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ダンボール箱の彼 #寄せ文庫

まだ、noteを初めて間もない頃だ。一年ほど前のことだ。慣れぬツイッターを不安気にいじっていたら、私の書いた記事が出てきた。私の記事に誰かの感想が乗っかっていた。これは一体何だろうか。
それが“帯”と呼ばれるものだと知るのは少しあと。私はただただ、その感想を抱き締めた。抱き潰すほどに抱き締めた。それがふみぐらさんだった。
あの一本の帯を、私はきっと忘れられない。
どこまで行っても、忘れられない。

そして私はふみぐらさんのnoteを訪れることになる。
掴みどころがなく漂う雰囲気の中、匂い立つ揺るぎない本質。読み終わる頃にはいつも停止した脳内で単語が幾度もリフレインするのだった。
中でも、取り憑かれたように何度も読み返した作品がこちら。






昼間の公園で休んでいたら、目の前を男性が横切っていった。
ダンボール箱をいくつも抱えている。その姿は明らかに目立っているが、本人は涼しい顔をしている。
50代位のスーツ姿の会社員が彼を引き止めた。少し言葉を交わすと、彼は会社員の足元に箱をひとつ置いた。会社員は会釈をすると片足を箱に突っ込んだ。大きな体は斜めにひっくり返りながら消えていった。

彼がこちらに向かってきた。

「あ、ダンボール、」
「一箱でいいですか」
「あ、はぁ、」
「じゃあここ置いときますね。では」

そして彼は去っていった。
蓋を開けて覗き込むと中は暗闇で、広いのか狭いのかわからなかった。私はおもむろに右足を踏み入れた。その途端、体はがくりとバランスを崩し斜めになって落ちていった。
行き着いた目の前に、電車が滑り込んできた。プシューと開いたドアにつられて乗り込むと、目に涙を溜めて上を向く男性が見えた。

田町、田町です、と涙声のアナウンスが響く。その声は徐々に震えだし、次は高輪ゲート、で途絶えてしまった。ゲートウェイ…と誰かが代わりに言い、続いて誰かがすすり泣いた。
こんなに切ないゲートウェイは初めてだったので、私の目にも涙が滲んだ。



ふみぐらさんは、涼しい顔で意味深なダンボールを抱えて歩いているイメージです。
あ、要ります?はい、どうぞ。
そんなイメージ。

今、私の部屋にはダンボールがいくつも積み上がっています。大きいものから小さいもの、平べったいものまで。
今度は細長いものなんかを試してみようと思っています。
次会えるのはいつだろう、と公園のベンチでぼんやりする日々。反対側のベンチには、あの会社員も座って待っているようです。

ふみぐらさん。一日も早いご回復をお祈りしています。



サラさん、素敵な企画を立ち上げて下さりありがとうございます。そっと寄せさせていただきます。



ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!