わたしがつくった本たちのはなし

すこしまえ、とてもうれしいことがあった。
8年ほどまえ、当時連載していたweb小説の完結を記念して、はじめて製本をしたのだけども、そのうちの1冊をいまも大事に持ってくださっているという声を、たまたま耳にしたのだ。
当時、数百冊すった本だった…ように記憶している。あのとき、家族総出でカバーを折って、栞を挟み、家のプリンターで刷ったペーパーをつけて、そうしてできたたくさんのセットを大きな段ボールにいくつも詰めて、宅急便の営業所に持ち込んだ。なつかしい。それを今も持っていてくださる、という声をときどき聴く。ほんとうにうれしい。
わたしは、去年、いちおう「もうこれで製本おさめかな」と思う1冊をつくった。製本は、たのしい。だけども、とてもたいへんだ。フルタイムで仕事をしながら、趣味でおはなしを書きながら、心身を健やかに保てる程度の生活をしながら、さらに製本をするというのは、わたしにはオーバーワークに近くて、自分に対して優先順位をつけよう、と考えたときに、製本はちょっとあきらめた。そのうち優先順位が変わる日がきたらやります。
でも、そういえば、わたしがつくった本たちの倉庫や記録はどこにもないのだった。ということをこのあいだ思い出した。半分以上、在庫がなくなっていて、もうどこかのどなたかにお嫁にいっている子たちばかりなのだけど、どこかでしあわせに暮らしてたらいいなあ、と思います。

「BLANCA」 2012年1月発行

ブランカ4

ブランカ3

2011年に完結させたweb小説「BLANCA」を製本。
ブランカはこの二年後にアイリス文庫さんから書籍化されたので、「作者による同人誌」と「商業出版」の二形態の本が存在する。
イラスト・装丁はくぼたまなぶさま。
ネットの海を漂っているなかでお見かけし、表紙は絶対このイラストだー!!!と奮起して、深夜にメールを送りました。わたしの経験値が足りずにたくさん助けていただきました。
表紙はじつは、深緑と白の2バージョンありました。深緑も、外国の童話のようでとってもすてきだった。だけど、白の表紙のイノセントなかんじがとても気に入ったのと、雪国にあっているかなとこのかたちに。ロゴも2バージョンつくってもらったんですよね。もう1個のバージョンで栞を作ってもらいました。

しおり

本体の紙は若緑。雪のしたに芽吹く春の野のイメージ。
ブランカの一人称で進む話だったので、カバー下にブランカと出会ったときのリユン視点の短文を書き下ろしました。これはたぶん…この製本版でしか公開してなかったはず!
新書サイズ二段組。当時、講談社ノベルスに憧れがあって、それを意識していた記憶。

印刷所:あかつき印刷


「花と獣」 2013年5月発行

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もとは製本のための書下ろしだった…ような。現在は各種投稿サイトに掲載しています。当時連載していた「蒼穹、その果て」の世界観の二百年前の物語。
BLANCAが少女単体の童話ちっくな表紙だったので、次の製本は「一般文芸にありそうな文庫版でいこう!」というコンセプトでつくりました。内容もブランカに比べると、架空歴史小説!ごつい!ってかんじだったので。
この表紙は、絵画のような雰囲気にしたくて、あれこれ探していてピンときた素材をもとに、自分でフォトショで色合いや風合いをいじりました。タイトルの文字入れも自家製。いま見ると、もっとかっこいいタイトルの入れ方があったんでないかー?と思う気持ちはあるんだけども、こだわっただけあって、表紙の色合いはお気に入り。
ちなみにブランカは、やわらかなイラストを生かしたくてマットPP加工、花と獣は表紙の青みのうつくしさが引き立つようクリアPP加工をしています。
自家製だったぶん、架空の「かなりあ文庫」のロゴをつくったり、偽のISBNをつくったり、いろいろ遊びを入れました。しかし、フォトショをひと月無料お試しで使ったため、現在なんとカバーデータが開けない… かろうじて画像化していた表紙以外ここに掲載することができない…かなしみ。 
ちなみにこの本でいちばん気に入っているのは、みひらき。
トレーシングペーパーに青インクでいっぱいの花を印刷しているのです。
そしてそのペーパー越しに、「あいしているよ東雲、わたしはおまえの獣だ」の一文がのぞく。花と獣なんですよ!と自画自賛。

