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『The Callisto Protocol』から考える、CEROのリスクと改善案について

既に各所で報道されている通り、2022年12月2日に発売予定であったSFホラー『The Callisto Protocol』が、「CEROによる日本国内レーティングを取得できなかった」という理由で、発売中止となることが発表されました

今回のニュースですが、「CEROの規制によって海外の話題作が日本で発売できなくなった」という表層の一段奥に、「CEROが機能不全に陥るリスク」が潜んでいると感じています。

そして、仮にゲーム業界の外側に「自主規制がうまく機能していない」と見なされてしまうと、「ゲーム害悪論」が取り沙汰されている昨今、よくない結果を招く恐れがあると考えます。

本記事では、そのリスクについて指摘した上で、改善案を提案したいと思います。

CEROが機能不全に陥るリスクについて

筆者が考えるリスクとは、「CEROのレーティング基準が世界的なトレンドからかけ離れているが故に、かえって、抜け道の横行を許すことになりうる」点です。

今回の『The Callisto Protocol』のように、日本版の発売をアナウンスしていながら発売中止に至ることはさすがに珍しいです。しかし、海外では通常のレーティングを取得している作品が、日本国内では、「Z指定」であっても一部表現・ミッションの削除など、改変を余儀なくされることは、もはや当たり前のこととなっています。

このような例は、「露悪的な残虐性」をウリにするような一部の悪趣味なタイトルに限った話ではありません。『Grand Theft Auto (GTA)』『Fallout』『Assassin’s Creed』など、AAA大作シリーズのほぼ全てに当てはまります。

2020年に発売された『Assasin’s Creed Valhala』は、一時的にCERO未審査版が販売され、CEROから説明を求められる事態に発展したことがありました(画像は公式サイトより)。

現代のビデオゲームのトレンドを形成しているビッグタイトル群が、日本国内では、製作者が意図するオリジナル表現で遊べない、というのは、CEROのレーティング基準が世界的なトレンドとかけ離れていると言わざるを得ないと思います。

このような基準を押し通すと何が起こるかというと、制度の穴をかいくぐる抜け道が横行することになります。

今回の『The Callisto Protocol』の件でいうと、日本版の発売中止とともに「海外版に日本語が含まれる」こともアナウンスされました。そして、Amazon.co.jpの販売ランキングでは、PS5とXboxカテゴリにおいて、本作の輸入版がベストセラー1位になっています。

2022年10月30日朝時点の、Amazon.co.jpにおけるPS5ソフト販売ランキング。輸入版『The Callisto Protocol』が1位になっている。

もし仮に、苦労してCEROレーティングに適合させたとしても、「日本版は表現規制によって大きくゲーム性が損なわれている。海外版で遊んだ方がいい」という論調になることは避けられなかったでしょう。そう考えると、今回「海外版に日本語が含まれている」ことをアナウンスし、(実質的に)海外版へと誘導することは理にかなっているとも言えます。

また、意図的か否かは置いておくとして、本件は広く報道され、ゲームメディア以外のスポーツ新聞までもが取り上げる事態となったわけで、今回の発表が、本作の大きなプロモーションになったことも事実です。

オリジナル版をプレイするために、海外版を入手する手法は、これまでも知られていました。しかし、今回、本件が大きく報道されたことで、このような抜け道の存在が広く認識されたことになります。

このような状況は、ゲーム業界外(例えば、一般マスコミや規制当局)に「自主規制が機能不全に陥っているのではないか」という疑いを抱かせるリスクになりえます。そうなると、非現実的な条例や法律が制定され、外部からより不自由な規制をかけられる可能性が生じると考えます。

これが、今回の発表が広く報道され、無視できない規模の議論を巻き起こしている現状において、筆者がその次の段階で生じるかもしれないと考えているリスクです。

レーティング制度を改善するために

それでは、CEROによる現行のレーティング制度をどのように改善してゆけばよいでしょうか?

国にはそれぞれ固有の文化があり、受け入れ可能な表現も国によって異なります。そのため北米や欧州基準のレーティングをそのまま導入することは不適切でしょう。また、国際的機構であるIARCのレーティングを機械的に変換することも難しいと思います。

提案したいのは、現行のレートの上に、もう一段階上のレートを設けることです。基準自体は全く異なりますが、北米ESRBの「AO(Addults Only)」に近いイメージです。

北米では「AO」とレーティングされた場合、一般流通で販売不可能となるため、実際にはAOとなるタイトルはごく少数です。最も有名なものは『GTA: SanAndreas』で、いわゆる「ホットコーヒー問題」により、初期出荷版がAO指定を受けました。(画像は、Nintendo Switch版販売サイトより)

この「日本版AO」に関しては、IARCレーティングを取得した作品であれば無条件に適用可能なものとします。その代わり、ダウンロード販売のみとする、クレジットカード認証必須とする等、販売手段に強い制限を加えます。

日本では元来「ビデオゲームは子供が遊ぶもの」というイメージが強かったですが、近年は世界的な潮流に近づき、「映画や小説と同様に、大人が楽しめる一流の娯楽である」という風潮も徐々に市民権を得てきました。

また、かつてはパッケージ販売が主流であった日本のビデオゲーム市場も徐々に変化し、ダウンロード販売がかなりの割合を占めるようになりました。そのため、たとえ販路をダウンロード販売のみに絞ったとしても、デメリットよりもメリットの方が大きいと考えます。

このように、現行のCEROレーティングを維持した上で、さらに、IARCとの互換性を高めた上位レートを創設することが、本記事における提案です。

まとめ

CEROが設立された2002年当時は、日本で流通するビデオゲームのほとんどは日本国内で制作されたものでしたし、販売手段はほぼ全て店頭でのパッケージ販売でした。CEROのレーティング制度は、そのような市場を前提として設計されたものでした。

それから約20年。日本においても海外の作品が人気を博すようになり、また、ダウンロード販売の比率が高まり販売手段が多様化しました。しかし、そのレーティング制度自体は20年前のままであり、世界的なトレンドからは大きく乖離しています。

世界の主流から大きく乖離したレーティング制度を維持していることは、かえって抜け穴の横行を許し、ひいては、外部からのより厳しい規制を招くリスクがある、ということを本記事では指摘しました。そして改善案として、国際レーティング制度であるIARCとの互換性を高めた上位レートの創設を提案しました。

筆者個人は、昔から『GTA 4』『Fallout 3』『Gears of War』シリーズなど数々の海外産ゲームを愛好してきました。これらの作品が、筆者の「ゲーマーとしての血肉」を作ってきてくれたと思っています。

ですので、世界中のさまざまなタイトルを、「海外版との表現の差異」等に煩わされることなく、国外のプレイヤーと同じ内容で、気兼ねなく楽しめる環境が実現することを願います。

(了)

2022.10.31 Itaru Otomaru

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