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俳句の4つの型と切字 「20週俳句入門」藤田湘子著より

藤田湘子は、大正15年(1926)神奈川県小田原生まれ。俳句は16歳より水原秋櫻子に師事。23歳で「馬酔木」同人。その後石田波郷の後を受けて「馬酔木」編集長もされた方です。

以前私が、日本語上級学習者に3回シリーズで俳句講義をした際に、プレバトの夏井いつき先生の「世界一わかりやすい俳句の授業」という本にあった「俳句の型」を参考にさせてもらいましたが、この本の中で夏井先生は「私は俳句を始めたころにこの『20週俳句入門』を何度も読んで勉強した」と書かれています。

今回「20週俳句入門」を読んでみると、夏井先生もこの本を下敷きに「俳句の型」について書いていたことがわかります。

著者もはじめにの中で
「この本は『藤田湘子流早期養成法』ともいうべき内容であるが、これの実地検証はすでにいくつかのカルチャー教室で証明済み。効果は確認している。それだから、本書を読むあなたも、私の説くところをしっかり読み、忠実に実践してもらいたい」
と自信たっぷりです。

20週のうち、第1~7週までは準備編。
・自分のために俳句をつくること
・歳時記他揃えるべき物
・俳句の前提=五・七・五
・季語の働き
・切字の効果
について説明があります。

第8~17週は実作編。
切字を大切にした「4つの型」を示しており、これがこの本の眼目となります。

4つの型とは。
     上五       中七       下五
型1 季語(名詞)や             名詞
型2                 や   季語(名詞)
型3                     季語(名詞)かな
型4 季語(名詞)              動詞けり

切字の働きは次の3つ
1, 詠嘆
2, 省略
3, 格調

まず詠嘆。

辞書の説明では、感嘆すること、感動すること。
「ああ」とか「わァすばらしい」と感じる時の感激。
たとえば、春先に道端の雑草が芽を出したのを見て、「おやッ」と立ち止まるのも一種の詠嘆。
母親の起居に老いを見て、「ハッ」と感じるのも詠嘆。

夕東風や海の船ゐる隅田川  水原秋櫻子

で、「夕東風や」だが、この「や」には、
「ああ、この夕風の感じ、もうまぎれもなく春がやってきたのだ」という、
たしかに春を感じとったよろこびが含まれている。
そのよろこびも詠嘆です。

次に省略。

五月雨や蕗浸しある山の湖  渡辺水巴

「五月雨や」。
山の湖の汀に蕗の束が浸してある。
そこへ小止みなく五月雨が降り続いているのである。

「五月雨や」には、五月雨だから当然、
「ああ、よく降ることよ」の詠嘆がある。
がそれと同時に、
湖をかこむ山のみどりも、雨でいっそうあざやかに見えるし、
そんな季節だから湖もひっそりしずまりかえっている、
といった周辺のたたずまいも、おのずから見えてくるはたらきをもっている。
(だからそれらは「省略」されている)

そして格調。

(原句)五月雨や蕗浸しある山の湖  渡辺水巴
(改作)五月雨に蕗を浸して山の湖  (切字使わず)

こうして見ると一目瞭然、原句のほうがはるかに凛とした姿をしている。
俳句は韻文なのだから、この凛とした印象を大切にしなければいけない。
だらだらと金魚の糞のように十七音の言葉がつながって、なにがしかと意味が通っていたとしても、それを俳句と言うにははばかられる。
散文の一節というべきです。
切字はそうした凛たる姿と
朗々と誦するにふさわしいリズムを俳句にあたえてくれるもの。
大切に有効に用いることを心がけなければならない、
俳句の武器というべきものである。

湘子は、この「格調」は何度も声に出して読んでみれば、自ずと感じられるといいます。
ここはなかなか微妙なところです。俳壇にも「切字軽視派」がいるようです。

ところが残念なことに、今日の俳句の世界(「俳壇」という)では、この切字が軽視されている。
重要な武器だという認識がいたく欠けている。
「切字は俳句のいのち」とまで考えている私にとって、
じつになげかわしい状況にあるんですね。
で、切字軽視派の人たちは、
「もう『や』『かな』なんで古くさい。
『や』『かな』を使わずに、新しい俳句表現の方法を探求する」
などと言っているらしいけれど、これははなはだ短絡的な考え方。
言わせてもらうなら、俳句表現の新しい古いを論ずること、
そして、古いという理由で切字を用いぬことほど、
愚かであさはかなことはないと思うのです。
俳句が芭蕉によって確立されてから三百年。
この間いくたの起伏を経てこんにちの盛況に至ったのは、五・七・五と季語と切字、この相乗効果の見事さが多くの人の心をとらえてきたからにほかならない。
このうちどれか一つが欠けても駄目なのである。

ここは「俳句」の大事なところのようです。湘子は、俳句をやるなら1か月に30句は読まなくちゃ、と言います。この本を読みながら1か月になんとか30句作って、この「切字」のことを感じていきたいと思います。

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