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1 異変の始まり

 夜、窓の外に鳴り響く雷の音と、窓ガラスを打ちつける雨の音。俺の部屋は、夜の静けさとともに暗闇に包まれていた。手元には僅かな光を灯し、新しく手に入れたカードを眺めていた。【邪神の覚醒】。その名の通り、そのカードからは強烈な存在感を感じる。

 俺、神崎ジンはこの世界のチャンピオンとして、様々なカードを手に入れてきたが、この【邪神の覚醒】は他とは違っていた。独特の輝きを放つそのカードは、まるで生命体のように感じられるほどだった。何故か不思議と目を引く存在感があった。

「邪神を呼び出す力があるって話だ。まあ、信じるかどうかはお前次第だよな」

 そう言って友達のケンが渡してくれたそのカードは、どこか他のカードとは違う存在感を放っていた。どこか神秘的、だけど怖さも感じさせる。その言葉を思い出すと、何となく心臓がドキリと高鳴った。

「邪神を呼び出すだって?馬鹿げてるな…。」

そう自分に言い聞かせながらくすりと笑った。ただのゲームの一部であるカードが、なんで現実世界に影響を与えることができるんだ?全くバカバカしい。

 だが、その後、カードを使い始めると、なんだか妙なことが起こり始めた。それは、直接的にゲームのプレイに影響を及ぼすものではない。だが、俺自身には気になる出来事だった。例えば、何度も見たことのない夢を見たり、聞いたことのない囁きが聞こえたり、そして何とも言えない不安感が胸を締め付けるようになった。それらは、カードを使うたびに、より強く感じるようになっていった。

 夢の中では、人とも獣とも思えないような声が聞こえる

(ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが なぐる ふたぐん)

文字にすると、そんな感じだろうか?どこの言葉なのかもよくわからないが、何度も同じ言葉が出てくるのですっかり耳にこびりついてしまった。

 そのころから、怪しげなカルト集団が俺の周りをうろつき始めた。

 ある夜、家に帰る途中だった。
 急に異様な雰囲気が身の周りに纏わりつき、湿度の高い夜の空気が服に張り付く。その空気が俺を押し潰すかのようだった。
 それに呼応するかのように、路地裏の街灯が石畳に影と光の模様を描き出し、何かが始まる予兆を感じさせた。
 自分の背後で何かが動く気配を察すると、振り返ると一瞬だけ深淵のように深い闇から二つの目がこちらを見つめていた。

 目が合った瞬間、それは再び闇に飲み込まれた。その後、ずっと背中に残る不安感を振り払えずにいた。

 翌日、自分の部屋に見知らぬ手紙が一通届いていた。名前が書かれた紙を開くと、「【邪神の覚醒】を我々に渡せ」と書かれていた。その文字から滲み出る圧力に、胸が重くなる。

 それを見て、昨夜の視線の主が何を望んでいたのかを直感した。怪しげなカルト集団がカード【邪神の覚醒】を欲しがっている、それが一体何を意味するのかはわからない。だが、確かなのは、彼らがこのカードを何が何でも手に入れようとしているということだ。
 手紙には『闇夢想教団』と書かれていた。

 闇夢想教団からの手紙を握りしめ、俺は深く息を吸い込む。これからの日々は一枚のカードを巡る戦いになるだろう。
 できることなら、こんなカードはさっさと手放して、奴らに渡してしまえば良かったのだろうが、俺の直感がそれを拒んだ。

 こうして、俺の日常は一変した。ただのゲームのチャンピオンから、現実世界と邪神を巡る戦いへと巻き込まれていくという、予想だにしなかった展開に、俺自身が驚くほどだった。ただのゲームだったはずの「シャドウレルム」が、現実の世界に影響を及ぼし始めていたのだ。

 全ての出来事が連鎖し、俺は混乱の渦中に立たされる。それでも、このカードを守り抜く覚悟を決めた。なぜなら、これがただのゲームである以上に、俺にとっての現実だからだ。カードを巡る闘い、それが俺の運命だった。

 だが、これはまだ始まったばかりの物語で、俺が巻き込まれていく未知の世界の序章にすぎなかった。

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