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生死選択の最中でも、この夏どうしても着たいものがあった

香川照之の「昆虫すごいぜ」というNHK 地デジの番組がある。子供向けの教育番組なのだが、興味が尽きない。いい大人が童心に帰って昆虫採集に夢中になり、昆虫を通して、生命の偉大さ、尊さを語り、我々、大人でさえも鼓舞されることがある。先般、国蝶の岐阜蝶を追った時の昆虫愛、リスペクトがハンパではなかった。道中も欣喜雀躍し、積年の思いを手にする心情が溢れていた。ご本人も言っていたが、役者稼業。演技することも可能な事を垣間見せていたが、やらせでない言動が心を打つ。岐阜蝶の羽をそっと押さえ、頭と胴を覗き込み、その勇ましさ・美しさ・偉大さに仰天し、キスしたいし食べてしまいたいと宣ったのである。子供たちに、虫たちや他の生命は、生きるのが目的で、生きているだけで価値がある。君達も生きているだけでいいんだ。何か特別のことをしなくていいんだとのメッセージを発していた。現在、悶々としている子供達がどんなに勇気づけられ、生きる希望が湧いてきたかは、想像するに難くない。

家でTV番組を視聴する場合、妻と好みが違うものは、録画して、早朝や深夜に見るようにしている。断捨離や終活をせずに、ウイングを広げている私は、見るだけではあるが、それでも呆れられている。これから、何十年も生きる訳でもないのに、呑気すぎるということなのだろうか。いまさら、そんなの見て、何になるのと言われてしまう。確かに、他者の視点では、似合わなかったり、意味が分からなかったり、無駄に思えることもあるだろう。元々、幼い時から、皆んなとエスカレーターで進みながら、いろいろな事や物を拾う能力や環境に恵まれていなかったので、漫然と過ごしてきた。擬似体験にもならないかもしれないが、せめて、画像を見ることにより、遅ればせながらも補完できたり、人並みに知ることが出来た充足感がある。

先般、循環器系の持病を抱えながら、自分の不注意から、出張先で救急病棟に 七日間ほど入院し、輸血をし脈が止まるなど生死の境を彷徨った。その最中でも、注文していた岐阜県の高島ちじみ甚平(作務衣に近い物?)が気になっていた。鮮やかな明るいブルーを着れば、自分がシャッキとできると思っていた。退院して約一ヶ月経ったが、やっと品物が到着したのである。夏のギラギラした日差しと目眩く暑さが残っているうちに、何とか着たいという思いが叶う。いざ、一回でも二回でも本日から着ることにする。

同世代の老人達とは、過ごし方も違っていたせいか、馴染める人が少ない。世代の隔たっている人とは、テンポが合わず、話す内容も合わせるのも難しい。今浦島みたいな心境かもしれない。香川さんの言われる「生きているだけで素晴らしい」は、他者や他の生き物に対して共感するが、この年まで生きてきた自分自身に、当てはめるほど破廉恥でもない。もう何かをなすことはできないと思うが、ただ生きるだけでなく、まだ何かを感じ、面白いことに興味を持ち、門戸を閉じない自分でいられることに対し、ありがたいと感謝するしかない。




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