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翻訳古典小説無料版

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2017年6月の記事一覧

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(6)手押し車

Ⅵ 手押し車 革命暦第Ⅱ年雪月30日、キリスト教暦でいえば1794年1月19日、それはショーメットによって指定されたシモン夫妻のタンプル塔からの退去日だった。そしてショーメットは、彼に代わる新たな教育係は必要ないとの決定を下していた。彼はコミューンに説明した。少年の指導は既に十二分に行われた。それを延長する事は国家資源の無益な浪費である。コミューンの議員から毎日四名が当番委員として監守し、その内二名が二十四時間毎に交代する、それ以上は必要ない。  充分な根拠のある提案は諸手

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(5)傀儡師

Ⅴ 傀儡師 ラサールは罠に餌を付け、騙され易いアナクサゴラスが、その中に足を踏み入れるように誘導した。彼はあらゆる難所に対する解決策を用意し、あらゆる障害を回避する道を示して見せた。彼が選択した曲がりくねった道には、そのような難所や障害が少なからず存在し、それらの中には、当初はド・バッツの知性をもってしても克服不可能と思われていたものも、幾つか含まれていた。  代理官が挙げた問題点の内、最後の一つに対する解決策を与えた時、この役人はラサール自身も確かにそれは高い評価であると

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(4)代理官ショーメット

Ⅳ 代理官ショーメット「市民ショーメットに会うといい」フーシェからそのように告げられたラサールは、その助言に従うように、翌日、ショーメットとの接触を試みる事になった。  コミューンの代理官を待ち伏せする目的で、さりげない風を装いつつ、テュイルリー宮のホールをうろついていた若い画家は、件の要人から声をかけられて、人の少ない場所に連れ出された。 「君がフーシェに話した、小カペー誘拐の陰謀というのは、どんな内容なんだね?」 「ああ、その事ですか!多分根も葉もない噂ですよ」

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(3)市民ジョゼフ・フーシェ

Ⅲ. 市民ジョゼフ・フーシェ ド・バッツとラサールの共謀の結果として、革命暦第Ⅱ年雪月初旬――キリスト紀元でいえば、1793年12月の終わり近く――のある日、この美術学生は、サントノーレ通りの薄汚い建物の四階まで階段を登る事となった。愛想は良いがやつれた面持ちの若い女性がノックに応えてドアを開けると、彼は市民議員ジョゼフ・フーシェ【註1】は御在宅でしょうかと尋ねた。  予定された作戦の足がかりとなる人物として、ド・バッツはショーメットに狙いを定める事に決めたのだが、丁度、そ