心地よい違和 ─クリスマス#金曜トワイライト映像化に寄せて
『 リ ラ イ ト と は 』
検索する指先は少し強張っていたと思う。
この時、もう私は走り出していたのだと思う。
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『#金曜トワイライト』の文字がツイッターのタイムラインを埋め尽くしていったのは風もまだ爽やかだった秋の頃か。個性豊かなリライト作品が次々と生まれ流れ、その波がぐんぐんと激しさを増していくのを、ただ見つめていた。
何度書き始めて捨てた下書き。とうとう投稿出来なかった。締め切りのあの日、私は小さく燃えていた炎をひとり吹き消した。それは、生まれかけの、まだ点のように小さな小さな命をこの手で握り潰したかのような苦々しい一瞬だった。その苦みが付きまとうから、苦みが苦しさに化けるから、あれからずっと私は、自分とあの子を救いたかったのかもしれない。
季節が移ろいで、 #クリスマス金曜トワイライト の文字がツイッターのタイムラインに流れ込んできた時、あの苦みが一層濃くなるのを感じた。向き合おうとするも、あまりの苦さにまた足が逃げようとする。
そして逃げた。私はまたも逃げた。また何枚もの下書きをバサバサと地面に散らして私は逃げた。
その時、背後から柔らかな声がした。
『募集期間延長します。』
咄嗟に振り返ったら、あの子がひとり地面に転がっていた。一度裏切り捨てたあの子を両手ですくい上げ、私は書き始めたのだった。
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2月13日、私の目の前には、ある映像が広がっていた。
そこには、画面に静かに浮かび上がるあの子の名前と私の名前があった。
深い声が語り始める。涼雨零音さんだ。否応無しにこの体に染み入っていく声。ふたりの未熟な熱を、少し離れた場所でしっかりと見届けるような眼差し。映画館の匂いがする。心地よい暗闇が私を包む。深く響くその声は、この体を預けた深紅のシネマシートに溶けていく。
何度も私の文章を読み込んでイメージを膨らませて下さったという猫野サラさんのイラスト。彼女の頬に乗った微熱、瞼に乗った影がそのまま画面の中に息づいていた。
ふたりの数秒、それは彼女の一生。彼女は生きていた。しっかりと。その姿が見られて私は静かにこの胸が灯るのを感じた。それは、私の中から飛び出した彼女に会えたからではない。誰かが私の文章の中に入って、彼女と出会い、手をとって連れ出してくれた。そんな灯りだった。
ゆっくりと走るピアノの旋律は、ふたりで過ごした初めての夜を香わせる。古い洋館のあの柱時計、深紅の絨毯。その旋律は、重みをしっとりと含みながら微熱の中を走りきり、最後はその重みをバネにして立ち上がると、しなやかに弧を描いてふたりの記憶のなかに消えていった。尾びれまで美しい金魚のように。残り香まで美しい彼女のように。
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賞品─映像化、という文字がぼんやりとこの目をかすめた数ヶ月前。はっきりとイメージできず、総合大賞を戴いてもなお、ぼんやりとしていた。
しかし、その創り上げられた映像作品を目の当たりにした時、その靄がかった視界に心地よい違和が流れ込み、晴れていった。
それは、私が真っ直ぐに見詰める自分の文章、から、微妙な角度にずれた別の世界のようだった。
そこに広がっていたのは、誰かの角膜を通して観る私の世界だった。
まるで慣れきった自分の部屋に新たな香りが微かに混じったような、見慣れた風景がほんの少し傾斜して玉虫色が別の角度に光ったような、そんな違和感。心地の良い違和感。
全く別の世界になったのではなく、それは確かに私の世界のままなのに、さらに奥行きを増したような、さらに色味が混ざったような広がり方をしていた。
自分の書いた小説が映像化される、漫画が映像化される、その原作者たちが、スクリーンを目にした瞬間の感覚。その切れ端のような部分に触れた気がした。
私はふと、池松さんを思った。
きっと彼も、こんな気持ちになっていたのかも知れない。
自身の書いた小説に、多くの書き手の感性が流れ込み、様々な色が溶け入っていくのを、そして様々な形、方向に広がっていくのを、心地よい違和感の中で、満足気に眺めていたのかもしれない。柔らかな笑みを浮かべて。
そんな気がした。
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こんな思いを抱かせてくださった、皆さんに感謝します。
メイキング記事を読めば職人技が光りまくり、私などには到底理解できない部分も多々あります。それでもグイグイ読んでしまうのは、やはり、創作そのものを楽しんでいるのが伝わってくるから。私もこんな創作の渦の中にいたい。体当たりを楽しんでみたい。追求してみたい。そう思わせてくださったお三方に敬意を表します。
さらに、オリジナル篇とアナザースカイ篇の2パターンを制作され、その #違いを探せ イベントまで行うほどの遊び心。
まだまだ創作の渦から抜け出せそうにありません。多くのインスピレーションを、ありがとうございました。
ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!