「京都珍肉博覧会 Eat The World Meat」完全版

酒池肉林を超えた、
珍肉×酒×音楽が胃袋と脳を刺激する
前代未聞の博覧会がついに開幕!

日本全国、はたまた世界各地の珍肉ファンのみなさん!
Buon giorno a tutti~!
まだ冬の寒さ厳しかった、去る2月11日の夜のこと。
京都の街のど真ん中、とあるビルの4階。
小さな隠れ家的イタリアン「イタリア食堂910」にて、「京都珍肉博覧会 #00」が満を持して開催されました。
その会の模様を仕掛人の1人であるモリクニがレポートさせていただきます。
読者の中には「珍肉博覧会?」「イタリア食堂?」「満を持して?」と疑問だらけの方もおられることと思います。
そのあたり経緯につきましては次のパートにて簡単にご説明しますので、このまましばらく読み進めていただけますと幸いです。

■ロード・トゥ・珍博

ということで、まずは「京都珍肉博覧会」、略して「珍博(チンパク)」なるイベントを立ち上げた仕掛人3名をご紹介しましょう。


○ノムラマサオ(まちゃおさん)
FM COCOLOの朝の看板番組『CIAO 765』担当DJ(2019年10月~)。映画を中心にイタリア文化を日本に紹介する京都ドーナッツクラブを主宰、2013年に京都木屋町に事務所兼多目的スペースとして「チルコロ京都」を開設。言葉と曲と肉の絶妙なセレクトにより博覧会を肉付けするマジカルなMeat Jockey(MJ)。ベルボトムと忘れ物がトレードマーク。
○クドウユタカ(910シェフ)
「イタリア食堂910」オーナーシェフ。夜のオーナーとしてチルコロ京都を間借りする形で、2014年12月にイタリア食堂910をオープン。日々のトレーニングで鍛え上げた筋肉、持ち前の食材への飽くなき探求心を武器に、あらゆる珍肉に肉弾戦を挑み、ワンダーあふれるお料理に仕立て上げ、珍肉のミステリーツアーを先導するMeat Captain(MC)。だけど、山羊はちょっと苦手。
○モリクニヒロユキ(筆者)
とある仕事で十数年前にまちゃおさんと出会い、オープン時からイタリア食堂910に通いつめるスーパー常連。時にヘルプでスタッフとしてお店に立つこともあり、博覧会でもお給仕を担当。血湧き肉躍ってくると思わずロゴやオリジナルグッズをつくったりしてしまう、陰日向から会を支えるお調子者のMeat Coordinator(MC)。ストーンズを愛する永遠の27歳。


さて、日本はもとより、世界各地では様々なお肉が食されています。
お肉と言えば、牛・豚・鶏だけではありません。
世界は、未知なるお肉=珍肉にあふれています。
チルコロ京都=イタリア食堂910で縁あって出会うことになった3人の首謀者は、どのように珍肉の世界に導かれ、博覧会の開催へと至ったのか……
ここからは、珍肉に魅せられた3人の男たち=珍肉トリオが前代未聞の博覧会に漕ぎつけるまでの、さほど壮大でもない物語をひも解いてまいりましょう。
(ここからしばらくは、中島みゆきの『地上の星』をBGMとして脳内再生しながらお読みいただくことをおススメします)
2014年12月のイタリア食堂910のオープン以降、まちゃおさんと筆者はほぼ週一でお店に集い、910シェフのお料理とワインに舌鼓を打ちながら、映画や音楽を中心とした趣味の話、はたまた何てことない与太話で盛り上がる日々を過ごしておりました。
今振り返れば、Covid-19なんていう存在も名称もまだこの世になく、世界規模で人類を脅かすパンデミックが起こることになるなんて思いもしなかったあの頃。
平和な日々が変わらずこのまま続くことを疑う余地はありませんでした。
そんななか、2018年春にまちゃおさんが発した一言により転機が訪れます。
『朝日新聞デジタル』での連載コーナー「地球を食べる」に掲載されていた「ラクダ肉のグリル」※1(2018年4月25日付)と「豪州、隠れたラクダ大国」※2(2018年5月15日付)の記事を携え、「ラクダ食べてみたいんやけど」というリクエストを持ち込んだのです。

