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薫くん四部作

 庄司薫の薫くん四部作といえば、長年、中公文庫が独占していたが、いまでは、新潮文庫にも入っている。薫くん四部作とは、「赤頭巾ちゃん気をつけて」(1969)「さよなら快傑黒頭巾」(1969)「白鳥の歌なんか聞えない」(1972)「ぼくの大好きな青髭」(1977)の四作品のことである。
 新潮文庫で特筆すべきなのは、著者の新しいあとがきが追加されていること。薫くん四部作は好きな作品なので、四部作すべてを持っているにもかかわらず、あとがき目当てに買った。
 薫くん四部作の最終作、「ぼくの大好きな青髭」は1977年刊行。46年前の作品だ。それ以降、小説は、出版されていない。新潮文庫の薫くんシリーズの著者の写真は、アップデートされるかと思いきや、芥川賞受賞当時のものである。庄司薫さん、現在86歳。どんな顔をしているのだろうか。ちょっと気になる。ネットで検索すると、とても本人とは思えない老人姿の「庄司薫」の画像が出てくるけれど、本物なのだろうか(気になる方は捜してみてください)。まあ、いちばん気になるのは、新作はもう出版されないのだろうか、ということなのだけれど。
 薫くん四部作、作中人物の1951年生まれの「薫」くんは、いま、何をしているのだろうか。財務省(当時は大蔵省)の高級官僚だろうか。現在、72歳。あ。とっくに定年退職しているか。「薫」くんは、エリートなので、天下って、子会社の理事長とかをしているかもしれない。

 と書いたところで、念のため、確認してみると、この新潮文庫版はすでに絶版らしい。新潮文庫ですら、数年で絶版にしてしまうのだ。いやはや。

 「全共闘」「東大入試中止」「乱痴気パーティ」「キャラメルママ」のような70年前後の騒がしい風俗がすっかり流れ去り、跡形もなくなってしまった現在、知識として以外、そのことを知る若者はいない。
 そんな時代に、庄司薫さんのこの小説は何を語るのだろうか。
 三島由紀夫がうまいことを帯に書いている。

「若さは一つの困惑なのだ」

 いつの時代でも、若者は困惑している。若者が困惑している限り、この小説は、読まれ続けるだろう。

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