生成AIの安全衛生管理の活用について
Chat GPTなどをはじめとした生成AIは、多くの職業に影響を与える可能性が高いと言われています。特に知識の蓄積に付加価値があった職業には大きな影響があるのではと考えます。これは安全衛生の仕事に従事する私にとっても決して人ごとではありません。
安全衛生とは、労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を作ることであり、事業者すなわち会社には、その責任があります。私は労働安全コンサルタントとして、安全衛生コンサルティングの会社の経営を通して、企業をサポートしています。(会社HPでもコラムという形で記事を書いておりますが、これは立場を外れて私見を述べたいと思い、こちらで書いています。)
安全衛生は、労働安全衛生法という法令に基づくことが求められます。法令に基づいたアドバイザーは、私の仕事への影響は不可避です。そのため安全衛生の分野において、私のような労働安全コンサルタントのような専門家、アドバイザーは不要になるのでしょうか。単なるアドバイザーなら生き残りは難しいかもしれません。生成AIが不可欠になる時代、専門家としての付加価値は何かを検討してみます。
安全衛生管理とは
可能性を検討する前に私の仕事である安全衛生コンサルティングについて、少し説明します。
現在、安全衛生コンサルティング契約をしている会社は、100社以上です。主に安全衛生研修、現場パトロール・指導などをしています。この時行う指導は、法令(労働安全衛生法)に基づいたものです。クライアントから、多く寄せられる質問も「自社の安全衛生活動で、法的に適合しているか」です。
労働安全衛生指導は、労働基準監督署が管轄しています。その意味では私のような労働安全コンサルタントは、労働基準監督署と企業・労働者の中間に位置すると言えます。監督署に質問するのは気が引けるが、民間の立場だから聞きやすいという声も頂いています。
さて、安全衛生指導の中心は、法令に基づくものであるということです。法令に不慣れな方には、アドバイザーとして有用でしたが、生成AIの存在はこのアドバイザーの立場を揺るがしています。
生成AIの活用について
さて、ここからは生成AIについて確認していきます。生成AIはChat GPTが代表でしょう。その他、MIcrosoftのCopilot、Bing、GoogleのGeminiなどが身近なところでしょうか。私はこの記事をNotionで書いていますが、NotionもAIを搭載しています。今後は活用の幅が広がることは、不可避です。
質問に対して回答を返してくれる
Chat GPTなどは、質問(プロンプト)を書き込むと、その回答を与えてくれます。これは自然減とで行われるため、あたかも人が回答していると錯覚するほどです。特徴や使い方についての詳細は書籍や他のブログ記事でも多数書かれているのでここでは割愛します。
例えば、安全巡視員として次のような質疑応答になります。
これらの回答でも、見るべきポイントが法令根拠とともにわかりますが、さらに詳しい説明を求めることもできます。
このように、私のような労働安全コンサルタントが解答するようなことを、数秒でまとめてくれます。労働安全コンサルタントも人間ですので、質問に対して条文をネットなどで確認してから回答することもあります。記憶力と知識勝負では、どうも勝ち目がなさそうです。
活用範囲として
Chat GPTは、プロンプトを打ち込むことで、回答が得られます。どのような質問でも一定の回答をするので、様々な活用法があります。
調べ物
プロンプトに専門家としてのペルソナを与えることで、専門的な知見が得られます。要約
記事の要約を作成します。100文字など字数指定もできます。要約し、全文読むかの判断に使えます。翻訳
外国語の記事を日本語訳にしてくれます。英語以外の言語にも対応しているので、海外の情報を得るのに非常に有用です。翻訳した上で、要約させることもできます。アイデア出し、ブレスト
資料作成などでアイデア案をつくるときの壁打ちに使えます。テーマが決まっている場合、そのテーマに関わるネタ出しに使えます。出てきた回答に対して、質問を重ねることで、よりアイデアを深めれらます。
私も執筆や資料作成で活用しています。構成・校正
