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4 運命のシャドウデュエル

 ついに最後の戦いが始まる…。
 俺はカルト教団の用意したリムジンに乗り込み、奴らの待つ教会へと向かった。

 教会に着くと信者たちが俺をうやうやしく出迎え、奥の間に通される。
そこには邪悪な教団のトップとは思えない程、若く美しい女が一人、座っていた。
 教団トップである大僧正のナイア・深瀬だった。

「神崎ジンさん、お待ちしていましたよ」

 女はぞくりとするような声で俺に語りかける。

「それでは、早速始めましょうか…」

 混沌と化することが必然のシャドウレルムが始まろうとする中、俺は【邪神の覚醒】を懐に握りしめ、カルトの大僧正と対峙した。これが俺の運命の戦い、カルト集団との最終対決だった。

 デュエルが進められる中、ふいにナイアが俺に語りかけた。

「あなたが持っている【邪神の覚醒】は、ただのカードではありません。それは古代の神、クトゥルーの力を封じ込めたもの。あなたの魂は、そのカードに封じられた力に呼応して、カードを引き寄せることになったのです。だから、我々は君からカードを奪うのではなく、あなた自身を手に入れようとしたのですよ」

「何だって?どういうことだ?」

俺は彼女に問いかけた?

「まだ、わかりませんか?我々が欲しているのは、【邪神の覚醒】というカードではなく、あなたの魂、そしてその魂が持つ力そのものなのです。さあ!ちょうど星辰も正しき位置になります!あなたもその力に気づく時なのです!」

 ナイアの言葉が耳に響く。その声を聞いて俺は硬直した。カードが、自分自身が彼らの狙いだったとは。
 しかも、自分の魂が邪神の力と同調しているというのだ。彼の意識の底に潜んでいた「何か」が、徐々に表面化してくる。

 彼女の言うことが全て事実だとしたら、俺の中にはどんな力が眠っているのだろうか?その思考が頭をよぎった瞬間、俺の頭の中には闇の記憶が流れ込んできた。それは単なる俺の生涯の記憶とは違っていた。遥かな古代から続く、時と空間を超越した存在、それはまさに神、クトゥルーそのものの記憶だった。

「なんだ…、これは…」

 それは見たこともない、人間の理解を超える広大な世界。神々の戦い、混沌と破壊、それは終わりのない壮大な戦乱だった。俺が見ているのは人間の範疇を超え、無限の時間と空間を彷徨う神々の世界だった。

 そして、その全てが俺の中に眠る力と深く結びついていた。それは神と人間の力が混ざり合い、古代から今に至るまで続いてきた何かだった。

「俺が…これを引き起こしたのか…」

 自分自身がこんな事の中心にいるなんて、信じられない。だが、俺の目の前には戦うべき相手がいる。その混乱を振り払い、再び立ち上がらなければならない。

 俺の眼差しはクトゥルーの記憶を経たことでさらに鋭く、目の前に立ちはだかるナイアに向けられた。

「だが、それが何だと言うんだ!俺がやるべきことは変わらない。ナイア、お前の戦いで、俺がデュエルを制することだけだ」

 俺の雰囲気は、ここに着いたときとはすっかり変わっていたと思う。
 その目は邪悪な光を携え、身に纏う空気さえ切り裂きそうなオーラを放っているのが自分でもわかった。

 デュエルが再開するとすぐに、俺は自分の魂に眠る力に取り込まれたが、俺にわずかに残ったカードプレイヤーとしての本能がカードデュエルを続け、手札から場に出し、一気に攻勢に出た。
 しかし、大僧正ナイアの手札からは、俺が見たこともない強力なカードが次々と出現し、俺の戦術を打ち破っていく。

「これが、俺の魂とカードの力だ!」

 俺は【邪神の覚醒】を場に出した。
 俺の声はシャドウレルムを揺るがし、【邪神の覚醒】の力が解放された。 しかし、その力はついに俺自身をも飲み込んでいくことになった。俺の意識が闇に飲まれていく中で、世界は混沌と化し、現実とゲームの境界が曖昧になる。

 意識が薄れゆく中で俺が目にしたのは、眼前の大僧正ナイアが得体のしれない何かに取り込まれ喰われていく姿だった。
 その何かが【邪神の覚醒】から出てきたのか、それとも俺自身から出てきたものなのかは俺にもはっきりしない。

 俺が引き起こした邪神の覚醒は、この現実世界にも影響を及ぼし、大きな混乱を巻き起こすことになった。


 気づくと俺は、俺のマンションの部屋に座っていた。
 窓の外を見ても普段と変わらない様子が広がっている。

 だが、異変に敏感な奴らは既に気づいているし、俺も知っている。
 俺が何を引き起こしたのか、そしてそれがこれから世界に何を引き起こすのか…。

(やつらはまんまと成功したのだ。俺の力を使って邪神を呼び出すのに成功した…)

 俺は絶望的な気持ちで、一見何も変わらない風景を見つめながら、夕暮れの中、世界が闇に飲まれていくのを見届けていた。

(了)

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