報セキュリティ(特に,暗号技術)の研究を続ける.なお,大阪大学大学院に進学した理由は,JAIST在学時の指導教授が大阪大学大学院に異動したからです.
・2019年5月:大阪大学大学院で博士(工学)を取得する.
・2019年12月現在:研究職では無いため,趣味として研究を続けている.

この記事のメインは,社会人学生として過ごした大阪大学大学院博士後期課程に纏わる話になります.
また,ご覧のとおり,2人の子供を持つ父親でもあるため,子育てに奮闘中の方にも参考になる話を書いていきたいと思います.

博士前期課程:研究と子育てに奮闘した日々

経歴でも書いたように,JAIST博士前期課程にはフルタイムの学生として在学していました.
博士前期課程の話は本記事の趣旨にそぐわないと思いますが,社会人学生としての全ての始まりがここにあると思っているので,つらつらと書いていきたいと思います.

当時,もうすぐ3歳になる娘を連れ,家族3人で石川県能美市にあるJAISTへ引越しました.
JAISTには家族連れの留学生が多く,光熱費と家賃を合わせて2万円もしない家族寮(テーブル,冷蔵庫などの家具付き,無料で大学のネット環境利用可,しかもかなりキレイ)があります.
我らも数少ない日本人ファミリーとして家族寮に入居しました.

平日のタイムスケジュールは,ザックリと次のような感じです.

・5時頃:朝のランニング
・8時半頃:娘をJAIST正門前まで送り,幼稚園バスに乗せてから研究室に向かう.
・12時〜13時:家族寮に戻って妻とお昼ごはんを食べてから研究室に向かう.
・15時頃:JAIST正門前に向かい,幼稚園バスで帰ってくる娘を迎えてから一緒に家族寮に帰り,研究室に戻る.
・18時〜21時:子供らを風呂に入れ,夕食を食べさせ,寝かしつけをする.
・21時以降:研究(実験,論文)の進捗がヤバい時は研究室に向かうが,基本は家でゆっくりする.

家族寮と研究室を5分くらいで往復できたので,家族と過ごす時間も多く取れ,とても良い生活が送れていたと思っています.
また,M1の後半から妻が妊婦となり,M2の5月には第二子が誕生したので,研究と子育てを両立できる環境に身を置けたことは,とても良かったと思っています.

余談ですが,朝のランニングをオススメします.ランニングをすると疲れて研究どころじゃないと思いきや,脳が活性化されて良いアイディアが浮かんできます.私の研究成果の大部分は,ランニング中に生まれたものばかりです.

ここで本題に移りますと,冒頭で「社会人学生としての全てがここにある」と申し上げましたが,その理由は,JAIST博士前期課程で予想以上に多くの研究成果を出せたから,そして,何よりも研究がとてつもなく楽しく,やりがいのあるものだと感じたから,というのがとても大きいです.
ちなみに,JAISTでの研究成果は,国際会議での発表が3件(全て査読付き論文として採択,うち1件は修了後に発表)でした.

指導教授から「査読付き論文として3本分の成果を出せたので,このまま研究を続けて博士号取得を目指した方が良い」とのお言葉をいただきましたが,仕事の都合上,そのままフルタイムの学生として博士後期課程に進学することが不可能なため,断念せざるを得ませんでした.
そこで,指導教授から「社会人学生として働きながら博士号取得を目指すのであれば,博士後期課程に進学する前に査読付きジャーナルが3本分あると課程期間を短縮して修了することも可能になるため,JAISTでの研究成果をさらに発展させ,査読付きジャーナルとして研究成果を残した方が良い」とのアドバイスをいただきましたので,まずは社会人学生になる前に査読付きジャーナルとして3本分の成果を残すことを目指しました.

JAISTでこれだけの成果を残せていなければ,そして,研究が楽しくてやりがいのあるものと感じていなければ,社会人学生として博士後期課程への進学を目指していなかったと思います.

博士後期課程:仕事と研究と子育てに奮闘した日々

経歴をご覧いただくとわかるように,JAIST博士前期課程を修了してから2年後に大阪大学大学院博士後期課程に進学しました.
この2年間でなんとか,査読付きジャーナルとして3本分の成果を残すことができました.こんなにも順調に成果を残せるとは思っていませんでしたが,私の研究分野では実験用に特別な機器等を必要とせず,パソコンさえあれば研究できることが大きかったのかもしれません.

この2年間は,社会人学生になるための事前準備として,とても有意義な期間でした.働きながらどうやって研究していくのか,子育てなど家族と過ごす時間をどのようにしていくのか,などなど,最初は上手くいかないことも多かったのですが,試行錯誤しながら徐々に仕事と研究と子育てをバランス良くできるようになったのは本当に良かったと思っています.
また,この期間中に妻と議論を重ね,博士後期課程への進学に関して同意を得られたこともとても大きかったです.
博士後期課程を修了するまでの間,少しケンカすることもありましたが,全面的にサポートしてくれた妻には本当に感謝しています.

