ヒヤリハット17 閑話

今回は、ヒヤリハットエピソードを離れ、鼠川と猫井川の会話で、
「ヒヤリハットとは何か」というお話しを書いてみます。

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鼠川と猫井川の2人での飲みは続いています。
ふと、鼠川が聞いてきました。

「ところで、猫井川。
 今日のお前みたいなのを何というか知っているか?」

「今日のというと?」

「今日、お前は転んだだろう。
 一歩間違えたら、わしもお前も怪我をしていたな。」

「そうでしたね。すみませんでした。」

「いや、責めてる訳じゃないんだ。
 ああいうのを何ていうか知っているか?」

「さあ、ただ単に失敗したとか、そういうのじゃないんですか?」

「情けないな。
 研修とかで、ヒヤリハットというのを聞いたことはないのか。」

「ああ、それなら聞いたことがあります。
 犬尾沢さんも何度か言っていたと思います。」

「しょせん、その程度の理解なんだな。
 今日お前がやったこととか、さっきわしが話したのが、ヒヤリハットだ。」

「そうなんですね。
 でも、ヒヤリハットというのは、どういったものなんですか?」

「根本的なことから話さないとだな。
 本当だったら、新規入場とか資格の研修とかで聞いておいて欲しいんだが。
 そうだな、まず、ヒヤリハットという言葉は何語だと思う?」

「えっ!何事かあるんですか?
 そうですね。言葉の響きから、英語ですか?」

「いや、全然違う。日本語だ。」

「ああ、そうなんですか。」

「なんだ、反応が薄いな。」

「いや、半分くらいそうかなと思って。」

「だったら、そう言えよ。
 これは、ヒヤリと冷や汗をかいたこととかハッと驚いて、息を呑んだような体験のことを言う。
 まあ、怪我とかにならなかった事故とかだな。」

「怪我をしなかったですか。」

「そう。怪我をしたら、いわゆる労災になるからな。」

「なるほど。確かに今日のは、一応怪我人はいなかったから、ヒヤリハットなんですね。」

「一歩間違えたら、怪我してたけどな。」

「・・・すみません。」

「まあ、それはいい。
 で、ヒヤリハットは、意外と体験してる人は多くてな。
 そういう意味では、運が良く事故になってないことも多いんだろうな。」

「俺も、ヒヤリハットが多いですけど、今のところは大きな怪我とかはないですね。
 小さなのはありますけど。」

「そう。紙一重で大怪我しないこともある。
 ヒヤリハットというのを聞いた覚えがあったなら、ヒヤリハットの法則というのは知っているか?」

「ヒヤリハットに法則があるんですか?」

「その様子だと、知らないな。
 よくヒヤリハットについて言われてるのが、1:29:300という数字だな。」

「何ですか?それ。」

「1:29:300というのは、1件の重大災害、例えば死亡事故とかだな、の背景には、29件の小さな事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリハットがあるというものだ。

よくこんな感じのピラミッドで描かれたりするな。」

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「あー、この絵は見たことがあります。
 ヒヤリハットの法則と言うんですね。」

「あと、人の名前で、ハックルベリーの法則とも言ったりする。」

(※鼠川の記憶違い。ハックルベリー → ハインリッヒ) 

「ハックルベリーって。トムソーヤの人ですよね。」

「まあ、そういう名前の人が、色々調べたら、そんな数字になったということだ。」

「へー、そんなの調べる人がいたんですね。」

「ここで大事なのが、1件の死亡災害が出てくるのは、300件のヒヤリハットがあるということだ。
 つまり、死亡災害があるということは、その職場には、元々たくさんの危険があったんだということだ。
 たまたま怪我にならなかった、でも1件は不幸にも死亡になってしまったとも言えるな。」

「死亡災害があるのは、それなりの理由があるというですか。」

「まあ、そうとも言えるな。
 でもなお前もヒヤリハットが多いみたいだが、ほとんど怪我することはないだろう?」

「そうですね。休む程の怪我はしたことないです。」

「そう。わしもない。40年やってきて、怪我で休んだことがないんだぞ。
 今は余程のことがない限り、怪我などしないな。命を落とす事故も同じだ。」

「確かに。そうかもしれません。」

「じゃあ、ヒヤリハットはどうかというと、お前もわしもいっばい経験がある。300じゃ済まないな。」

「それも確かにです。
 だから犬尾沢さんもヒヤリハットを報告しろとか言っているんですね。
 さっきの数字でいうと、ヒヤリハットが減れば、死亡事故が発生しないことになりますもんね。」

