「京都珍肉博覧会 Eat The World Meat」

酒池肉林を超えた、
珍肉×酒×音楽が胃袋と脳を刺激する
前代未聞の博覧会が
ついに開幕!
世界最速レポート2/3


■開幕:やっぱり肉を喰おう(吾妻光良&The Swinging Boppers)

では、博覧会当日、会場へと話を戻しましょう。

コロナ禍では定員8名での営業を余儀なくされていた店内でしたが、制限がやや緩められつつあった状況を受け、博覧会では定員マックスの15名で募集をかけました。
おかげさまで満員御礼をいただき、コロナ前は当たり前だったあの頃の活気が久々に戻ってくることに胸が高まったことは言うまでもありません。

場内のテーブルでは、15名の参加者=Meat Challengerたちを出迎えるべく、筆者お手製のリーフレットとステッカーがスタンバイ。
そしてそして、さすがはDJまちゃおさん!
当日のメニューに沿って開宴30分前に選曲を終えたという、できたてホヤホヤのプレイリストを引っ提げ、会場にさらなる華を添えます。
かくして、お酒とのマリア—ジュに加え、音楽とのマリア—ジュも味わえるという、これまでになかったであろう新たな形の博覧会がお目見えすることとなりました。
ニューヨークとは一味違う、ニュータイプのブロックパーティー誕生の瞬間です。

まちゃおさんご指名の地獄の珍肉ライダー「Meat Loaf」の名曲が鳴り響くなか、Meat Challengerたちが続々とゲートイン。
電源をオンにしたホットプレートのごとく、会場が徐々にヒートアップしていきます。
この時点で、筆者の脳内では、珍肉を抱えてバイクで店内を駆け回るMeat Loafの姿が浮かんでいました。
(Meat Loafをご存じない方は、1977年に発表したウルトラヒットアルバム『地獄のロック・ライダー(Bat Out of Hell)』のジャケットをぜひ一度ご覧くださいませ。なお、この後もMeat Loafの曲はお料理の合間などの各所で流れ、「つなぎのMeat Loaf」として活躍することになります)


参加者全員のゲートインが完了し、まちゃおさんの軽快なトークとともにいよいよ開宴です。
大正デモクラシーから当博覧会へと至った壮大なストーリー(詳細は「開会のことば」を参照ください)が披露された後、曲は吾妻光良&The Swinging Boppersの『やっぱり肉を喰おう』へチェンジ。
その曲目に合わせて「やっぱり肉を喰OH~!」の掛け声で盛大に乾杯、場内の期待感がマックスに高まったところで、本日のメインアクト、珍肉たちの登場です。
以下、MJまちゃおさんのプレイリストとともに、お料理を紹介していくことにしましょう。


▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・やっぱり肉を喰おう/吾妻光良&The Swinging Boppers

■1珍目:A Horse With No Name(America)

Americaの1972年の名曲『A Horse With No Name(名前のない馬)』とともに供された、記念すべき最初のお料理は「馬肉のタルタル、ロンバルディア産キャビア添え」。
ケッパーの独特の風味と酸味に加え、魚卵枠から参戦のキャビアの程よい塩味がアクセントとなり、馬肉の甘みを引き立てます。
珍肉の中でもまだハードルの低い馬肉のお料理ということで、導入としては最高の一品ではないでしょうか。
ちなみに、曲はAmericaですが、馬肉はウルグアイ産です。
あえて国産の馬肉をチョイスしていない点に、世界中のお肉を視野に入れた博覧会を盛り立てようとする910シェフの粋な計らいが垣間見えます。
(もひとつちなみに、Americaは、その名とは裏腹にイギリスのバンドであることも付け加えておきます)