※1【ラクダ肉のグリル記事】

※2【豪州、隠れたラクダ大国記事】


そのリクエストに応える形で910シェフが取り寄せたのが、オーストラリア産のラクダ肉。
そのときに味わった美味しさは、我々トリオの間でも原点となる珍肉体験としていまだに語りあうほどに劇的なものでした。
また、絶品のお肉を味わいながら、中東での競駝(ラクダレース)や、オーストラリアで野生化した経緯など、ラクダが食される産地の文化や歴史的背景にも関心が広がっていきました。
こうしてラクダをきっかけとして未知の味と文化をセットで味わうことができる珍肉の面白さを知った我々は、以降、興味の赴くままにいろいろなお肉に挑戦。
途中コロナ禍によりペースダウンを余儀なくされたものの、およそ4年半にわたりチャレンジを継続してまいりました。
そして、長かったコロナ禍に少し落ち着きの兆しが見え始めた2022年秋。
これまで積み重ねてきた数々の珍肉たちとの出会いをもとに、その美味しさと奥深さを参加者とともに分かちあえるイベントを立ち上げられないか、という構想が浮上します。
そこで、来年秋に本格始動させることを視野に入れつつ、まずはお披露目かつお試し的な位置づけとなるような0次会をプレイベントとして開催してみようという話になりました。
と同時に、1人のMJ(Meat Jockey)と2人のMC(Meat Captain&Meat Coordinator)からなる、2MC&1MJスタイルの「珍肉界のRHYMESTER」と(甚だ僭越ながら)呼んでもよいであろうユニットがここに誕生しました。
(RHYMESTERは、我々がリスペクトしてやまない、2MC&1DJスタイルの日本を代表するヒップホップグループです。ご存知の方はここでBGMをRHYMESTERの『働くおじさん』あたりにチェンジいただけますと、以降をより楽しくお読みいただけるのではないかと思います)
ユニット誕生後は、RHYMESTER師匠譲りのユーモアとウィットに富みまくりのジャズィなカンヴァセイションの中で、どこかで聞いたような「京都珍肉博覧会」というイベント名に、何かしら耳馴染みのある「Eat the World Meat!」という合言葉とトントン拍子で決まり(我々は決してダジャレ好きのおじさんではないことを念のためにお伝えしておきます)、筆者が密かにロゴを作成したりと、駆け出した荒馬のごとく実現に向けて一気に加速していきます。
ここまで来れば、あとは猪突猛進あるのみ。
いよいよ最後に、肝心のメインアクトであるお肉のラインナップを、ワイン片手に珍肉を食しながら、程よく白熱した議論の末にセレクト。
こうして、2MC&1MJが京の都の一角でお贈りする、珍肉のブロックパーティー「京都珍肉博覧会」がめでたく開宴の運びとなりました。
(ブロックパーティー(Block Party)とは、1970年代のニューヨークで生まれた野外パーティーのことで、ディスコに行けない貧しい若者たちが街の一角にスピーカーとレコードプレイヤーを持ち出して始めたことがその発祥と言われています。やがてこのパーティーは、街区(ブロック)のコミュニティを広く受け入れる催しになり、後のヒップホップ誕生に大きく影響することになりました。そうして生まれたヒップホップが今や世界を席巻する音楽になっていることは、みなさんもご存知のことと思います)


■開幕:やっぱり肉を喰おう(吾妻光良&The Swinging Boppers)
では、博覧会当日、会場へと話を戻しましょう。
コロナ禍では定員8名での営業を余儀なくされていた店内でしたが、制限がやや緩められつつあった状況を受け、博覧会では定員マックスの15名で募集をかけました。
おかげさまで満員御礼をいただき、コロナ前は当たり前だったあの頃の活気が久々に戻ってくることに胸が高まったことは言うまでもありません。

