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「モノノケ踊りて、絵師が狩る。」について

あした2/20(木)、水守糸子名義の新刊「モノノケ踊りて、絵師が狩る。―月下鴨川奇譚―」が集英社オレンジ文庫さまから発売になります。
こんなおはなし。

江戸時代の天才絵師・月舟が描いた妖怪画には、百のモノノケが封じられているという。
時代くだって現代の京都。月舟の末裔である美大生・時川詩子は先祖から継いだ技と筆で、月舟の百連作の憑きもの落としを生業とする。さらに見鬼の才を持ち、詩子に協力する幼馴染の青年・七森叶。ふたりは己の業と対峙しながら、百五十年前の絵師と贋作師にまつわる謎を紐解いていく。
限りなく近いけれど、どこまでも遠い、交わらない男女の「狂い」と執着の物語。

乙女椿でも書きましたが、二年ほど前に「月下鴨川、モノノケ踊りて、絵師が狩る。」の題で書いていたおはなしがもとになっています。こちらは当時、5000字(でしたっけ?)ほどの習作短編で「覆面作家企画8」に参加させていただいて、いろんな方から感想や忌憚のないご意見をうかがうことができました。細かな設定は変えていますが、基本的に七森と詩子という似た者同士で両極端の歳の差幼馴染ふたりとモノノケの憑いた絵にまつわる物語、という構造は変わっていません。そして、当時、企画に参加された方からいただいたお声が、初稿を書いたときのわたしの元気や支えとなりました。この場を借りてお礼申し上げます。

また、おはなしを書くにあたって、美大のことであったり、あるいは日本画のことであったり、資料から想像しきれない部分をお二方ほどご協力いただいて、おはなしをうかがいました。ディティールの想像を膨らませるのに、とても役立ちました。貴重なお時間を割いて、楽しくおはなしをしてくださり、本当にありがとうございました。
それから、めちゃくちゃ鋭いツッコミしかしない友人。ここは見てないだろうが、方向性で迷走したときに相談にのってくれてありがとう。

このおはなしはもともと、小さな手術で入院していた時期、暇つぶしにえんえんと妖怪画を眺めながら考えました。うすぐらい日本家屋、けだるい顔で雑誌をペラペラめくる着物姿の女のもとに、背広ですこしの隙もない顔をした男が妖怪画を携えてやってくる。というイメージがたぶん最初です。冒頭のふたりそのままですね。
サイトなどでわたしをよく知る方ならうなずいてもらえるかもしれませんが、わたしはこれまで何度も「画家」を主人公にしようとして挫折しています。高校生のとき書いていたのが、やはり謎の死を遂げた天才画家と、その遺作に振り回される男女の物語でした。しばらく間をおいて書いたのは、余命わずかな画家の男と異形の少女の組み合わせ。こちらも完成できず。
いつも気にかかっているんだけど、いざ書くとどうしても書けない。それが画家の話で、紆余曲折ありましたが、ようやくひとつ書くことができて、今とてもうれしいです。

謝辞を。
装画を引き受けてくださったMinoruさま。
明暗のうつくしい世界観にいつも魅了されながら、本屋さんで担当された表紙の本を見上げていました。作品の、和モダンとほの暗い世界観をぎゅっと一枚で表現していただき、ありがとうございます。はじめて表紙を拝見したとき、詩子の立ち姿や表情がとてもらしくて、すごいなあ、と思った記憶があります。あと、読了後に表紙の帯下をぜひ眺めていただきたいです。すてきな遊び心です。

かっこよく表紙や扉をデザインしてくださったデザイナーの織田弥生さま。花札のような黒枠とタイトルの入り方がかっこいいです。Minoruさんのイラストを引き立てる和モダンの世界を表現していただき、ありがとうございました。

集英社のみなさま。今回、特に表現でむずかしい部分があり、ひとつの部署のみなさまに物語を深く読み込みながら、さまざまなご提案をいただきました。物語に真摯に向き合ってくださる姿にとても励まされました。縁の下で物語を支えていただき、ありがとうございました。
並びにオレンジ文庫担当さま、編集部のみなさま。またとない機会を与えてくださり、本当にありがとうございました。

物語の完成度をいつも高めてくださる校正のみなさま、
本を並べてくださる書店のみなさま、印刷所のみなさま、
ほかにも見えない場所で、この一冊に関わってくださったすべての方にお礼申し上げます。
そして、これまでRTなどで宣伝に協力してくださったたくさんの方。
ほんとうにありがとうございました。
みなさまのおかげで、一冊の本を送りだせることができました。
このかけがえのない喜びをかみしめて、謝辞をしめようと思います。
どうか、ほんの一時でも楽しんでいただけるものになっていますように。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

年末から年始にかけて別のおはなしを書いたあと、ちょっと休んでいたのですが(別件がいそがしく)、春になったらまた新しいはなしを書こうかなと思っています。次は少年少女がいいなあ。予定は未定ですが、未知の紙上にあらたな世界を思い描くこの時間がたのしくてすきです。

2020.2.20 水守 糸子 拝

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