▼910シェフよりひとこと
○料理のポイントや込めた思い、食材に関する補足説明など○
どうも、人生で初めてキャプテンを任されました工藤です。
召し上がって頂いた料理の説明をさせて頂きますね。
まずこの度の食材を検討している際、MJより「馬肉いいねぇ~」とリクエストを頂きました。主催側の3人共にお肉の生食が好きという事で、過去何度も木曜日に召し上がって頂いていた安定感と我々にとって実績のあるタルタルでスタートしようと考えました。
ですが普段と同じでは芸が無い。
今回【珍】に拘る食事なので、ここは贅沢に世界3大【珍】味であるキャビアをトッピングする事にしました。
しかもあまり産地とは知られていないイタリアロンバルディア州産です。

昨今日本における料理の風潮として、和食屋さんは洋な食材を、洋食屋さんは和の食材を、更にはそれぞれの調理法も取り入れています。何料理というよりは【シェフの料理】というスタイルが喜ばれる時代です。
そんな中、私のスタイルはというと食事のテーマやゲストの趣向に合わせ、季節の移ろいと共に使う食材も臨機応変、なんなら気分で召し上がって頂く料理を変えています。時々でくるりくるりと変化させていくのが信条です。
今回の【京都珍肉博覧会】という名前は、ともするとゲテモノばかりが続く食事会だと勘違いをされる方もおられるかもしれません。
ですが違うんです。
命を繋ぐために食べてきた食材、その食材がその地域で食用とされる背景、世界中で人類が試行錯誤の歴史の中で作り出してきた調理法、それら全てを1皿に集約し多くの人達に知ってもらいたいと思っています。
決してゲテモノを食べる機会では無いんだ、変わった食材でも美食になり得るんだという意味と、分かりやすく聞き馴染みのある3大珍味を合わせました。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・A Horse With No Name/America
・Horses/Maggie Rogers
・Broken Horses/Brandei Carlile


■2珍目:Come On Eileen(Dexys Midnight Runners)


馬肉で緩やかに出走したところに登場した2皿目。
会場の和やかなムードを打ち破るかのような、これぞ珍肉と言わんばかりのビジュアル!
(筆者個人は、映画『メン・イン・ブラック』に出てくるアレ(MIB本部をうろちょろしている虫みたいなエイリアン)と名づけております)
珍博の名刺代わりのような風情からすると、先の馬肉は前座で、こちらのお料理こそが真の1皿目と言ってよいカモしれません。
ヒントでもあるはずのDexys Midnight Runnersの『Come On Eileen』が流れるなか、場内は一気にクイズ大会モードに。
そう簡単に正解は出ませんでしたが、読者のみなさんの中におわかりの方はおられたでしょうか?
こちら「鴨タンのロースト」になります。
答えを聞けば「なるほど!」という形状をしているかと思いますが、タンならではの不思議な食感が楽しめる珍味とも言える一品です。
少ないお肉を歯でしごきながらつい黙々と食べてしまうあたりは、珍肉界のカニにも位置づけられるでしょうか。


当然ながら、鴨1羽にタンは1つ。
参加者分のタンを調達するには、かなりの数の鴨さんの力をお借りしています。
鴨さんには感謝感謝です。
その一方で、鴨タンという部位が食材として存在していることは、余すところなくお肉をいただく食文化の現れとも言えるでしょう。
やれ飽食だ、やれフードロスだと騒々しい昨今ですが、珍肉との出会いはそうした普段忘れられがちな文化に触れる機会を与えてくれるものでもあります。
今後の博覧会では、おいしい珍肉料理を食べながらそうした文化的な側面も参加者のみなさんとともに学んでいくことができればと思っております。

▼910シェフよりひとこと
美食だなんだと偉そうな事を言っておきながらイメージ通りな珍食材を2品目に。このような期待で参加される方がおられるだろうと考え用意させて頂きました。台湾の屋台などで食べられている事の多い鴨の舌をオーブンでローストした料理です。
中華圏では鴨が様々な料理で喜ばれています。長年食べられてきた歴史がある食材は食べる部位や調理法も発達しているのが世の常(日本人が多様な魚介の様々な部位を色々な調理法で食べる事のように)。
北京ダックのようにお肉よりも皮を珍重する料理もあれば、捨てられるような印象の鴨の舌を食べる文化もあります。これはひいては貴族と庶民の食事の違いだと思うのですが、どちらの料理もそれぞれの美味しさがあり多様な食文化の豊さを感じます。食材に捨てるところ無しです。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Come On Eileen/Dexys Midnight Runners
・Birdland/Weather Report