場内のテーブルでは、15名の参加者=Meat Challengerたちを出迎えるべく、筆者お手製のリーフレットとステッカーがスタンバイ。
そしてそして、さすがはDJまちゃおさん!
当日のメニューに沿って開宴30分前に選曲を終えたという、できたてホヤホヤのプレイリストを引っ提げ、会場にさらなる華を添えます。
かくして、お酒とのマリア—ジュに加え、音楽とのマリア—ジュも味わえるという、これまでになかったであろう新たな形の博覧会がお目見えすることとなりました。
ニューヨークとは一味違う、ニュータイプのブロックパーティー誕生の瞬間です。
まちゃおさんご指名の地獄の珍肉ライダー「Meat Loaf」の名曲が鳴り響くなか、Meat Challengerたちが続々とゲートイン。
電源をオンにしたホットプレートのごとく、会場が徐々にヒートアップしていきます。
この時点で、筆者の脳内では、珍肉を抱えてバイクで店内を駆け回るMeat Loafの姿が浮かんでいました。
(Meat Loafをご存じない方は、1977年に発表したウルトラヒットアルバム『地獄のロック・ライダー(Bat Out of Hell)』のジャケットをぜひ一度ご覧くださいませ。なお、この後もMeat Loafの曲はお料理の合間などの各所で流れ、「つなぎのMeat Loaf」として活躍することになります)


参加者全員のゲートインが完了し、まちゃおさんの軽快なトークとともにいよいよ開宴です。
大正デモクラシーから当博覧会へと至った壮大なストーリー(詳細は「開会のことば」を参照ください)が披露された後、曲は吾妻光良&The Swinging Boppersの『やっぱり肉を喰おう』へチェンジ。
その曲目に合わせて「やっぱり肉を喰OH~!」の掛け声で盛大に乾杯、場内の期待感がマックスに高まったところで、本日のメインアクト、珍肉たちの登場です。
以下、MJまちゃおさんのプレイリストとともに、お料理を紹介していくことにしましょう。


▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・やっぱり肉を喰おう/吾妻光良&The Swinging Boppers
■1珍目:A Horse With No Name(America)

Americaの1972年の名曲『A Horse With No Name(名前のない馬)』とともに供された、記念すべき最初のお料理は「馬肉のタルタル、ロンバルディア産キャビア添え」。
ケッパーの独特の風味と酸味に加え、魚卵枠から参戦のキャビアの程よい塩味がアクセントとなり、馬肉の甘みを引き立てます。
珍肉の中でもまだハードルの低い馬肉のお料理ということで、導入としては最高の一品ではないでしょうか。
ちなみに、曲はAmericaですが、馬肉はウルグアイ産です。
あえて国産の馬肉をチョイスしていない点に、世界中のお肉を視野に入れた博覧会を盛り立てようとする910シェフの粋な計らいが垣間見えます。
(もひとつちなみに、Americaは、その名とは裏腹にイギリスのバンドであることも付け加えておきます)

▼910シェフよりひとこと
どうも、人生で初めてキャプテンを任されました工藤です。
召し上がって頂いた料理の説明をさせて頂きますね。
まずこの度の食材を検討している際、MJより「馬肉いいねぇ~」とリクエストを頂きました。主催側の3人共にお肉の生食が好きという事で、過去何度も木曜日に召し上がって頂いていた安定感と我々にとって実績のあるタルタルでスタートしようと考えました。
ですが普段と同じでは芸が無い。
今回【珍】に拘る食事なので、ここは贅沢に世界3大【珍】味であるキャビアをトッピングする事にしました。
しかもあまり産地とは知られていないイタリアロンバルディア州産です。

昨今日本における料理の風潮として、和食屋さんは洋な食材を、洋食屋さんは和の食材を、更にはそれぞれの調理法も取り入れています。何料理というよりは【シェフの料理】というスタイルが喜ばれる時代です。
そんな中、私のスタイルはというと食事のテーマやゲストの趣向に合わせ、季節の移ろいと共に使う食材も臨機応変、なんなら気分で召し上がって頂く料理を変えています。時々でくるりくるりと変化させていくのが信条です。
今回の【京都珍肉博覧会】という名前は、ともするとゲテモノばかりが続く食事会だと勘違いをされる方もおられるかもしれません。
ですが違うんです。
命を繋ぐために食べてきた食材、その食材がその地域で食用とされる背景、世界中で人類が試行錯誤の歴史の中で作り出してきた調理法、それら全てを1皿に集約し多くの人達に知ってもらいたいと思っています。
決してゲテモノを食べる機会では無いんだ、変わった食材でも美食になり得るんだという意味と、分かりやすく聞き馴染みのある3大珍味を合わせました。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・A Horse With No Name/America
・Horses/Maggie Rogers
・Broken Horses/Brandei Carlile