印刷所:ねこのしっぽ


「シャーロック・チルドレンに祝歌を」 
2014年11月発行

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こちらは50ページほどの小冊子。
BLANCA、花と獣と、がっちり「本!」というものをつくったので、今度は気軽に手に取ってもらえるペーパーバックちっくの本にしよう、というのがコンセプト。表紙はやはり、素材を組み合わせて自分でつくりました…確かワードとかで…。しかし、この同人誌も画像がちゃんと残っていない!またか!
血と硝煙のバイオレンスファンタジー、耽美、という雰囲気のはなしだったので、ちょっとそういう印象でそろえています。表紙にマザーグースの英字を置いてみたりとか。ちなみに紙はパール系なので、ひかりの加減できらきらってするのです。
ちなみにこのとき、当時連載中の「蒼穹、その果て」と「ユグドラシル」の宣伝ペーパーを友人と共同でつくって、配布した記憶です。(なぜかこちらデータはしっかり残っていた)

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印刷所:ちょ古っ都製本工房


「OTHELLO」 2015年5月発行

オセロ

深森浅羽さんとの合同誌。これまではピンで出していたんですが、一度合同誌というものをつくってみたかったのと、いつも仲良くさせていただいている浅羽ちゃんにそそのかされたような… あれどうだったっけな。
これは同人誌らしい同人誌にしよう!というコンセプトのもと、初のA5サイズでつくりました(当時の同人誌の主流はA5だった) 
イラスト・装丁は四月屋さま。
プロットを交換した競作だったんですが、ふたつの異なる世界がタイトルで区切られて並立する表紙が、とってもすてき。これ、表紙はヒロイン、裏表紙はヒーローになっていて、広げると一枚絵でもある。すごく凝っているんです。ちなみにこの同人誌で書いたはなしが、「ラフマニノフの指先」です。表紙にいるのは、黒江と真白ですね。
出版は「カナリヤトハナ出版」。当時、浅羽ちゃんと使っていた同人誌即売会でのサークル名「カナリヤと花」からとっています…笑

印刷所:STARBOOKS(以下すべて)

「蒼穹、その果て」後日譚 2017年7月

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これまでの同人誌からすると、ちょっと変わり種。
十数年連載して完結を迎えた大長編「蒼穹、その果て」の完結を記念して、通販のみで後日譚を頒布しました。
表紙は、真空中さま。
じつは、表紙でカップルが一緒に出演しているのは、自分でつくった本ではこの本だけなのである…! 雪瀬を見つめる桜さんの表情がすごく桜さんで、たぶん初見の方には、仲良さそうなふたりだな、ってかんじだとおもうんですが、蒼穹をさいごまで読んだ方ならわかる。これは、あの超長編のラストシーンなのである。裏表紙は、物語冒頭、ふたりの出会いのシーン。真空中さんのイラストにあわせて、表紙の折り返しは、物語の第一文(バックは雪のかかった桜)、裏表紙の折り返しは、物語のラスト一文(バックは桜)にしました。
ちなみにカバー下の本体も桜をカラー印刷していて、残雪のきらきらした感じが出たらいいなあとまたパール系の紙を使っています。

購入はこちら:https://alice-books.com/item/show/2051-5

「白兎と金烏」 2019年8月刊行

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白兎2

去年、よし、製本はたぶんこれが最後…!とおもいながらつくった一冊。現在、クライマックスを連載中の白兎の序幕部分になります。
白兎はもともと、商業にいこう、という目標を掲げたときに、これをわたしは本屋に並べる…!とおもいながら書いたおはなしで、結果としてだめだったんですけど、そんな自分の気概の供養のつもりでつくりました。
そういうわけで、「わたしがイメージする本屋さんに並んだときの白兎と金烏」というコンセプトでつくってあります。
イラストは紅木春さま。
かさねが、とってもかわいい。とってもかわいい。
表紙はこのパターンと、花嫁装束のかさねが口箏をもってちょっと不安そうなかんじのパターンがあって、後者もFTの幕開けっぽくてすごく好きだったんですが、結局かさねの笑顔にやられました。
ロゴは青嶺トウコさんにお願いしました。烏が羽になっている、かわいい。あと鳥居がちょうど中心にくるように、文字が配置されているのです。すてき。
とことん、実在しそうな装丁をめざしたので、背表紙とか裏表紙のデザインもすごくそこを意識しています。さらに、架空の解説まで自分で書きました…リユン名義で…笑 たのしかった…。ちなみに、この作者(糸)はマナムスメノベル佳作受賞でデビューして代表作は「いい夢ばっかりや!」です。

