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恋なんて

#お花の定期便 というハッシュタグで、週一回エッセイを投稿している。取り留めようもない私の独り言を綴るという目的で始めたものだ。何を書いてもいい、どんな言葉を置いてもいい、そんな場所が欲しかった。

最近は、小説講座を始めたこともあり、『書く』ことを考え続けていたので、エッセイもそのような内容になっていた。この辺で、ちょっと頭を解いて好き勝手に書いてみようと思う。

恋ってなんだろうな、
と不意に浮かんだ言葉を置いてみた。
テーマなんてなんでもいい。記憶を辿ったり、その道筋が現在の私に繋がる瞬間が見えたりすることが、楽しいのだから。

初恋は多分小学校二年だ。あれは確かに恋だった。
けれど初めて好きな子ができたのは?と訊かれれば、保育園児の頃と答える。色白で背が高め、あまり騒いだりしない可愛らしい顔の男の子だった。
高校生になった頃、病院で彼を見た。もう随分背が高く、顔の造りも男らしくなっていた。手指がびくっと波打った。心の中で彼の名前が立ち上がった。にきびが頬から顎にかけて点在しており、そういえばこの病院には皮膚科も入っていたと気づく。
彼はただ待合室に腰掛けていただけだ。受付から名前を呼ばれるでもなく、私のほうを見たわけでもない。面影は多少あったのかもしれないが、それだけでは彼が彼であることは不確かなはず。それでも私は確信した。あれは、確かに十数年前に私の胸の中に灯っていた子だった。
「好き」という感情は不思議なものだとつくづく思う。形なく浮遊しているようで、強固な鋼のように揺るぎない。

恋をしていた。八歳から十五歳まで。七年もたった一人に焦がれていた。
中学三年の冬に伝えた。三年間好きだったと伝えた。三年も、と彼は繰り返した。
付き合い始め、会話を紡ぎ、互いの中身を見せ合っても、七年のことは打ち明けなかった。
別れが来て、伝えなかった四年間が私の中に残った。伝えた月日の倍以上、私が彼を想っていたことを、彼は知らない。
幼くて、足りなくて、大切にできなかった私の初恋。散々に傷つけて終わらせた。今でも彼はたまに夢に出てくる。

七年の間に何度空を見上げただろう。帰り道、その日の彼の仕草を空に映しながら帰った。
男子の塊の中心から聴こえる笑い声。先生に当てられ戸惑う表情。学年集会で体育座りのまま床を見つめる虚ろな目。陸上部のスタートダッシュ。上げた顔になびく前髪。風が振り切られていく。
残像の向こうに雲が流れていた。やがて私は雲には二種類あると気づいた。風に流れる雲があり、そのずっと奥にじっと動かぬ雲があった。
まるで、心の内のようだと思った。目まぐるしく移ろい行く日々のあれこれ、その奥に鎮座する君。君だけは、私の心の中から消え去らない。そう思った。

恋ってなんだろうか。
結局よく分からなかった。記憶を呼び起こしてみても定義づけられなかった。
けれどもしかしたら、空や夕日や雨や月に自分を重ねてしまうような症状なのかもしれない。永久に波打つ宇宙とすんなり一体化してしまうような、そんな現象なのかもしれない。
分からないことが分からないまま終わっていく。今週の #お花の定期便 はこんな感じ。なんだか人生って感じ。きっと恋なんて一生分からないんだろうな。


花瓶の下に置いてある輪っかは、
公園から帰ってきた次男が頭にかぶっていた
木の冠です




#お花の定期便 (毎週木曜更新)とは、湖嶋家に届くサブスクの花束を眺めながら、取り留めようもない独り言を垂れ流すだけのエッセイです〜



ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!