■2珍目:Come On Eileen(Dexys Midnight Runners)


馬肉で緩やかに出走したところに登場した2皿目。
会場の和やかなムードを打ち破るかのような、これぞ珍肉と言わんばかりのビジュアル!
(筆者個人は、映画『メン・イン・ブラック』に出てくるアレ(MIB本部をうろちょろしている虫みたいなエイリアン)と名づけております)
珍博の名刺代わりのような風情からすると、先の馬肉は前座で、こちらのお料理こそが真の1皿目と言ってよいカモしれません。
ヒントでもあるはずのDexys Midnight Runnersの『Come On Eileen』が流れるなか、場内は一気にクイズ大会モードに。
そう簡単に正解は出ませんでしたが、読者のみなさんの中におわかりの方はおられたでしょうか?
こちら「鴨タンのロースト」になります。
答えを聞けば「なるほど!」という形状をしているかと思いますが、タンならではの不思議な食感が楽しめる珍味とも言える一品です。
少ないお肉を歯でしごきながらつい黙々と食べてしまうあたりは、珍肉界のカニにも位置づけられるでしょうか。

当然ながら、鴨1羽にタンは1つ。
参加者分のタンを調達するには、かなりの数の鴨さんの力をお借りしています。
鴨さんには感謝感謝です。
その一方で、鴨タンという部位が食材として存在していることは、余すところなくお肉をいただく食文化の現れとも言えるでしょう。
やれ飽食だ、やれフードロスだと騒々しい昨今ですが、珍肉との出会いはそうした普段忘れられがちな文化に触れる機会を与えてくれるものでもあります。
今後の博覧会では、おいしい珍肉料理を食べながらそうした文化的な側面も参加者のみなさんとともに学んでいくことができればと思っております。
▼910シェフよりひとこと
美食だなんだと偉そうな事を言っておきながらイメージ通りな珍食材を2品目に。このような期待で参加される方がおられるだろうと考え用意させて頂きました。台湾の屋台などで食べられている事の多い鴨の舌をオーブンでローストした料理です。
中華圏では鴨が様々な料理で喜ばれています。長年食べられてきた歴史がある食材は食べる部位や調理法も発達しているのが世の常(日本人が多様な魚介の様々な部位を色々な調理法で食べる事のように)。
北京ダックのようにお肉よりも皮を珍重する料理もあれば、捨てられるような印象の鴨の舌を食べる文化もあります。これはひいては貴族と庶民の食事の違いだと思うのですが、どちらの料理もそれぞれの美味しさがあり多様な食文化の豊さを感じます。食材に捨てるところ無しです。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Come On Eileen/Dexys Midnight Runners
・Birdland/Weather Report


■3珍目:Whale Song(さかいゆう)