■3珍目:Whale Song(さかいゆう)


「メン・イン・ブラックのアレ」に続く3皿目には、早くもリゾットが登場です。
純白のお米の海にたゆたうように鎮座するお肉にご注目ください。
お肉の種類は曲目にあるとおりのクジラということで、問題は部位になります。
みなさんは「さえずり」と呼ばれる部位はご存知でしょうか?
おでん好きの方ならピンとくる方もおられるかもしれません。
こちら、鴨タンに続いての「鯨タン」になります。
(ちなみに、クジラのもう1つのおでん種である「コロ」は皮下脂肪です)

ということで、改めてお料理名をご紹介。
「芹のリゾット、鯨タン(さえずり)添え、サルサヴェルデのアクセント」。
独特の弾力と脂身をまとったお肉は、噛むほどに芳醇な旨みを放ちます。
(「さえずり」という名前は、日本最古の某有名おでん屋さんにて、お客さんがガムのようにクチャクチャと噛みながら食す音が鳥の鳴き声のようだったことからつけられたという説があるそうです)
そんなお肉の上に添えられているのが、イタリアンパセリをベースにした「サルサヴェルデ」というソース。
お肉にもOK、お魚にもOK、筆者的には「これだけでもお酒が飲める!」という、イタリアが誇る万能ソースです。
さらに、リゾットには春の七草にも数えられる芹がイン。
2つの緑の爽やかな風味が、さえずりの脂をやさしく和らげてくれます。
春を先取りし、思わずさえずりたくなるような素敵な一皿ではないでしょうか。
我々トリオは、この愛らしい一皿に親しみを込めて「さえずリゾット」という愛称をつけています。
(改めてお伝えしておきますが、我々は決してダジャレ好きのオヤジではありません)

お料理では一口サイズにカットされた鯨タンですが、カット前のサイズは果たしてどれほどの大きさだったんでしょうか。
クジラの大きさから察するに、そのサイズは「○畳」で表すのが妥当なのかもしれません。
同じタンでも、先の鴨に比べてはるかに巨大であることは間違いありません。
そんなお肉のサイズにも思いが巡ったりする点も、珍肉ならではの楽しみの1つに数えられるでしょう。

▼910シェフよりひとこと
3品目は今回初めて調理した食材【さえずり】、鯨の舌です。
MJの【珍】を食べたいという期待に応えるべくあまり一般のイタリア料理屋が使わない食材にも普段から挑戦しています。
そして初めて作ってみました状態で召し上がって頂いています。
その延長である今回の【珍博】も普段通り個人的に初めての料理を1品入れたいと思っていました。
そこでチョイスしたのが鯨のさえずりという訳です。
扱った事のない食材のため今回お世話になったのは【
くじらにく.com
https://www.kujiraniku.com/
さえずりの下処理を参考にしました。鯨愛に溢れるサイトです。
鴨の舌は違いますが一般的に舌は脂の多い部位です。馴染みのある牛タンもかなりハイカロリーな部位。調理していてこの脂を美味しく食べるために酸味や香味が必要と思い酸味でサルサヴェルデ(ピエモンテのイタリアンパセリをベースとした酸味の効いたソースでイタリア版おでんと評される【ボッリートミスト】に付ける)と旬の芹を合わせました。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Whale Song/さかいゆう
・くじら12号/JUDY AND MARY
・Kujira no Stage/Cocco
・Whale Living/Homecomings


■4珍目:Crocodile Rock(Elton John)

