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ネクロメタの響き

 電子の世界は、いつの間にかリアルとデジタルが融合し、「メタバース」と呼ばれる新たな空間を形成していた。IoT(Internet of Things)のおかげで、あらゆるものがインターネットにつながり、人々は日常生活の中でメタバースを自由に行き来していた。

 寂れた古書店の奥には、古くから伝わる禁書のひとつ、「ネクロノミコン」のレプリカが収められていた。店主はこれをメタバースに取り込み、古書の新たな形としてデジタル化することを決意した。彼はこの本に隠された秘密を解き明かすことができると信じていた。

 完成したのは「ネクロノミコンVR」。古書の魔力は、デジタルな世界でも変わらず魅力的だった。しかしその内容は、メタバース内でのみ解読できる特別なものとなっていた。その本に触れる者は、リアルとメタバースの境界を越える力を得ることができたが、その代償として自分自身を失う危険もあった。

 ある日、IoT研究者である祐一は、このデジタル版「ネクロノミコン」を購入し、自宅のVR機器で内容を読み始めた。ページをめくるごとに、彼の周りの物たちが奇妙に反応を示し始めた。家中のIoTデバイスが、まるで生き物のように動き、彼を見つめているかのようだった。

 祐一は次第にその本の中に取り込まれ、現実の区別がつかなくなっていった。彼の身体はVR機器の前で座ったままだったが、心はネクロノミコンの深淵へと引き込まれていった。

 あるページには、古代の儀式でIoTデバイスを使って人々を操る方法が書かれていた。その内容を読むと、祐一の部屋の電気や家電が勝手に動き出した。彼はその力を制御できず、周りのデバイスたちに囲まれてしまった。

 突如、部屋のドアが開き、店主が現れた。彼は「ネクロノミコンVR」の力を正しく使うための知識を持っていた。彼は言った。

「これはただのレプリカではない。リアルとメタバースの境界を越える力があるのだ。それを使えば、この世界を変えることができる。」

 店主は祐一に手渡した。

「これはIoTコントローラだ。これを使えば、あらゆるIoTデバイスを自在に操ることができる。ネクロノミコンの力を使って、自分の思い通りに世界を変えてみなさい」

 祐一はIoTコントローラを手にした。その瞬間、彼の頭の中にネクロノミコンの声が響いた。

『我はお前に力を与える。しかし、その代わりとして、お前は我のものとなる。お前はメタバースの中で永遠に我と共にいなければならない』

 祐一は驚いたが、すでに遅かった。彼はIoTコントローラから手を離すことができなくなっていた。彼は店主に助けを求めたが、店主は冷笑した。

「あなたはもう戻れない。あなたはネクロノミコンの餌食となった。私は、この本の力を手に入れるために、あなたを利用しただけだ」

 店主は祐一を置いて去っていった。祐一はVR機器からもIoTコントローラからも切り離されず、メタバースの中に閉じ込められてしまった。

 現実の世界で、祐一の家は静かだった。彼の身体はVR機器の前で動かないまま、周りのIoTデバイスたちは彼を見守っていた。しかしメタバースの中では、祐一は新たな力を手に入れ、その世界を自由に飛び回っていた。

 彼はメタバース内で、自分が望むものを作り出した。美しい風景や魅力的な人物や驚くべき出来事を創造した。彼は自分が神だと思い込んだ。

 しかし、それらはすべてネクロノミコンの幻影だった。彼が作り出したものは、すべてネクロノミコンによって支配されていた。彼は本当の自由や幸せを得ることができなかった。

 結局、リアルとメタバース、どちらが真実なのかは分からない。しかし、古書「ネクロノミコン」の力は、どちらの世界にも存在していることは間違いない。

(了)

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