ヒヤリハット8 保楠田を襲う飛行石の危機

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。

今回は、あわや「飛来」のヒヤリハットです。

保楠田を襲う飛行石の危機

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今回の仕事は、地中に水道管を設置することです。
この仕事を、犬尾沢ガウ、兎耳長ピョン、保楠田コン、そして猫井川ニャンのメンバーで行うことになりました。

仕事はの手順は次の通りです。
まずショベルカーを使って、土を掘ります。掘るのは幅1.5メートル、深さが2メートルで、溝のようにしていきます。

2メートルの深さを掘り、下まで降りて作業するとなると、土壁が崩れた時に、生き埋めになってしまう恐れがあります。
そのため今回は、土止め支保工を行いながらの作業です。

土止め支保工とは、土壁に矢板やプレートを当て、溝内から両サイドへ突っ張り支持を行うものです。つまり土壁の前にもう一枚壁を作るものです。

作業に取り掛かる前に、犬尾沢は全員に集合をかけ、作業内容と役割を伝えていきます。

「よーし。
 猫井川がショベルカーで掘削していくこと。
 兎耳長さんは、ダンプに乗って、土を運び出していって下さい。
 保楠田さんと俺は、土止めの矢板とか配管とかをやります。
 
 猫井川は分かっていると思うけど、この前ローラーをぶつけたみたいなことはしないように。」

「分かってますって。注意しますって。」

先日、振動ローラーを荷降ろしする時に、トラックにぶつけてしまったため、少しバツの悪い猫井川。
まるで何かの振りのようです。

「ははは。
 あまり工期が長くないから、段取りよく進めていきましょう。
 それでは、ご安全に!」

猫井川はショベルカーに、他の3人は土止め用の矢板の準備に向かいました。

「猫ちゃん、それじゃしっかり掘っていってね。」

保楠田が猫井川に声を掛けて、行きました。

「はい。
 とりあえず、順に掘っていきます。」

猫井川はそう答えると、ショベルカーに乗り込みました。
鍵を差し、エンジンを掛けると、ゴウンと唸りを上げました。

猫井川は、車両系荷役運搬機を技能講習を受講してから、何度もバックホウに乗り込んでいます。ようやく慣れてきたものの、まだエンジンを掛ける瞬間には、多少の緊張感を感じてしまいます。

動き出すときには、クラッチやペダル、操作レバーなどを、丁寧に確認しながら動かしています。ベテランの保楠田などは、何も見ず、慣れた手つきで操作していますが、まだまだその域に達するのは、時間がかかりそうです。

今日はショベルカーでの掘り方。いつもは保楠田が担当しています。
その代わりですから、猫井川にとっては大役です。

1つ1つのプロセスを確認しながら、ショベルカーを掘削場所まで移動させました。
そしてバケットを土に差し込みました。

土の表面は乾いており、やや固くバケットの爪が少し滑ります。
ガガガと音を立てて、土の表面がが数センチ削れました。

また同じ場所にバケットを突き立てると、今度は先程よりも深く突き刺さりました。

何度か表面を削る作業を繰り返すと、土は固く乾いた部分から、多少は柔らかくなってきました。こうなると深く掘ることができ、バケットの中に溜まる土も多くなってきます。

猫井川は、バケットいっぱいの土が溜まると、ショベルカー上部を旋回させ、兎耳長が乗るダンプの荷台に載せました。

掘って、旋回し、ダンプに乗せる。
何度かこの作業を繰り返すと、ダンプの荷台は土でいっぱいになります。

こうなると兎耳長は、ダンプを運転し、作業場内であらかじめ決めておいた場所に、土を下ろしに行きます。

ダンプが土を下ろしている間も、猫井川は土を掘っていきます。
掘られた土は、穴のすぐ脇に積まれ、ダンプが戻ってきたら、この土をダンプに乗せます。
この2人の共同作業が何度も続きました。

ある程度の深さまで掘ってきたところで、一度深さを確認することになりました。

猫井川は、スタッフと呼ばれる棒状の尺を穴の底にあて、深さを確認しました。深さ1.5メートル。
あと50センチ深く掘らなければならないようです。

「猫ちゃん、深さはどう?」

ふいに後ろから声がかかりました。
猫井川が振り向くと、保楠田が立っています。

「あと50センチくらいですね。
 保楠田さん、もうこっちに来て大丈夫なんですか?」

「うん。もう矢板は準備出来たから、穴が掘れたら土止めするよ。
 なんか、穴の底は石がゴロゴロしてるね。」

穴を覗き込みながら、保楠田が言います。

「そうですね。1.5メートルに近づいたあたりから、石が出てきました。
 残り掘っていきますので、保楠田さんは深さを見ていてもらっていいですか。」

そういうと、猫井川は再びショベルカーに乗り込みました。
保楠田は、少し離れたに移動します。

保楠田が穴から離れたことを確認し、猫井川は再びバケットを穴の底に入れました。
ゴリゴリとバケットの爪が石に当たる音がします。

先ほどと同じように、石混じりの土を穴の底から持ち出し、ダンプに積込みます。
この一連の動きを何度も繰り返す内に、猫井川は体は運転に慣れてきました。もうスムーズに操作できます。