さて,私は東京で仕事しながら大阪大学大学院博士後期課程に進学したのですが,まずは,学位を取得するまでのザックリとした時系列を紹介します.

・2017年1月:入学試験(後期)を受験する.
・2017年4月:入学式欠席,入学ガイダンス出席
・2017年6月:集中講義1回目(授業)受講
・2017年8月:査読付き国際会議への論文投稿(2017年10月結果通知:reject)
・2018年1月:国内研究会での発表(1回目)
・2018年2月:査読付き国際会議への論文再投稿(2018年4月結果通知:accept)
・2018年5月:博士論文の骨子作成
・2018年7月:国際会議での発表,国内研究会での発表(2回目),博士論文執筆開始
・2018年10月:博士論文ドラフト版提出
・2018年11月:集中講義(2回目)受講,予備審査
・2019年1月:学位申請手続書類の不備による修了延期決定
・2019年2月:最終審査,最終諮問
・2019年5月:学位授与通知,博士(工学)取得
・2019年8月:博士論文の製本,審査委員へ送付
・2019年9月:学位記授与式
・通年:ゼミ,個別ミーティングへの参加(計8回)

指導教授から提示された博士後期課程の修了要件は,「在学中に査読付き論文として最低1本は採択されること」でした.この要件さえ満たすことができれば,課程期間を短縮して修了させることも可能であるとも伝えられました.

一般的には,査読付きジャーナルとして3本分の成果があれば,博士後期課程の修了要件を十分に満たすらしいのですが,在学中の成果が無いと修了させる訳にはいかないようです.
結果として,D2の4月に査読付き論文が採択されたので,課程期間を短縮し,2年2ヶ月で博士(工学)を取得することができました.

ここで,社会人学生として,この課程期間を通じて得られた教訓を2つ紹介したいと思います.

1つ目の教訓は「論文の投稿を焦らないこと」です.
時系列をご覧いただくとわかるように,D1の8月に査読付き国際会議へ論文を投稿した結果,見事rejectとなりました.
少しでも早く(可能であれば1年〜1年半で)修了したいという思いが強く,焦って投稿してしまった結果だと,強く反省しました.
社会人学生だと研究する時間も限られており,余計に焦りを感じてしまうところですが,無理なく修了できるよう計画することが重要だと感じました.

2つ目の教訓は「提出すべき申請書類を確認すること」です.
私,本当であればちょうど2年で学位を取得できるはずだったのですが,学位取得のために提出すべき申請書類の不備により,2ヶ月間の修了延期となってしまいました(というよりも提出しなければならないという事実さえ知らなかった).
社会人学生だと普段は研究室にいることが少なく,なかなか情報が入ってこないと思いますが,提出しなければならない書類については何度も確認した方が良いと思います.

社会人学生となってからは,ザックリと次のような感じで平日を過ごしていました.
・5時〜6時:出勤前にプログラムを書いたり,論文を書いたりする.
・6時〜7時:通勤列車に揺られながら,タブレット端末で論文を読む.
・7時〜8時:職場近くのマックでホットコーヒーを飲みながらプログラムを書いたり,論文を書いたりする.
・8時〜18時:仕事に専念する.
・18時〜19時:通勤列車に揺られながら,タブレット端末で論文を読む.
・19時〜21時:一家団欒する.
・21時以降:プログラムを実行させたり,実行結果を確認してまとめたり,論文を書いたりする.

土日については,妻と事前に議論を重ねた結果,1日を研究する日,もう1日を家族で過ごす日(もしくは,妻が自由に過ごす日)としていました.
最初から土日のうち1日しか研究に費やせないと決め,自分を追い込むことで研究に集中できましたし,家族との時間も確保することができたので,研究と子育てをバランス良くできたと思っています.

また,勤務先が東京,大学院が大阪ということで,2ヶ月に1回くらいのペースで休暇を取り,通学しておりました(数えてみたら,入学試験から学位記授与式までで16回大阪まで足を運んでおりました).
大学院に通学していることについては,職場からも理解が得られていたので,快く休暇を取得できたことには本当に感謝しています.

博士後期課程でかかった費用について,ザックリとした内訳を紹介します.
・受験料:3万円
・入学金:約28万円
・授業料(2年2ヵ月分):約115万
・交通費:1回当たり往復で約2万5千円(新幹線,学割を使用)
・宿泊費:1泊当たり約4千円
・製本:約3万3千円(15冊分+送料11冊分)
合計で200万弱といったところです.妻から「この200万弱は将来に向けた投資だ」と言ってくれていますので,応援してくれる家族のためにも,そして,社会発展に貢献するためにも,今後も少しずつ精進していこうと思っています.

最後に,私の博士論文と学位審査で使用したスライドを公開します.
・A Study on Statistical Cryptanalysis of Stream Ciphers(指導教員:宮地 充子 教授)[博士論文] [予備審査] [Ph.D. Defense]

最後に

最後まで私の記事をご覧いただき,ありがとうございました.
まとまりの無い話をつらつらと書いてしまいましたが,皆様にとって私の記事が少しでもお役に立てれば幸いです.

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