作成した文章のチェックにも使えます。文章構成や誤字、脱字などができます。ブログからメールまで、自分の目ではチェックしきれない場合に有用です。敬語を治すこともできます。
ここで紹介した例は一部にしか過ぎません。それこそアイデア次第で様々な活用ができます。Chat GPTなどは、人間しかできないと思われていたクリエイティブな仕事まで範囲が及んでいることだと言えます。
活用の幅が広いのですが、一方で問題点もあります。次はその問題点についても考えます。
問題点
Chat GPTを初めて使用すると、あまりにも自然な回答に驚きます。どのようなことでも回答してくれると思いこんでしまいます。しかし使い続けるうちに、回答に全面的な信頼が寄せられないことにも気がつきます。そのような点には注意が必要です。
生成AIは間違える
生成AIは、ネットの情報を収集し、要約しています。そのため誤った情報ソースを参照にした場合は、誤った回答となります。誤った回答を信じてしまうと、問題が起こります。どのような情報でも同じですが、生成AIが出した回答も、情報ソースに当たることも欠かせません。学習させる内容によって回答に偏りがある
生成AIは学習させることができます。しかし偏った思想や情報ソースを学習させることで、偏った回答になります。
特に注意が必要になるのが、回答に様々な差別が含まれる可能性もあります。ある意味、生成AIを教化することで、望む答えを導くことも可能なのです。著作権に配慮が必要
生成AIが出してきた回答が、著作権を犯している可能性もあります。これも情報ソースの確認が欠かせません。最新の情報には対応していない
生成AIが学習している情報は、少し古い情報です。そのため最新の情報には対応できていません。統計データをまとめさせる時、いつの情報なのかの確認も必要です。法令であれば、最新の改正は含まれていないこともあります。
非常に便利なツールですが、その情報を鵜呑みにすると危険です。生成AIが言っているから信じるでは、ネットのソースが不確な情報をむやみに信じることと変わりません。扱う側にも慎重な姿勢が求められます。
安全衛生管理業務での生成AIの活用
さて、安全衛生管理業務における生成AIの活用について検討してみます。個人的な見解ですが、非常に活用できるのではと考えています。
正しい回答のある内容は有用
行政に管理する手続きは、正解があるものです。安全衛生も法令に準拠する者なので、正解があるといえます。もちろん法令解釈には、個人の経験などが加味されることもあります。結果的に解釈に幅があることは事実です。
しかし、書類申請などにおいては正解がありますので、提出前にチェック機能として活用できます。
安全衛生は労働安全衛生法に準拠しているために、生成AIの回答に従っても大きな問題ないが・・・
安全衛生も法令に基づくものなので、法令の確認においては、生成AIの回答を信頼しても大きな問題はありません。しかし上記の例を見てもわかりますが、質問の仕方においては、非常に曖昧な回答になります。具体的にするためには、詳細な質問を繰り返します。詳細を詰めるためには、質問者にも一定の知識が必要となります。
また問題点でも述べた通り、最新の法令改正には対応していない可能性があります。そのため、回答が現在は間違っている可能性があります。
これらの注意点を念頭に置けば、安全衛生のコンサルタントを雇っているくらいの効果は発揮できるに違いありません。
human in the loopとしての専門家
専門家は単なるアドバイザーから脱却し、いかに付加価値を儲けるかが必要です。単なるアドバイザーとしての労働安全コンサルタントの有り方を検討することが必要です。
生成AIの回答は間違うので、専門家によるチェックが必要
Chat GPTなどで導かれた回答のチェックは、専門家の知見が活かされます。
上記で書いた通り、回答には誤りが含まれていることもあります。また存在しない語を用いて混乱を招くこともあります。また同じ質問をしても、異なる回答が得られることもあります。誤った情報を信じることは危険を伴うこともあります。
これらの中で正しい内容を判断するためには、専門家のチェックが有用となります。
専門家は、現場適用に関するアドバイザー
今後の専門家は、生成AIが導いた回答と実際の作業現場の間を取り持つ存在になることが求められます。