「メン・イン・ブラックのアレ」に続く3皿目には、早くもリゾットが登場です。
純白のお米の海にたゆたうように鎮座するお肉にご注目ください。
お肉の種類は曲目にあるとおりのクジラということで、問題は部位になります。
みなさんは「さえずり」と呼ばれる部位はご存知でしょうか?
おでん好きの方ならピンとくる方もおられるかもしれません。
こちら、鴨タンに続いての「鯨タン」になります。
(ちなみに、クジラのもう1つのおでん種である「コロ」は皮下脂肪です)
ということで、改めてお料理名をご紹介。
「芹のリゾット、鯨タン(さえずり)添え、サルサヴェルデのアクセント」。
独特の弾力と脂身をまとったお肉は、噛むほどに芳醇な旨みを放ちます。
(「さえずり」という名前は、日本最古の某有名おでん屋さんにて、お客さんがガムのようにクチャクチャと噛みながら食す音が鳥の鳴き声のようだったことからつけられたという説があるそうです)
そんなお肉の上に添えられているのが、イタリアンパセリをベースにした「サルサヴェルデ」というソース。
お肉にもOK、お魚にもOK、筆者的には「これだけでもお酒が飲める!」という、イタリアが誇る万能ソースです。
さらに、リゾットには春の七草にも数えられる芹がイン。
2つの緑の爽やかな風味が、さえずりの脂をやさしく和らげてくれます。
春を先取りし、思わずさえずりたくなるような素敵な一皿ではないでしょうか。
我々トリオは、この愛らしい一皿に親しみを込めて「さえずリゾット」という愛称をつけています。
(改めてお伝えしておきますが、我々は決してダジャレ好きのオヤジではありません)
お料理では一口サイズにカットされた鯨タンですが、カット前のサイズは果たしてどれほどの大きさだったんでしょうか。
クジラの大きさから察するに、そのサイズは「○畳」で表すのが妥当なのかもしれません。
同じタンでも、先の鴨に比べてはるかに巨大であることは間違いありません。
そんなお肉のサイズにも思いが巡ったりする点も、珍肉ならではの楽しみの1つに数えられるでしょう。
▼910シェフよりひとこと
3品目は今回初めて調理した食材【さえずり】、鯨の舌です。
MJの【珍】を食べたいという期待に応えるべくあまり一般のイタリア料理屋が使わない食材にも普段から挑戦しています。
そして初めて作ってみました状態で召し上がって頂いています。
その延長である今回の【珍博】も普段通り個人的に初めての料理を1品入れたいと思っていました。
そこでチョイスしたのが鯨のさえずりという訳です。
扱った事のない食材のため今回お世話になったのは【
くじらにく.com
https://www.kujiraniku.com/
さえずりの下処理を参考にしました。鯨愛に溢れるサイトです。
鴨の舌は違いますが一般的に舌は脂の多い部位です。馴染みのある牛タンもかなりハイカロリーな部位。調理していてこの脂を美味しく食べるために酸味や香味が必要と思い酸味でサルサヴェルデ(ピエモンテのイタリアンパセリをベースとした酸味の効いたソースでイタリア版おでんと評される【ボッリートミスト】に付ける)と旬の芹を合わせました。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Whale Song/さかいゆう
・くじら12号/JUDY AND MARY
・Kujira no Stage/Cocco
・Whale Living/Homecomings


■4珍目:Crocodile Rock(Elton John)