旨みと清涼感あふれる「さえずリゾット」で少しほっこりしたところで、これまた見た目にインパクト大なお料理が登場です。
曲のタイトルとこの形状からピンと来られた読者もおられるかもしれません。
まさかまさかの三連タン!
こちら「鰐タンのロースト、トラバニ風アーモンドソース」でございます。
「ワニと言えば財布」と安直にイメージされているあなた!
ワニは革だけではありません!
お肉もしっかり食べられるんです!
しかもタンまで食べるという事実には、余すことなく食べることを善しとする食文化のさらに奥、人間の食に対する飽くなき探求心、ひいては尽きぬ貪欲さまでもが感じられるというものです。
そんな人間の業のようなものとワニへの若干の抵抗との狭間で心が揺れ動くなか、お肉を口へと運びます……
と、これまで味わったことのないような何とも摩訶不思議な食感のパラダイスが出現するではありませんか!
強いて言いますと、鶏のぼんじりに近い感じでしょうか。
口の中で脂と旨味がとろけていく感覚がたまりません。
そして、鰐タンの下に敷かれたアーモンドソースがジューシーなお肉にこれまた絶妙に絡むこと絡むこと。
先のサルサヴェルデと同様、濃厚ソースがお酒の勢いをさらに加速してくれること請け合いです。

ちなみにこの鰐タン、今回はシンプルにローストでしたが、「煮て良し、焼いて良し、さらには揚げて良し」のオールマイティな食材だったりします。
とにもかくにも、勝手なイメージだけで食わず嫌いでいるのは実にもったいない、一度食べてみればイメージが一変すること間違いなし、我々トリオの間でも一押しの珍肉です。
機会がありましたらぜひお試しあれ!ということで。

と、タン・タン・タンと3種のタン料理に舌鼓を打ったところで、名づけて「タンタンの冒険」、ここに完結です。
(三連タンの料理に合わせてThe Byrdsの名曲『Turn! Turn! Turn!』を選曲すべきだった…と、そこまでくると単なるダジャレ好きではないかと疑いたくもなるマチャオさんがたいそう悔やんでいたことを、後日譚としてここに書き添えておきます)
珍肉の条件としては、動物そのものの珍しさはさることながら、部位としての珍しさも見落とせません。
そして、それらを一気に食べ比べてみることで、同じ部位であってもそれぞれに独自の味があり食感があることを体感できます。
そんな食べ比べができるのも、博覧会の醍醐味でしょう。
我々トリオの間では、「肝試し」「スネかじり」などなど、特定の部位に着目した企画のアイデアも随時増殖中です。
(と同時に、部位にまつわる言葉が多い日本語の豊かさに驚かされたりしますが)
今後の博覧会にご期待ください。

▼910シェフよりひとこと
続いての食材はとっておきの珍【ワニのタン】。
ワニタンと聞くと気持ち悪がられるかもしれませんが非常に万人が美味いと言いやすい食材だと思っています。
そもそもこれを知ったきっかけも我々が【珍】を求めていく過程で知り得ました。
あれはコロナ前、関東のお客様が食事に来て頂いた時の事です。
いつものように食後にお客様と色々な話をさせて頂いていました。
その際最近変わった食材が美味しくてハマっている旨を伝えると珍情報が。
なんでも東京の予約の取れない会員制の和食屋さんで、その更に常連さんだけが参加出来る機会のメインがワニタンの煮込み料理だったと。なんとも言えないオリジナルなワニタンの柔らかさは素晴らしいと。
なんて事でしょう、ワニタン!
という訳ですぐに食べてみたくなり仕入れました。
焼いても煮てもどちらも絶妙な柔らかさ、更に迸るジューシーさ。
ジューシーな感じは鶏のぼんじりがでっかくなったような印象です。
この美味しさを知ってもらいたい、まだまだ我々も知らない【珍】がある事を忘れるなよ、という両方の意味で今回舌に舌を重ねました。

▼MJまちゃおさんのプレイリスト
・Crocodile Rock/Elton John
・Down Under/Men At Work
・One Way Road/John Butler Trio

全3回の連載。次回は1週間後に公開予定。

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