ヒヤリハット16 猫井川、今度はコンパネ通路でつまづく
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は久々に猫井川が主役です。コンパネで作った通路での、あわや「転倒」のヒヤリハットです。
猫井川、今度はコンパネ通路でつまづく
エスパニョール鼠川は、復帰そうそう、いきなりつまづいてしまいました。
ブランクがあったのか、もしくは久々の現場で緊張していたのか。
現役の頃には、決してやらかさないような転び方をしてしまいました。
「昔はこれくらいのコンパネなら1人で運べてたし、転んだりしなかったのにな。わしもやはり年をとったということか。」
先ほどのことが納得いかない鼠川は、ぶつぶつと独り言をこぼしていました。
「鼠川さん、仕方ないですよ。
それに俺もよくやりますから、気にしない方がいいですよ。」
がっくりした様子の鼠川を励まそうと、猫井川がそう声をかけました。
「いやいや、よくやっていたらダメだろう。
励まそうとしてくれるのは、分かるがな。
それにしても、年を取るのは嫌なもんだよ、猫井川。」
「年って。
でも鼠川さんは、若い奥さんがいるじゃないですか。
めちゃくちゃ羨ましいですよ。」
「まあな。そのあたりは、年とは関係なく、わしの魅力というところだな。」
少し顔がほころんだ、鼠川。
ちょっと気が紛れたようです。
「奥さんとは、どこで知り合ったんですか?」
「相手の親とは昔から付き合いがあってな。」
と、2人で話しながら、コンパネ板を運んでいったのでした。
材料をひと通り運び終えると、ちょうどミキサー車が現場に到着しました。
犬尾沢の方を見ると、配筋検査を行っています。
「犬尾沢さん、コンクリートの検査の準備は進めましょうか?」
猫井川は、犬尾沢に聞きました。
「おう、先にテストピースだけ取って行ってくれ。」
犬尾沢の返事を聞くと、猫井川はミキサー車に行き、試験準備を依頼しました。
「猫井川、いい段取りしてるな。」
そんな様子を見ていた、鼠川は感心して言います。
「しっかり鍛えられてますんで。」
照れる猫井川。
褒められ慣れていないので、こんな時、戸惑ってしまうのです。
コンクリートのテストピースを取り、試験の段取りを進めていると、配筋検査を終えた犬尾沢が合流しました。
「猫井川、サンキュ。
保楠田さんがバックホウで、バケットを吊るから、鼠川さんと、コンクリ打ちを進めていってくれ。」
保楠田がバックホウのアームの先に、コンクリートを運ぶバケットを吊るしました。このバケットの中に、ミキサー車からコンクリートを入れ、所定の位置で流し込むでした。
猫井川は、先ほど運んだ細長いコンパネ板を、配筋の上に置き、足場としつじた。
コンパネ板は1枚が幅40センチ。メッシュロードが準備できなかったので、余ったコンパネで作ったのでした。
長さは、配筋の端から端までも届かないので、直列に並べてました。板と板との間は、なるべくくっつけて1枚板の橋のようになりました。
「保楠田さん、ここからお願いします。」
猫井川は、コンクリートを流し込む位置を指示しました。
バケットが指示された場所まで移動したら、レバーを引きました。すると、底が開き、コンクリートが流れだしたのでした。
猫井川はブイーン、ブイーンとバイブレーターをコンクリートに突っ込み、型枠の隅々まで行き渡らせてきいました。
鼠川と猫井川は2人で、型枠の上を忙しなく動き回りました。
コンクリート打ちも中程になり、コンパネ足場での移動も増えてきました。
所詮、板を敷いただけなので、多少ガタガタしますが、作業には支障がありません。
先ほど転んだ鼠川も、不自由なく、足場を移動していました。
猫井川も慣れた足取りでした。
後退しながらバイブレーターを差しては抜き、差しては抜きの作業を繰り返しています。
猫井川が後退し、ちょうど板の継ぎ目に差し掛かった時でした。
猫井川のかかとが、継ぎ目部分のわずかな段差に引っかかりました。
その高さはほんの1センチ未満。
それでも猫井川の足元をすくうには十分な高さでした。
つまづき、よろける猫井川。
何とか倒れまいと、後ろ足でふんばろうとしとします。
顔は空を向き、上半身は後ろに仰け反ります。
そして、手にしたバイブレーターも腕の動き合わせ、下から上に動いたのでした。
バイブレーターは、鼠川の目の前をかすめます。
間一髪。
ギリギリ直撃は免れましたが、コンクリートが飛び散り、鼠川にかかったのでした。
下から上に一直線。作業服から顔に飛び散るコンクリートの飛沫。
猫井川は、なんとか尻もちをつかずに踏ん張ったものの、ほっと息をつく間もなく、怒声が響き渡りました。
「猫井川、何をやっとるか!!」
ヒィィと、首を縮めてしまう猫井川。
「自分で置いた板なんだから、しっかり足元に注意せんか!