旨みと清涼感あふれる「さえずリゾット」で少しほっこりしたところで、これまた見た目にインパクト大なお料理が登場です。
曲のタイトルとこの形状からピンと来られた読者もおられるかもしれません。
まさかまさかの三連タン!
こちら「鰐タンのロースト、トラバニ風アーモンドソース」でございます。
「ワニと言えば財布」と安直にイメージされているあなた!
ワニは革だけではありません!
お肉もしっかり食べられるんです!
しかもタンまで食べるという事実には、余すことなく食べることを善しとする食文化のさらに奥、人間の食に対する飽くなき探求心、ひいては尽きぬ貪欲さまでもが感じられるというものです。
そんな人間の業のようなものとワニへの若干の抵抗との狭間で心が揺れ動くなか、お肉を口へと運びます……
と、これまで味わったことのないような何とも摩訶不思議な食感のパラダイスが出現するではありませんか!
強いて言いますと、鶏のぼんじりに近い感じでしょうか。
口の中で脂と旨味がとろけていく感覚がたまりません。
そして、鰐タンの下に敷かれたアーモンドソースがジューシーなお肉にこれまた絶妙に絡むこと絡むこと。
先のサルサヴェルデと同様、濃厚ソースがお酒の勢いをさらに加速してくれること請け合いです。
ちなみにこの鰐タン、今回はシンプルにローストでしたが、「煮て良し、焼いて良し、さらには揚げて良し」のオールマイティな食材だったりします。
とにもかくにも、勝手なイメージだけで食わず嫌いでいるのは実にもったいない、一度食べてみればイメージが一変すること間違いなし、我々トリオの間でも一押しの珍肉です。
機会がありましたらぜひお試しあれ!ということで。
と、タン・タン・タンと3種のタン料理に舌鼓を打ったところで、名づけて「タンタンの冒険」、ここに完結です。
(三連タンの料理に合わせてThe Byrdsの名曲『Turn! Turn! Turn!』を選曲すべきだった…と、そこまでくると単なるダジャレ好きではないかと疑いたくもなるマチャオさんがたいそう悔やんでいたことを、後日譚としてここに書き添えておきます)
珍肉の条件としては、動物そのものの珍しさはさることながら、部位としての珍しさも見落とせません。
そして、それらを一気に食べ比べてみることで、同じ部位であってもそれぞれに独自の味があり食感があることを体感できます。
そんな食べ比べができるのも、博覧会の醍醐味でしょう。
我々トリオの間では、「肝試し」「スネかじり」などなど、特定の部位に着目した企画のアイデアも随時増殖中です。
(と同時に、部位にまつわる言葉が多い日本語の豊かさに驚かされたりしますが)
今後の博覧会にご期待ください。
▼910シェフよりひとこと
続いての食材はとっておきの珍【ワニのタン】。
ワニタンと聞くと気持ち悪がられるかもしれませんが非常に万人が美味いと言いやすい食材だと思っています。
そもそもこれを知ったきっかけも我々が【珍】を求めていく過程で知り得ました。
あれはコロナ前、関東のお客様が食事に来て頂いた時の事です。
いつものように食後にお客様と色々な話をさせて頂いていました。
その際最近変わった食材が美味しくてハマっている旨を伝えると珍情報が。
なんでも東京の予約の取れない会員制の和食屋さんで、その更に常連さんだけが参加出来る機会のメインがワニタンの煮込み料理だったと。なんとも言えないオリジナルなワニタンの柔らかさは素晴らしいと。
なんて事でしょう、ワニタン!
という訳ですぐに食べてみたくなり仕入れました。
焼いても煮てもどちらも絶妙な柔らかさ、更に迸るジューシーさ。
ジューシーな感じは鶏のぼんじりがでっかくなったような印象です。
この美味しさを知ってもらいたい、まだまだ我々も知らない【珍】がある事を忘れるなよ、という両方の意味で今回舌に舌を重ねました。


▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Crocodile Rock/Elton John
・Down Under/Men At Work
・One Way Road/John Butler Trio


■5珍目:Birds(Imagine Dragons)

ここで、新鮮野菜のインサラータ(サラダ)で軽く箸休め。
濃い目のタン料理の三連発に少しお疲れ気味の舌をリセットし、次のお料理に備えます。

チンパク流の禊ぎで脂を流し、リフレッシュしたところに登場したのが、ソーセージ。
イタリア語では「サルシッチャ」と呼ばれる、腸詰めです。
こちらのサルシッチャ、もちろん910シェフの手づくり。
そのつくり方は、コロナによりお店の営業に制限がかけられていた2022年の合間、某お肉屋さんにてアルバイトしながら習得したとのことで、その成果がこの珍博でもお披露目された形になります。
当然ながら気になるのは中身ですが、外見からは皆目見当がつかないのがサルシッチャの面白いところ。
まさに「お肉の袋綴じ」!
ナイフで切れ目を入れるときのワクワク感がたまりません。
ということで、こちら「鴨と実山椒のサルシッチャ、越冬じゃがいものピュレ添え」になります。
小粒でピリッとしびれる辛さがやってくる実山椒は、濃厚な近江鴨のお肉との相性も抜群。
「禁断の袋綴じ」とも言える組み合わせに、ワインもどんどん進みます。

あらゆる素材を組み合わせながら何でも詰められるサルシッチャは、無限の可能性を秘めたお料理とも言えるでしょう。
この先どんな袋綴じに出会えるのか、博覧会でも要注目のメニューになりそうな予感がします。

