私と碇シンジくんの話


私が初めて碇シンジくんという男の子と出会ったのは8歳の時でした。

当時、転校したばかりで友達もろくに居なかった私にある女の子が「くるみちゃんってアスカに似てるね!」と言ってくれたのがきっかけでした。
なんせ8歳の時の記憶なのでかなりあやふやな部分も多いのですが、確かその時クラスのお遊戯会か何かで残酷な天使のテーゼを踊ったのです。
クラスメイトを何班かに分けて順番に出し物をしていくといった感じだったのですが、私のことを「アスカに似てる」と言った女の子が私の班のリーダーでした。その女の子は当時8歳にしてかなりのエヴァ好きで、残酷な天使のテーゼを踊ったのもその子の案でした。それぞれ、自分はどのキャラだと役割が決められ、私は案の定、アスカでした。当時リーダーだった女の子以外に誰がいたとか、どんな風に踊ったとかそんな記憶は一切ないのに、間奏の部分で「惣流・アスカ・ラングレーよ」と言わされたことは一生忘れないでしょう。
そんなこんなでエヴァンゲリオンというアニメの存在を知った私ですが、このお遊戯会の後、エヴァンゲリオンを観る機会があったのです。親にワガママを言ってTSUTAYAで借りたのか、友達の家で見たのか、思い出すことは出来ませんが、確かに観たという記憶だけが残っています。
というのも、当時私はわずか8歳。そして、記憶が正しければこの時観たのは「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」
……分かる方は察しているでしょう。8歳の子供がよりにもよって旧劇を観てしまったということを。

案の定、私は途中であまりのグロさに耐えられなくなり観るのを辞めてしまいました。ここまで読むと、エヴァとの出会いは最悪だったのでは??となると思います。
確かにトラウマになりかねないレベルの体験をしてしまったとは思いますが、決して最悪ではありませんでした。なぜなら私は出会ってしまったからです。

「碇シンジくん」という「年上のお兄さん」に。

どうして当時シンジくんに惹かれてしまったのかは分かりません。
黒髪で儚げな美少年が何よりも好きだという現在の性癖がわずか8歳ながらに芽生えていたのか、それともこの時シンジくんに出会ってしまったことが全ての性癖の始まりなのか。鶏が先か、卵が先か的な問題はさておき。
子供ながらに惹かれてしまう何かがシンジくんにはあったのでしょう。それは無意識の恋だったのかもしれませんが。

とはいえ、エヴァ本編が当時の私にとって見続けられるようなものでもなく。
次に私がちゃんとエヴァを観たのは私が13、14歳になった頃。奇しくもエヴァンゲリオンパイロットたちと同じ年頃になった時でした。

その頃の私はもうとっくに立派なオタクへと成長しており、ボカロやら進撃の巨人やらと当時世間で流行っていたとされるジャンルにどっぷりと浸かっておりました。そして当時、金曜ロードショーか何かでエヴァンゲリオン3週連続放送というものがあったのです。
その時放送されたのは「エヴァンゲリオン新劇場版 序・破・Q」
この時私は本当に恥ずかしながら大して観たことのないエヴァを好きだと周りに公言していました。
今思えば本当にぶん殴りたいくらい恥ずかしい。
ならなぜ公言していたかと言うと、8歳の時、1度エヴァをリタイアしてからというもの、「残酷な天使のテーゼ」が私のカラオケでの十八番だったからです。
アニメは観れなくとも、曲は聴けます。そして残酷な天使のテーゼは私にとってとても歌いやすく、両親や祖母たちに上手だと褒められるのが嬉しくてずっと歌っていたのです。
しかし、エヴァを観ていないのに残酷な天使のテーゼを歌うのが好きだというのはなんか違う気がする。そういうプライドだったのか見栄だったのか、おかしな感情から私はエヴァが好きだと公言していたのです。

そんな時にあったエヴァンゲリオン3週連続放送。
観ないという選択肢はありません。
私はちゃんと序から観ることにしました。
幼い頃の経験もあり、かなりビビりながら観たのですがなんのなんの。本当に面白くてどうしてこんな面白いものを今までずっと観てこなかったのだろうと思ったものです。まぁ、旧劇と序じゃかなり違うと気付いたのは後のことですが。