生成AIの回答は、法令解釈おいて正しいでしょう。一方でその回答が、そのまま現場に適用できるわけではありません。法令を解釈し、現場適用を考えることが求められます。ここには知識と経験を持つ専門家の知見が活かされることでしょう。やっていることは従来と大差ないのですが、法令だけでなく、現場を理解し、的確にアドバイスできることが今後の専門家としての価値を高めることになります。
法令にない判断に迷うケースは専門家だからこそ対応ができる
法令だけ判断に迷うことがあります。このような場合も、専門家の知見が活かされます。
実際に現場では、法令違反ではないが危険な箇所はたくさんあります。その状況に応じた対応を検討しなければなりません。いわば正答のない問題の検討です。生成AIも何らかの回答を出してくれるでしょうが、一般論にとどまるでしょう。法令知識+検討が必要です。+検討こそ専門家が知見を発揮する場といえます。
以上が、生成AIの時代にも、安全衛生の専門家が活かされる可能性になります。法令だけをしているだけでは今後価値はありません。むしろ専門家こそ生成AIへの理解を深め、活用し、その上での知識と経験を活かすことを考えなければなりません。加えて、専門的な内容を、わかりやすく表現する方法を学ぶ必要もあります。
現場への適用こそ、専門家の活路の1つでしょう
安全衛生の専門家として活き残るなら、専門家としての付加価値を磨くことが求められます。
その他の活用の可能について
さて、最後に少し安全衛生の業務において生成AIで活用についても紹介します。これらは私が今使っている方法ですので、他にもあるのでしょうが、いくつかの例としてご理解ください。
ちなみに私は、Chat GPTの無料バージョン(バージョンは3.5)とWINDOWS11に搭載されているCopilotプレを使用しています。
簡単な調べ物ではCopilot、その他アイデア出しや文章関係は、Chat GPTを使っていますj。
ネットで条文検索する代わりに質問する
法令を検索する場合、ネットで検索する代わりに質問をします。情報のサマリーを作ってくれるので便利です。ただし間違っている可能性があるので、情報ソースを書くにすることも求められます。
法令の活用についてアイデアを聞く
Chat GPTで、作業状況を設定し、法令の適用について質問し、アイデアを聞きます。多くは一般論ですが、時々思いがけない方法などが得られることがあります。
特に、詳しくない作業などでは役に立ちます。
安全講話や執筆でのアイデア出し
私は安全大会などの講話を年間100回以上行っています。毎月2本の雑誌連載や小冊子の執筆もしています。
資料や文章を書く時、アイデア出しに役立てています。以前はネットで情報を調べて、アイデアを考えていましたが、Chat GPTのおかげで、かなり時間が削減されました。
その際は、経営向けや新入社員向けなど、対象者を想定して質問すると、内容を絞り込めます。
ただし生成AIで作った文章は、まだ不自然さ、冗長さを感じます。そのため文章をコピペはおすすめできません。生成AIが書いた文章をそのまま転用すると分かります。
文章の校正
文章を書いていると誤字脱字は避けられません。ネットの校正サービスを使用していますが、Chat GPTは代案を提案してくれるので、非常に重宝しています。
これらの活用方法については、また別の機会にコツなども含めて紹介できればと思います。
さて、今回は安全衛生活動における生成AIについて書いてみました。労働基準監督署の監督官ほどではありませんが、私も安全衛生の専門家の端くれです。
知識を売りとする専門家にとって、生成AIは脅威ではあります。しかし生成AIの活用は今後当たり前になるでしょう。その中で専門家として活きる方法について検討してみました。
まだまだ検討することが多いのですが、生成AIを活用する労働安全コンサルタントとして可能性を探っていきたいと考えております。
もし、労働安全コンサルタント、労働安全衛生業務として興味を持っていただだけたら、こちらが会社のHPになります。
株式会社安全教育センター
HPには、その他のコラムも載せておりますので、ご興味いただければ別の記事もご覧いただけると幸いです。
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