▼910シェフよりひとこと当初考えていた珍博メニューの食材はなかなかハードな珍が並ぶものでした。ですがMJ、いやいやこんなに攻めなくても一般的には牛豚鶏が普通だから普通のスーパーに並んでいる食材以外のお肉なら珍になりうるよ、という事で近郊の滋賀県高島で生産されている近江鴨を使ったサルシッチャを使う事にしました。
この近江鴨、胸肉を普段仕入れるのですが手羽もくっついている状態で入荷します。手羽の部分はストックし、ある程度たまったらミンサーにかけてミンチに。余ったお肉で作るにはうってつけのサルシッチャにという訳です。
合わせるスパイスは、京都では旬の時期に1年分ストックする実山椒を合わせました。余り物の食材とストックした食材でいかに美味しい料理にするかを考えた組み合わせです。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Birds/Imagine Dragons
・Wings/Birdy


■6珍目:Revival(Deerhunter)

いよいよ、ラストのお料理です。
今回の大トリを飾っていただいたお肉は鹿。
トリオの間でも「鹿を食べるならこの食べ方がベスト!」と断言してはばからない「鹿のカツレツ」の登場です。
910シェフの絶妙な火入れによりレア感が残る上質な赤身のお肉を噛みしめると、鹿独特の香りが口の中に広がります。
博覧会を締めくくるにふさわしい貫禄が感じられるその堂々たる味わいに、参加者のみなさんも大満足の様子でした。

ちなみに、鹿肉の旬は夏。
春から夏にかけて豊富な新芽や若草を食べて育った鹿は、「夏鹿」として特に珍重されています。
加えて、先日、我々が「兄い」と慕う滋賀・余呉の名猟師さんにうかがったお話によると、冷凍前の生肉の状態は格段に味が違い、さらにおいしいとのこと。
次回、第1回目の博覧会は、そんな夏鹿に出会えるかもしれないタイミングでの開催も視野に入れています。
乞うご期待!ということで。
(加えて、今後の博覧会ではお肉とともに猟師さんをお招きして、貴重なお話をうかがえる機会も設けることができればとも思っております。こちらにもご期待くださいませ)

▼910シェフよりひとこと
最後は京丹波町で獲れた鹿肉です。柔らかい雌鹿の、モモ肉の筋の無い一番柔らかい部位を肉叩きで叩き伸ばし、更に柔らかくした柔らかさにこだわったカツレツです。鹿肉のどの部位でも美味しい料理に出来る自信がありますが、まだまだ初めて召し上がって頂く方もおられます。最初の印象が悪いとそれがずっと続いてしまって以後食べなくなってしまう事もあるので、1番だと思う物を仕入れています。
当日の料理が決まって、この内容ならこの順番で召し上がって頂こうと考えたものが馬で始まり鹿で終わるものになっていました。なんだか良いようにMJが使えたみたいでラッキー良かった良かった、キャプテン我ながらいい仕事したな!と思っています。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Revival/Deerhunter
・Deer In The Highlights/Owl City
・Deerhounds/the HIATUS


■閉幕:馬と鹿(米津玄師)

会場では、米津玄師の『馬と鹿』が流れるなか、まちゃおさんのクロージングトークとともにお料理談義に華が咲きます。
その歌詞の一節に、こうあります。

 まだ味わうさ 噛み終えたガムの味
 冷めきれないままの心で

この詞の中に登場している「ガム」を「肉」に変えてみてください。
全6品による珍肉のミステリーツアーを経てきた参加者のみなさんが、その旅路の余韻に浸るにはぴったりの歌詞ではないでしょうか。

改めて、全6品の旅路を振り返りましょう。

 ・1珍目:馬肉のタルタル、ロンバルディア産キャビア添え
 ・2珍目:鴨タンのロースト
 ・3珍目:芹のリゾット、鯨タン(さえずり)添え、サルサヴェルデのアクセント
 ・4珍目:鰐タンのロースト、トラバニ風アーモンドソース
 ・5珍目:鴨と実山椒のサルシッチャ、越冬じゃがいものピュレ添え
 ・6珍目:鹿のカツレツ

登場したお肉のラインナップは、以下の5種になります。

 ・馬(ウルグアイ)
 ・鴨(京都、滋賀)
 ・鯨(日本近海・和歌山)
 ・鰐(オーストラリア)
 ・鹿(京都)

「馬」「鴨」「鯨」「鰐」「鹿」の並びを見て、お気づきの点はあるでしょうか?