その後も順調に破・Qと毎週観ました。

画面の中にいるシンジくん。
お父さんに認めて欲しくて、それでも怖いものは怖くて、周りに叱咤されて、立ち向かって、逃げて、また立ち向かって、大事な人を目の前で失って。

そこにいたのは「自分と同い年の男の子」。

でも物語の主人公に相応しすぎるくらいの苦難に見舞われる男の子。胸が痛くなりました。
どうしてシンジくんがこんな目にあわなきゃいけないんだろう。誰か大人の人が代わりに初号機に乗ってあげればいいのに。そんなことばかり思っていました。

この時、推しという概念は私にはありませんでしたが、確実に推し、しかも人生における最推しという場所にシンジくんを大事に仕舞い込みました。そして誰よりも幸せになって欲しいと願い、シンエヴァの公開を待つこととなったのです。

そして時折エヴァのグッズを買ったり、ネットでシンジくんの画像を検索して保存したり、頑張ってテレビアニメ版や旧劇リベンジ、貞本版エヴァを履修してる間にいつの間にか私は高校も卒業間近。

シンジくんは「少し年下の男の子」になっていました。

高校生の頃には私は夢女子から腐女子へと変貌を遂げており、シンジくんを見る目も確実に変わっていました。最愛の推し、シンジくんとどう見ても距離が近すぎる絶世の美少年、渚カヲル。

どう見ても、誰が見ても付き合ってる。
しかもこの2人、貞本版エヴァでは人口呼吸に託けてキスまで済ませているし、新劇「破」ではカヲルくんが、女の子たちとイチャつくシンジくんに嫉妬の念を飛ばすシーンがあるし、Qは、有名なあの連弾シーンがある。その他にも狂ってるとしか思えない渚カヲルで碇シンジを口説き落とすゲーム「渚カヲル養成計画」などなど。公式からの供給過多とはまさにこの事。ズブズブとカヲシンの沼に沈んで行ったのです。

シンジくんが幸せならばそれでいい。
こうして私はある意味恋敵である渚カヲルに全てを託しました。

その後も私はユーリ!!! on ICEや、BANANAFISH、Fate、最近ではアイドリッシュセブン、あんさんぶるスターズ、魔法使いの約束、エリオスライジングヒーローズなどなど、おおよそ世間の女の子たちと同じジャンルにハマり、それぞれのコンテンツで推しを愛でて日々を過ごしていました。
それでも世界で1番大好きな推しは変わりません。
碇シンジくん、ただ1人です。

そしてついに待ち望んだシン・エヴァンゲリオン劇場版:||の公開日が決まったのです。
当初の予定は6月。1度延期になって1月。さらに延期になり、昨日2021年3月8日。
ついにこの時がやってきたと。何年も何年も待ったシンエヴァ。初めて序・破・Qをみた14歳の私は。初めて碇シンジくんに出会った8歳の私は。

今年で23歳を迎える大人になっていました。

出会った時は「年上のお兄さん」だったシンジくんが「同い年の男の子」を経て、「少し年下の男の子」になり、いつの間にか「幼い男の子」になってる。

それだけ長い時間、私はシンジくんと共にあったのです。もちろんもっと長い時間エヴァと共に生きてきた先輩方もいるのでしょう。
TV版リアタイ時にシンジくんたちと同じ年だった人達はきっと私よりシンジくんたちに思い入れがあるのでしょう。その人たちからすれば私なんて全然なのかもしれない。それでも。それでも私は胸を張って言います。

私の少女時代は、青春は、エヴァンゲリオンと共に、碇シンジくんと共にあったと。

そんな、誇らしいような、少し寂しいような気持ちを抱いて、私はシン・エヴァンゲリオン劇場版:||を昨日の公開初日、その映画館の朝イチの回を観に行ったのです。当日はまるで遠足が楽しみで仕方の無い子供のように朝早くに目が覚め、前の日に悩みに悩んで決めた可愛い洋服に袖を通し、映画館でシンジくんの一挙一動を何一つ逃さないように普段はつけない度入りのカラーコンタクトを入れて、普段よりメイクも濃ゆく、髪も綺麗に巻いて。それでも映画館に行くのだから香水はふらないように。まるで好きな人とデートにでも行くかのように。私は身支度を整えました。

