ヒヤリハット18 新人、コンクリートの破片に負ける

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。

今回は鼠川の現役時代の話です。新人の方が、経験したヒヤリハットです。

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新人、コンクリートの破片に負ける

エスパニョール鼠川が奥さんの実家のスペイン料理店に猫井川を誘い、飲んで話しての時間は、続いていました。

時間も経ち、2人はいい感じに酒が回っていました。

「このアヒージョが旨いんだよ。猫井川食え!」

「はい。でももうちょっと冷めてから。」

「何だお前は。猫舌か!?
 名前が猫だからといって、舌まで猫でどうするんだ!
 熱いのが旨いんだ!くえー!」

「いや、熱いのはきついっす。」

そんなやり取りをしていました。

「わしらの仕事も、最近は若いもんが減ってきてるから寂しいもんだな。
 昔、それこそわしが若い時代は、たくさん働いていたのにな。」

「そうですね。うちの会社も平均年齢が高めですもんね。」

「年寄りばっかりだ。時代の流れかもしれんが、これから先を考えてしまうな。
 なぜ、この業界に入ってこないんだ?」

「まあ、『きつい、きたない、きけん』の3Kとか言われる業界ですしね。
 人気はないですね。」

「社会の流れが変わって、業界全体が厳しくなってきているな。
 わしが知ってるだけでも、いくつもの会社が廃業したからな。

 3Kか。確かにそんな面もあるのは確かだが、昔に比べたら遥かに事故はなくなってきたと思うんだがな。」

「おれも就活の時には、建設はあんまりいいイメージがなかったというか。
 それ以前に特に何も考えてなかったですけどね。

 入ってみたら、きついのはきついですけど、やりがいはありますけどね。」

「お前みたいに考えてくれる若者が増えるといいんだがな。
 わしがまだ現役の時にも、若いものは入ってきたことはあったが、すぐ辞めるのも多かったよ。

 こんなきつくて、危険な仕事はやってられませんとか言ってな。」

「その理由も分かりますけどね。
 仕事やっていても、危険なことはありますから。」

「そうだぞ、猫井川。
 わしも長いこと、この仕事をしているが、事故で死んだものもいた。」

「そうなんですか。」

「ああ。またその話はしてやるが。
 目の前でそういった事故があると、今でもつらいな。」

「そうですか。
 おれが入ってからは、まだそういうことは一度もありません。」

「ああ、ないほうがいいに決まっている。
 しかしだ、事故は本当にいつ起こるかは、誰にもわからん。

 まあ他のは、危険とかではなく、少し仕事して、嫌だーといって辞めたものもいたよ。」

「へー、そうなんですか。どんなです?」

「これは、もう10年以上前の話だが・・・」

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その日の鼠川は、新人を連れて、脱型作業を行う予定でした。

脱型とは、コンクリートが固まった後に、型枠を外す作業のことです。

型枠を支えているつっかえ棒を外し、ハンマーを使って、少しずつコンクリートから型枠を剥がしたり、釘を抜いたりします。

「おい、この辺りの型枠外すのを任せたぞ。
 この前教えた通りにやれよ。
 いいか、型枠の部分を叩くんだぞ。コンクリートの部分を叩くなよ。」

鼠井は、入って1週間目の新人に指示を出します。

「は、はい~。でもどんな風に叩くんですか?」

「ん、分からんか。
 手本を見せるから、よく見とけ。

 こうやるんだ!」

ガンガンと力強く型枠を叩くと、型枠同士の接続している釘は抜けていきました。そしてコンパネがパリパリと音を立て、コンクリートから外れていきました。

「わかったか?
 この辺りを任せるから、しっかりやれよ。」

そう言うと、鼠井はその場を離れ、別の場所での作業に向いました。

「ちょっと見せたくらいで、分かるわけないのに。
 そもそもトンカチも、どれを使っていいのか分からないし。」

新人は少し不満を漏らしながらも、指示された作業にとりかかりました。

「ここを叩けばいいんだな。」

ハンマーを掴むと、先ほど鼠井がやっていたように型枠を叩き始めました。

コンコン。

鼠井が叩く音とは全く違いました。
何よりも力強さが違いました。

型枠は全然外れませんでした。


「あれ、おかしいな。
 鼠井さんは簡単そうにやってたのに。」

今度は、ハンマーを両手で持ってゴルフスイングのように叩きました。

ゴン!