まずは1点目。
ある点に着目すると5種のお肉は「馬・鹿」「鯨・鰐」「鴨」の3つに分類できるのですが、いかがでしょうか?
各動物の生息地を思い描いてみてください。
馬・鹿は「陸」、鯨・鰐は「海(水)」、鴨は「空」。
今回の博覧会では、「陸・海・空」揃い踏みで、それぞれを代表するお肉に登場いただいたというわけです。
ちなみに、海代表のお肉で、冬が旬ではあるものの不漁であったために入手が叶わず、今回の出場を見送った珍肉があります。
残念ではありましたが、そのときの状況次第で入手が困難になったりする点も、珍肉ならではの特色の1つとも言えるでしょう。
(準備するシェフ泣かせではあるのですが。もひとつちなみに、出場予定だったそのお肉は、博覧会終了後に入荷を果たし、おいしくいただきました)

続きまして、もう1点。
締めの一曲、『馬と鹿』という曲のタイトルと照らし合わせて、ピンと来られた方はおられるでしょうか?
最初と最後のお料理にご注目ください。
「馬」に始まり「鹿」に終わるコース仕立てになっています。
馬からスタートした「珍肉をめぐる冒険」は、鴨から鯨そして鰐へと空と海を駆け抜け、鹿に辿り着く際にはすっかり珍肉の虜=「珍肉馬鹿」になっているというコースになっていたのです。

かくして、今回の0次会では、めでたく15名のMeat Challengerが珍肉馬鹿の仲間入りを果たされました。
2MC&1MJのトリオの思いつきから始まった珍博は、Meat Challengerというもう1人のMCが加わることで完成するブロックパーティーです。
筆者の頭の中には、たくさんのMeat Challengerが集い、まちゃおさんのいかした選曲とともに巨大なブロック肉をみんなでシェアする光景が浮かんでいます。
このレポートを読んでいただいた方の中にも、珍肉への興味に火が付き、血湧き肉躍り始めた方もおられるのではないでしょうか?
我こそは3人目のMCにふさわしいと思われたあなた!
珍肉馬鹿の一員になりたいと思われたあなた!
来たるべき第1回目の博覧会にぜひお越しください!
めくるめく珍肉の世界がそこに待っています。
血気盛んなみなさんのご来場を、珍肉トリオ一同心待ちにしております!!

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・馬と鹿/米津玄師


■後記:ボーナストラック

と、レポートを終えるにあたり、やはりと言うべきでしょうか、筆者の脳内にはこの曲がリフレインしています。
中島みゆき『ヘッドライト・テールライト』。
みゆきさんが優しく歌いかけます。

 旅はまだ終わらない

そう、珍肉の旅はまだ始まったばかり。
まだまだこれからです。
(と書きながら、「曲目の中に『テール』が入ってるなあ」と思ってしまうあたり、珍肉に魅せられた人間の悲しき性でしょうか…)

そして、もう1曲。
最後のおまけとして、がんばったおじさん3人に、改めて師匠たちのこの曲を捧げさせてください。
RHYMESTER『働くおじさん』。

ということで、第1回でお会いしましょう!
Salute & Ciao~!

▼MCモリクニの追加プレイリスト
・ヘッドライト・テールライト/中島みゆき
・働くおじさん/RHYMESTER


▼910シェフより最後にひとこと
今回は0次会、年内に本番を迎えます。
手探りながら無事に閉幕を迎える事が出来ました(この記事も手探り中)。
0次会ではそれぞれのお客様の食経験の違いによって、変わっていると思う方が多い食材でも別の方にとっては何度も経験がある食材だったり、個人個人で珍食材への捉え方が違っていました。
全てのゲストにとって【珍】となりうる食材を用意出来るかは分かりませんが、日本でもそうですし、世界の様々な地域でそんなものまで食べられるの?と思うような食材が存在します。そして料理があります。
何だかワクワクしてきませんか?
変わらずあくなき食への探究心を胸に、ダジャレまで意識しないといけないのかとハードルが上がっている事に恐々としながらも楽しんでいます。
我々と一緒に自称日本初であるスタイルの食事会を一緒に楽しみたい方の参加を楽しみに待っていますね。


京都珍肉博覧会#0プレイリスト完全版



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