もしこれがぶつかっていたら、大けがになっただろうが!」
顔についたコンクリートを拭いながら、説教する鼠川。
この説教はしばらく続きそうでした。
その間、バケットにコンクリートを入れたまま、どうしたものやらと迷う保楠田。
説教も一段落し、作業を再開したもの、「犬尾沢さんがもう一人増えたみたい」と恐れおののく猫井川でしたが、そんな猫井川に、鼠川が一言。
「これからは、しっかり教えこんでいくからな。猫井川。
お前は教えがいがありそうだ。
これは年をとったなんて、言ってられんな。ガハハハ」
猫井川という素材を得て、かつての勢いを取り戻そうとする鼠川。
そして、先行きに戦々恐々の猫井川なのでした。
ヒヤリハットの解説
前回少し意気消沈した鼠川は、猫井川の様子を見て、かつての姿を取り戻すきっかけを掴んだようです。
今後この2人の関係も面白そうなことになりそうです。
さて、今回はコンクリートを打設している時に起こった、ヒヤリハットです。
コンクリートは打設時には流動体ですが、ドロドロしています。
ただ上から流し込んだだけでは、鉄筋と鉄筋の間や型枠の角の部分まで、コンクリートは行き渡りません。
これを移動させてやるのが、バイブレーターという機械です。
バイブレーターは細い棒です。スイッチを入れると先端が細かく振動します。これをコンクリートに突っ込むのです。振動を受けたコンクリートは、ドロドロからトロトロになって、流動性が増します。こうして型枠の四隅まで流し込むことができます。
このヒヤリハットでは、そんな打設作業をしている時に、足場板でつまづいて、転びそうになったというものですね。
今回のように板を何枚か継いで作業通路にするときには、どうしても継ぎ目に段差や隙間が出来てしまいます。
場合によっては、高所での作業床でも段差があります。
配筋の上でしたら、転ぶくらいで収まるかもしれません。
しかし高所足場でつまづいた場合は、転倒が転落になりかもしれません。
つまづき転倒は、場所によっては、大きな災害の原因になるのです。
特にこの時は、猫井川が手にしていたバイブレーターが、鼠川の顔をかすめました。先端は硬いゴムです。もし当たっていたら、骨折も十分考えられました。
幸いぶつからなかったものの、コンクリートの飛沫がかかってしまいました。これも目に入っていたかもしれませんね。
転倒は、時として自分だけでなく、周りの人も巻き添えにすることもあるのです。
どのような場所であれ、足を引っかけたり、つまづかせたりする原因は、極力取り除きましょう。
隙間を埋める。小さな段差も生まないように取り付けるなど、方法としては、現場や手持ちの材料で限られるかもしれませんが、転倒防止対策は大切です。
特に高齢者も一緒に作業する場合は、転倒対策は非常に大切ですね。
猫井川という指導しがいのある対象を見つけ、元気になる鼠川。
それを束ねる犬尾沢は、どう扱っていくんでしょうか。
今回のヒヤリハットのまとめ
ヒヤリハットの内容
コンクリート打設時に、配筋の上の足場板に引っかかり、転びそうになった勢いで、バイブレーターをぶつけそうになった。
対策
1.足場板の継ぎ目は段差や隙間がないようにする。
2.足元が悪いところでは、後進など、不注意を招く歩き方はしない。
私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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