掘って、旋回し、ダンプに乗せる。

この一連の動きを、何度も繰り返した時でした。

猫井川は、ショベルカーを旋回しようとしたところ、バケットの進路の先に保楠田がいるのを見ました。

「なぜそんな所に!?」という疑問、
そして「危ない、ぶつかる!」という危機感が頭を駆け抜けます。

猫井川はとっさに旋回動作を急停止させました。

急停止したおかげで、ショベルカーはビタっと止まりました。

大丈夫、保楠田にぶつかっていません。

しかし、旋回していたエネルギー、バケットの中の土石にも及びます。
急停止した勢いで、バケットの中の土と石が飛び出してしまいました。

ボト!

飛び出した拳ほどの石が保楠田の足元に落ちます。
ギリギリのところで石が当たることはありませんでしたが、土はしっかり保楠田の靴にかかりました。

「大丈夫ですか?
 何でそんな所にいるんですか?」

ほっとするどころの気分ではない猫井川は、運転席から叫びました。

「い、いや、スタッフ取ろうとしてね。。。」

保楠田も驚いたのでしょう。やや固まりながら答えました。

「もう、気をつけて・・・

「こらー!!よく見て操作しろや!!!」

猫井川が何か言おうとした言葉をさえぎり、怒鳴り声が響き渡りました。

犬尾沢です。

犬尾沢が、ちょうど二人の作業を見ている時に、事が起こったのでした。

怒鳴りながら、近づいてくる犬尾沢。

「猫井川!朝気をつけろと行っただろうが!!
 保楠田さんも、ショベルカーが動いている近くにいたら、危ないでしょうが!」

今回は保楠田も現行犯で逃れられません。
二人して説教です。

そうか、朝のはやはり振りだったのだな。。。

怒られながら、そう思ってしまう猫井川なのでした。

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ヒヤリハットの解説

今回は、保楠田さんが危機一髪でした。

今回のヒヤリハットは、ショベルカーでの作業中に、接触しそうになったものです。これは実際にぶつかってしまうという事故も少なくありません。

ショベルカーは単独で仕事するもありますが、そうでないことも少なくありません。
例えば掘削をしている時、穴の底や砕石を均したり、今回の作業のように配管を設置作業を行っているなどです。

ショベルカーのバケットは、大きく重い鉄の固まりです。
ぶつかってしまえば簡単に人は吹っ飛びますし、骨も折れます。
頭に当たれば深刻な被害になります。

ショベルカーとの接触事故を防ぐためには、何よりも作業範囲には立ち入らないことが原則です。
作業範囲にはカラーコーンなどを置くなどして、立入禁止区域を明確にするのも、有効な対策でしょう。

近づかなければ、当たりません。

しかしながら、実際の現場作業で、このことが厳密に守られているとは限りません。
バケットが土をかきあげる、そのすぐ側で深さを確認しているなんてことも、よく見かける光景です。

作業している人たちにとって、機械の側で作業することは、特別なことではありません。

繰り返し行われることは、例えそれが危険を伴うものであっても、慣れてきます。怖さも感じにくくなります。警戒感も薄れます。
しかし忘れてならないことは、慣れ=リスクの減少ではありません。

今回はヒヤリハットで済みました。
しかし、実際にはベテランが油断して、事故に巻き込まれるケースも、決して少なくないのです。

今回の保楠田は、バケットもぶつからず、飛び出した石にもぶつかりませんでした。仮にソフトボールほどの大きさの石が、当たっていたら、どうなっていたでしょう。
どうなるかは、想像できますよね?

ショベルカー等の機械の作業範囲には立ち入らない。
また、運転者も周囲の作業者も、しっかり周りに注意することが、この上なく大切ですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
ショベルカーを旋回したら、人がいて急停止。バケットから落ちた石がぶつかりそうになった。

対策
1.作業範囲を立入禁止にし、作業員が入らないようにする。
2.運転者も作業員も周囲の状況をよく見る。

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