さっきよりも、大きな手応えを感じがしました。

「なるほど、こんな感じか。」

そして同じ要領で、ぶんぶんハンマーを振り回しました。

「えい!えい!」

一心不乱に繰り返しますが、気合とは裏腹に型枠は動きません。

「くそっ!外れろ!外れろ!」

思い通りにならない苛立ちからか、だんだん雑に叩きます。

少しずつ外れかけた時でした。

「おい!何やってんだ!」

不意に鼠井が声をかけました。

「ひぃっ!」

驚いた新人は、手元が狂いコンクリートの角を叩きつけます。

叩かれたコンクリートは割れ、直径1センチほどの破片が飛びました。

飛んで行った先には、新人の顔。

カンと乾いた音がして、コンクリートの破片は地面に落ちました。幸い、破片はヘルメットに当たったようでした。

しかし、新人はこのことで腰を抜かしてしまいました。

「危なかった、もうちょっとで目に当たってた。。。」

自分に向かって来たコンクリートの破片で、完全に腰を抜かしてしまいました。

「そんな雑な叩き方をしていたら、狙いが定まらないだろう。
 だから、コンクリートを叩いてしまうんだ。」

鼠井が呆れ半分に言いました。
すると、新人は、

「それは鼠川さんが、急に話しかけるからですよ!
 それまでは、いい感じに仕事してたのに!」

と、言い返してきました。

「なんだとー。へなちょこな叩き方をして、せっかく出来たコンクリートを壊しやがって。」

「そんなものは、後でくっつけたらいいじゃないですか!」

「ばかやろー!そんな考えで、いい仕事が出来るか!」

鼠井は大きな雷を落としたのでした。

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「・・・ということがあったよ。」

話を終えると、鼠井はグラスを開けました。

「その後、その人はどうなったんですか?」

猫井川は、新人のことについて聞きました。

「ん、次の日から来なくなった。
 こんな仕事はもうやりたくないってさ。」

「そうですか。
 もう少し続けていれば、力もつくのに。」

「そうだな。でも、そんなふうに思えるものも少なくなってきたのかもな。
 今のお前なら、わしが怒った理由は分かるだろう。」

「まあ、今なら分かります。
 雑に見えて、丁寧にやらなきゃいけないこともありますからね。」

「うむ。全くだ。
 コンクリ片が顔に飛んでくるのは怖いし、防がなくちゃいけない。
 そんな仕事をしてはいけないんだよな。

 猫井川は、少しは分かってきてるようだな。」

「いや、まだまだですよ。」

「それは分かってる。
 だからビシビシ鍛えてやるからな。」

「そ、そうですか・・・」

2人のグラスが空になり、テーブルに並んだ皿の上の料理もきれいになくなりました。

「では、今日はこれでお開きにするか。」

「はい。」

「今日は、わしがおごっておいてやる。
 また、この店に来てくれや。」

「あ、ありがとうございます。ごちそうさまです。」

猫井川は、鼠井にお礼を言い、席を立ちました。

「また来てくださいね。」

店を出る時、鼠井の奥さんに声をかけられたので、会釈を返しました。

「いいな~。」

そうつぶやき、猫井川は帰路についたのでした。

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ヒヤリハットの解説

しばらく続いた鼠井と猫井川の飲みながらの話しは、今回で終わりです。

今回は鼠川の昔の話でした。

建設業の若者離れどころか、人手不足は深刻な問題となっています。

構造改革等の社会の流れにより、建設業の従事者は減少しています。

また業界の高齢化も進んでいます。
若者の就業を促すことは、業界全体の課題でしょう。

それはさておき、建設業のイメージとしては、依然として3Kというものがあります。

肉体的にきついのはありますが、これはしばらく続けると慣れてきます。

汚れるのは仕方ありませんね。どうしても土やコンクリート、様々な建材などを扱うので、汚れてしまいます。

そして危険。
鼠川も言っていましたが、死傷者や死亡者数は、年々減少しています。
様々な安全対策や安全性の高い機械を使用することで、事故を減らす努力はされています。

おそらく一般的なイメージにされているよりも、安全対策は徹底されています。

一方で、業種別での死亡者数では、建設業が最も多いというのも事実です。

今回のヒヤリハットは、ハンマーでコンクリートを叩いてしまったところ、コンクリート片が飛んできたというものですね。

確かに飛ぶ角度が少し違えば顔に当たったり、目に当たったかもしれません。
今回はニアミスでしたが、危険な事故になる可能性はありました。

原因はというと、適切ではない作業方法によって引き起こされました。
そしてなぜ、そのような方法をとったのかの原因は、技術の未熟さが背景にありました。

力がなく、力任せに仕事をしていたところ、起こったヒヤリハットです。

誰もが初心者で、未熟です。
技術やコツを身につけるのは、教えられて、実践することです。

その過程では、失敗もあります。場合によっては今回のような冷や汗をかくような場面も少なくありません。
安全への配慮はあっても、100%防ぐことは不可能です。

残念ながら、今回の新人の方は、これを機に諦めてしまったようでした。

危険のニアミスは恐ろしいものと同時に、反省と次への対策にも繋がります。

怪我や大きな事故を防ぐためには、なぜ事故に至るのかを知ることも大切です。
ヒヤリハットは、とても肝を冷やすものも多いですが、同時に、事故防止の意識高揚にも役立つものなのです。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
ハンマーでコンクリートを叩いてしまったところ、コンクリート片が飛んできた

対策
1.狙いがブレるようなハンマーの叩き方はしない。
2.破片が飛んでくることに備え、ゴーグルなどを着用する。


私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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最後にCMです。
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特に今回のように、現場に不慣れな方向けの小冊子として、「ここがポイント!新規入場者教育」はおすすめです。


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