「ヒヤリハットが減れば、確かに全体的に安全な現場になるから、大きな事故の芽を摘めるのは確かだ。
  でもな、ここからはわしの意見だが、ヒヤリハットを集めて、それに対応していったら、死亡事故がなくなるとか、そう単純ではないとも思う。」

「え、どうしてですか?」

「いや、ヒヤリハットがなくても、事故は起こるときは起こるし、怪我したり命を落とす人はいるからな。

 例えば、厳しい元請けが、安全管理を口うるさく言ってても、100%防ぐことは無理だろう。
 逆に、下請けの業者だけが仕事してて、ヘルメットも着けない、安全帯もしないのが普通でも、全く怪我しない現場もいっぱいある。」

「そうですね。不思議なものですけど。」

「そうなんだ。
 ただ、勘違いしないで欲しいんだが、事故が起こる確率は段違いだからな。
 安全が厳しい現場の方が、事故が起こりにくいのは確かだ。間違いなくヒヤリハットも少ないと思う。
 
 でも100%事故が防げるわけじゃない。」

「なるほど。」

「それでだ、ヒヤリハットについてだが、ただ単にヒヤリハットを集めて、対応するではダメだと思う。」

「どうしてですか?事故の確率は減るんですよね。」

「単に集めて、個別に対応するだけでは不十分だと言っているんだ。
 
 わしが思うに、個別にではなく、ヒヤリハットの共通点を見つけて、なぜそんなヒヤリハットが続くのかを突き詰めないと、根本的な解決にナラないんじゃないかと思う。」

「何やら、大げさになってきましたね」

「結局、ヒヤリハットだけを考えてはダメだ。
 ヒヤリハットを集めて、原因を考え、それを手順書とかに入れないと。
 あとは、あれだ。ほれ、最近よく言われれるだろう。
リスク・・・・、リスク・アセトンだ。」

「あ-。」

「そう、リスク・アセトンにヒヤリハットも入れないとだ。 

リスク・アセトンとかに入れてだな、KYとかにも盛り込まないとだ。」

「あ、KYもですね。」

「KYでヒヤリハットの話をいれているか?
 いれなないだろう?
 結局、お前だけの体験談で終わっいるわけだ。」

「入れないですね。恥ずかしいですもん。」

「いや、大事なんだぞ。
 ヒヤリハットが多いということは、本人の不注意とか未熟とかで済まないこともあるだろう。」

「そうですね。」

「お前はまだ未熟そうだがな。」

「いや、そこは流しましょうよ。」

「まあ、それはいい。
 何が言いたいかと言うとだな、ヒヤリハットがあったら、原因を調べて、再発しないような仕事のやり方を考えないといけないわけだ。
 今は、せいぜい次は気をつけろ、程度の扱いだからな。」

「鼠川さんは、ヒヤリハットとかに熱心ですね。」

「わしも昔、仲間が死んだ経験があるからな。
 事故は怖いんだ。だから事故になるかもしれない、ヒヤリハットも見過ごしたらいかんからな。」

「そうなんです。そんな経験があったんですか。」

「お前に、仕事のやり方を考え直せと言っても、無理なのは分かっている。
 だから、やるなら犬尾沢とか羊井辺りが中心にならないとだが。」

「2人とも、忙しいですからね。」

「そうなんだな。ヒヤリハットなんて考える余裕がないのが実情だな。

 根本的に仕事のやり方を考えるとかは、難しいと思うが、お前も頭の片隅にでも、ヒヤリハットを起こさない仕事のやり方はないかを考える癖はつけておけよ。」

「難しそうですが、わかりました。」

「頼むぞ。」

「はい。ところで、さっきリスク・アセトンて言ってましたけど、
 あれ、リスク・アセスメントですね。」

「はっ」

「いや、間違ってたんで。」

「なぜ、今言う?
 その時に言えよ。」

「すみません。
 何だか、口をはさみにくくて。」

「明日から、覚えておけよ・・・」

「えー」

夜はまだ続くのでした。

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私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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最後にCMです。
清文社さんより、安全に関しての小冊子を出しております。


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