購入はこちら:https://alice-books.com/item/show/2051-6


いま書いてて驚いたのが、結構1~2年おきにコンスタントに製本していたんだなってことですね…。蒼穹と白兎だけ在庫ありです。ほかは、時間をかけてみなお嫁にいってくれました。しあわせなことだ…。
製本のたのしさは、書き手としてだけでなく、プロデューサーとして本づくりにかかわれることだと思います。自分があげた原稿から、本のコンセプトを考え、それに合ったイラストレーターさん、あるいは素材を探し、コンセプトに合うイラストをオーダーし、ふさわしいロゴ、装丁、紙選びをする。カバーはどんな紙で、どんな加工があうんだろうか? カバー下の本体は、どんな色で、どんな紙、どんな仕掛けがあったらすてきだろう。そこにどんなデザインを入れるか? ときには栞、ペーパーもつくる。
正直にいうと、同人誌ほど、労力をつかうものはない。もし商業だったら、編集さんとかが考えることをぜんぶ、じぶんでやるわけだから。さらに、できた同人誌は即売会や通販で売る。設営を考えたり、当日はどきどきしつつ売り子さんになる。けっこう、たいへんだ。
でも、たのしい。それに見合うだけの喜びがある。
ひとつは、自分の作品をトータルコーディネートして、本というかたちで残せることのすばらしさだ。わたしはかれこれ十五年ほど…いやもっとか…?とにかく結構長い間、物語を書いているけれど、書いてきた物語の大半は、ネット上に、あるいはわたしのパソコンにデータとして存在する。自分のありとあらゆるものを注いでつくりあげてきたというのに、ときどきそのたわいのなさにびっくりする。
だから、自分の目で見て、手で触れられるかたちで物語が存在してくれるのは、なんだかふしぎな感慨があるのだ。あと、すべてに自分のこだわりを反映させられるのは、やっぱりたのしいよね。
もうひとつは、自分の書いた作品を、めのまえで、ひとに渡せることだ。即売会では、ときとして、声をかけてもらうこともある。ほんとうにうれしい。執筆は孤独で、わたしはわりと、ひとりで黙々と沼に沈み込んでいてもひとりで盛り上がったりできるひとだけど、でも、自分が書いたはなしは結局どこにも、誰にも届いてないのではないか、となんとなく思っていて(ちがっていることはわかるが、実感がないのだ) めのまえに確かにいらっしゃる「読者さん」の実在感に、くらくらする。実在しないとおもっていたものが現れた、というかんじ。即売会で作者が握手させてほしがったりとかするのは、だからじゃないかとおもう(わたしはそうだ) 
わたしは、恐れながら、ひとさまの顔を覚えるのがほんとうに苦手なのだけど、手を握ったときの、どきどきしてくらくらする途方のない実在感は、ちゃんと思い出すことができる。もし即売会でだれかの本を買ったことがある方がいらっしゃるなら伝えておきたいのだけども、その一冊がほんとうに作者を生かしている。
そして人生ではじめて、本を売って手にしたお金を、わたしはいまだに使えていない。この11,700円を何に使ったらいいのか、いまだにわからないのだ。

自分の本のはなしをしているうちになんだかずれてしまった気がするけれど、こんなことを書いていると、また製本したくなっちゃうから困るな。ほんとう、やりだすとたいへんなんだ。喜びも無限だけど、ほんとうにマジでたいへんなんだ。でもまた製本しちゃったら、ああ沼からなかなか抜け出せないんだなあとなまぬるい目でみてあげてください。
そして、わたしに本をつくる喜びをくれた印刷所さんや通販サイトさんがこの苦境を乗り越えてくれますように。

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