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深い愛を受け止められなくて

 二年前のバレンタインの日に私は愛の告白を受けた。京都市内にあるお土産屋の袋に、手作りのスコーンと一枚の恋文だった。彼女のそうした思いに気が付くことができなかったから、動揺した。なんとなく、断ってしまった。

 愛をくれた彼女のことを傷つけてしまったと思った。私は幾度となく誰かを傷つけてきた。意図を持って傷つけたことはなかったと思うが、自分の中の常にある焦りや緊張が、ふと誰かを傷つけてしまうことが何度もあった。意図がなかったゆえ、そのたびひどく辛い気持ちになる。 

 彼女は近くの人に私のことが好きであること、キャンパスの移動になる新学期の前に告白をしておこうと決意したことを、伝えていたようだ。そのことを、近くの人から聞いた。そして問い詰められた。

 「どうして断ったの?」「もともと眼中になかったのか、考えあぐねた結果断ったのかどっち?」「ヤればよかったのに」

 無神経な質問の連打に当惑して、嫌気が差した。断った理由など、ない。ひねり出したくもない。愛に対して意図を持って軽い気持ちで接することは到底できない。された辛さを知っているからだ。

 面白半分で追求して、私が悲しい顔をしたのを察して「ごめんごめん、もうこの話はやめにしよう」と申し訳なさを含めた笑顔で話題を変えてくれた人がいた。彼は辛さをよく知っている人だった。

 精神的に満たされないからといって深い愛を望んでいた身勝手な私は、深い愛を受け止める辛さを知った。そのことに気がつくと、また過去の別の失態にも気がついて、苦しくなった。

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