飢餓の村で考えたこと  29.30

全員が魅力的

ショミティの32名の会員は若い娘さんとお母さんたちからなっている。容姿だけをとると失礼な言い方だが皆が美形とは言い難い。しかしなぜか私には全員が魅力的だなと映っていた。日本だったら美形と思える女性だけに魅力を感じていたのに。何が違うのだろう。

日本人との一番の違いは一人一人が癖のある強烈な自己主張をする点だ。私たちも子供時代は自己中心主義者だがその自己中心主義がそのまま大人になったような人たちだ。私たちが他の会員にボールペンをあげようものなら「なんで私にはくれないんだ」とかならず食ってかかる人がでる。嫉妬心はむき出しで強い。(嫉妬心についてはあとで私の見解を書きたい) 私はそれは自然でむしろ強烈な個性だと感じてしまう。

一人一人がほかの人と置き換えることのできない独特な色を持っているのだ。そんな強烈な個性があるから全員に魅力を感じてしまったのだろう。当時村人の結婚は完全に親同士が決めていた。そのルールを破って恋愛結婚した人たちは村八分にされていた。

結婚式の時に二人の前に置かれた鏡で初めて相手の顔を見たという人もいた。そんな結婚でうまくいくのだろうかと疑問に思っていた。よく考えてみるとあまり知らない人同士の結婚はバングラだけではない。

大正11年生まれの私の母は父とのお見合いの時は恥ずかしくて、父の顔を見れず畳の縁ばかり見ていたと聞いた。この時のポイラ村とはそんなに違いはないかもしれない。彼女たちは強烈な個性という魅力があるので、たとえ親が決めた結婚でも魅力を発揮し耐えられるのではないかと私は想像した。

もちろんうまくいかない結婚も多いのだが。なにしろ女性たちは強烈な個性の持ち主ばかりだったので私には全員が魅力的だと映っていた。

お願いされた前借り

ポイラ村の中心部に私たちの事務所兼住まいがあった。ショミティの活動は月1~2回の全体会議と納品作業を中学校の使われていない教室を借りて行っていた。

ある日、手工芸品の納品作業を終えた会員のおばあさんと嫁さんが私たちの事務所に来た。私たち日本人駐在員に話があるという。その第一声は「このままでは子供が死んでしまう」と嫁さんが言った。

今日納品した手工芸品代金の前借りができないかという相談だった。手工芸品の代金はダッカでの商品検査を経た後、返品を除いた納品された分のお金が翌月に支払われる仕組みだった。

彼女らはアウトカーストの人たちだ。アウトカーストの人たちは村の中心部から最も遠く一番不便なところに住んでいた。家の粗末さはほかの村人の家よりも一段と質素だった。物はなにもないといった感じだ。

話を聞いてみると1週間前に家の食べ物が底をついたので、今はおばあさんとお嫁さんは庭の雑草の根っこを食べているとのこと。しかし小さな子供は5日前から草の根っこも食べなくなりこのままでは死んでしまうというのだ。

私が具体的に村で遭遇した最もひどい飢餓の状態の方たちだった。私たちは砂糖をいっぱい入れたあったかい紅茶とバナナやミルクなど栄養がある食べ物を2人に食べてもらいながら話を聞いた。子供のためにバナナや食べ物を彼女らに託し工芸品の代金分を前渡ししたのだった。


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