そして駅で一緒に行ってくれる友人と合流して。
映画館のロビーでパンフレットとシンジくんのアクスタを買って。それを大事に鞄にしまい、映画館の係の人にチケットを見せて、特典のアスカのポスカを貰って。席について、予告が始まるまでの間、家から持参したシンジくんとカヲルくんのアクスタとチケットの写真を撮って。iPhoneの音を切り、流れてきた予告を観ながら友人と今度これ観たいね、なんて会話して。

そしてついに私は初めて、映画館の大きなスクリーンでシンジくんに会ったのです。

これまでのエヴァンゲリオンのあらすじが流れ、YouTubeでも公開されていた冒頭部分が終わり、そしてついにシンジくんが画面に映った時。
私は思わず泣いてしまったのです。「やっと会えた」そんな気持ちでいっぱいでした。

そして上映中、トイレに行きたくなるんじゃないかと心配していたのが杞憂だったくらい、私は身体中の水が無くなると思ってしまうほど最初から最後まで泣きっぱなしでした。

もちろんネタバレになってしまうので詳しく書けません。でも、観終わって、私の心にはぽっかりと大きな穴が空いたようでした。終わってしまった、と。
もうこの先、シンジくんに会えることはないのだと。
そう思えるくらい綺麗な最後でした。
もちろん、エヴァなので1度観たくらいじゃ理解できない部分もあります。時間とお金の許す限り映画館に通うつもりです。

それでも人生の半分をかけたものが終わってしまう喪失感は凄まじいものでした。正直、想像していなかったくらい。

あぁ、これは卒業式なのだと思ったのです。
エヴァンゲリオンから、碇シンジくんという男の子から卒業しなきゃいけないのだと、強く思わされた映画でした。誰かのツイートを見ました。「自分たちもエヴァの呪縛から放たれるべきだ」と。
本当にその通りだと思います。
これまでどんなアニメにハマってもゲームにハマっても最優先はエヴァでした。私の中で碇シンジくんという存在は本当に大事だったのです。

例えば私の中に推しの数だけ宝箱があったとして。
その中でも一等綺麗な硝子細工の宝箱に入っていたのがシンジくんです。1番大事で1番大好きな男の子だと、王冠を被せていたのがシンジくんです。

でも今回の映画で私は卒業を迎えてしまったと感じました。なんて言えばいいのか分からないけど、ただ漠然とそう感じたのです。好きなら好きでいいし、もちろん、シンジくんが推しじゃなくなるなんてことは天地がひっくり返っても有り得ないのですが。

シンジくんと共に歩いていた私は、もうそろそろシンジくん離れして先を歩いて行こうと思ったのです。

この先、新しくエヴァンゲリオンという作品が更新されることは恐らくないでしょう。
…いやもしかしたらあるかもしれませんが。
ともあれ、私は1度このシン・エヴァンゲリオン劇場版:||で区切りをつけることにしました。

私のこの23年と言う人生、実は自分の好きなコンテンツが終わりを迎えるのはこのエヴァンゲリオンが初めてです。幸い、エヴァンゲリオンが終わりを迎えても腑抜けにならないくらいには他のジャンルにも深くハマっています。エヴァと同じくらい年季の入ったオタクをしてるテイルズシリーズも私にはまだあります。
寂しさを感じても虚しさを感じることはないでしょう。円満な担降り、といった感じになるのでしょうか?担当降りるつもりはないので違う気もしますが。

だからこれはファンレターです。
私のこれまでの人生を彩ってくれたシンジくんへの。

碇シンジくん。

貴方より小さかった私はいつの間にか貴方よりだいぶお姉さんになってしまいました。
シンジくんがいたから色んな楽しみがあったし、シンジくんがいたから色んな辛さを乗り越えることが出来ました。
これまでずっと貴方の幸せを願ってきました。
辛いことばかり経験してる貴方に普通の幸せを手に入れて欲しいと。それは今回の映画で叶ったみたいですね。ほんとうによかった。
きっとこれからも生きていく上でシンジくんの存在は私の助けになります。
シンジくんとの出会いを大事な想い出にします。

碇シンジくん、私と出会ってくれてありがとう。
本当に大好きでした。
そしてこれからもずっと大好きです。もう会えないのだろうけれど、貴方の幸せをこれからも願っています。

ありがとう、さようなら。

シンジくんの一ファンより。
(2021.3.9)

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