海辺で穴を掘る

8月初頭、東大最後のデリシャスムーブメントが開講され、今年は対面で開催、5日間連続の集中講義となった。私は3日目と5日目に遊びに行って、自分のファイナルプロジェクトの話をしたり、踊ったり、お酒を飲んだりして、新しい友達ができた。ここは自分を解放できる場所で、とても居心地がいい。

わざわざ駒場まで出向いた甲斐があって、変なことを一緒にやってくれる人を数名見つけることができた。今日は、そのうちの一人と由比ヶ浜(鎌倉)まで行って穴を掘ってきた。海で穴を掘るなんて、当たり前すぎてつまらないと思っていたけど、最終的には公園で掘るのとは全く違った楽しみ方ができた。

由比ヶ浜の海

水が湧く

海から十分に近い位置で穴を掘ると、ある程度の深さ(50cmくらい)で海水が湧き出てくる。水が湧くのは井戸くらい深く掘った時だけだと思っていたから、出てきた時驚いた。海水特有の生き物が腐った匂いがした。

前回、掘った穴に水を注いだことを思い出した。公園の蛇口からバケツにくんで、何往復もして穴を水浸しにした。でも今回はそれとは全く違う経験だった。人為的に注いだ水はすぐに地中の奥深くに吸い込まれてしまう。公園に掘った穴が水溜りであることができる時間は1分にも満たず、魔法がとけると黒く湿気った土だけが残る。

いきなり出てきた水

地下に水路を通すイメージ

海にできた消えることのない水溜りを前にすると、とあるインスピレーションが湧いた。遊び心が動き出して、大きな穴を掘った。人一人が足を折り畳んですっぽり入れるくらいの、古代の屈葬棺を思わせる大きさ・形状だ。

人一人がすっぽり入れる穴を掘って、そこから海へ向かって地下水路を掘りたいと思った。以前世界史の教科書で見た、カナートを作って海の若者たちを驚かせてやろうと思った。本当に巨大建築を作ることが重要なのではなく、つまり作業の効率や目的合理性は度外視してよく、作業を単純化しないためのイメージを持つことが重要だ。

頭を海側にして棺に入る。棺の中は暗く、底に触れた膝や肘が濡れる。徐々に体を地面に近づけて行って、胸がついたあと額が水に接地する。それから手を肩から回して前へ伸ばす。壁は目に見えないが指先で砂をかじるようにして斜め下に掘り進める。海へ続く地下水路を意識する。

頭で掘る

この体制なら頭で掘ることもできる。「頭で掘ることもできる」なんて当たり前のことに今日まで気づきもしなかった。トンネルの一番奥はさっきまで指先で掘っていたから縦幅がなく、頭を縦にできないほど狭いから、横を向く必要がある。頭蓋骨は前後に厚く、横は薄い。すると頬が泥に濡れ、鼻の穴の片方が水につかる形になるから、呼吸も半分できなくなる。

恐怖した。今、穴の上にいる人がふざけて土をかけ始めたら俺はそのまま何も言えずに生き埋めになるだろうと思った。穴からお尻だけ突き出している俺の間抜けな姿勢は如何にも弱者で、海に熱狂した人々の嗜虐心をくすぐりえた。「いい不審者、パリピに殺されるの巻」は全然ありえた。

次から、穴に入る時は信頼できる共同作業者に一言言ってから降りるようにする。なるだけ真剣なトーンが伝わるように注意する。

頭で掘った後の頭
最終的には大人が半分見えなくなるくらいの深さになった


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