地図に残る仕事

 あるCMを見た感想です。私もインフラに関わる仕事をしていました。CMを見ると、そのころの記憶がよみがえりました。しかし、美化しすぎていると感じました。たしかに、やりがいのある仕事、自分の中では誇れる仕事だと思います。ここではあえて悪い部分のみを書きたいと思います。
 数千億、何兆というプロジェクトでは、個人の人権、ときには命さえ、かすんでしまいます。交通事故で人が死んだ場合、損害賠償は数億です。数億より大きな利益が動くとき、それは見過ごされてしまいます。
 そんなことはない、人の命は地球より重い、と思われるかもしれません。しかし、実際には、工事で人は死んでいます。例えば長い橋を作るとします。非常に危険な作業では、死亡事故が起きる可能性が高い場面もあります。しかし、橋を架けることで、多くの人の暮らしは豊かになり、その効果をお金に換算すれば何百何千億ともなれば、何人か死傷しても損害賠償額は何億かですみます。このように、公共の利益を優先し事故も致し方ないとする場合もあります。
 これにくらべれば、同級会などで休みが取れないなど比較になりません。時には仕事が忙しすぎて、物理的に帰宅できず、プライベートな返信ができないこともあります。
 Twitterを見ると、CMを見た人の感想に、このようなものがありました。

「同級会には行けません。今、シンガポールにいます。」の倒置法が成功者アピールしてるみたいで嫌い。

女の人が仕事で同窓会来れませんってLineを当日送ってるのって普通においおいって感じ

「シンガポールで仕事してるから同窓会には行けません」のCM。あんな風に自らシンガポールで仕事してるから行けないって言う人はクラスで浮いてしまうと思う。

 CMをよく見てもらうとわかりますが、主人公の女性が外国にいると返信したのは、クラスメイトが、「今どこにいるの?」と聞いたからです。私も、当時付き合っていた人に返事が遅い、今どこにいるの?とよく聞かれました。相手がなかなか返事をしてくれない、やっと返事をしてくれたと思ったら、仕事でいけない、となると、今どこにいるの?何をしているの?という問いになるのは、相手の気持ちを考えれば当然だと思います。私は、〇〇(すぐに帰れない場所)にいます・・・。と返信さえできませんでした。個人のスマートフォンを持ち込めない場所でした。
 自慢することなく、ただ場所やインフラの仕事をしていると伝えただけでも、すごい仕事をしているんだねと、勘違いをされてしまいます。Twitterの書き込みほどではありませんが、誤解をされることもありました。
 現実の仕事はキラキラしていません。例えば、転落事故がおこり、骨を折る重傷をしているのに、救急車を呼ぼうとする常識を持った人は罵倒され、監督はタクシーを呼ばせます。救急車を呼ぶと、労災になるからです。タクシーであれば私病にさせることのできる病院へ連れて行くこともできます。後に聞いた話で、転落した人は頸椎を骨折していたそうです。その後、どうなったかは知りません。
 男社会のためか、一流企業といわれる会社でも、風俗が好まれています。現場の下っ端が好むのではなく、監督など権限を持った人の方が好みます。下っ端は行くお金がありませんからね。そのため、どこの店にかわいい子がいるとか、あの店のサービスはいいなどの情報を知っておかなければならない、もしくはそうした店に接待で連れて行くことも必要とされる場面もまだあります。このような下卑た現場では、CMの主人公のような女性は働きにくいでしょう。私の勝手な想像ですが、CMの主人公はやる気があるため、会社は、大規模なプロジェクトがあり、日本の悪しき風趣のない海外勤務としたのかもしれません(笑)。
 インフラの仕事をしていたら、当然既存のインフラを止めることもあります。そうすれば、一般の人にとって不便になります。不満を持たれるのも当然だと思います。そうした不満を持った人たちから罵倒を浴びせられたり、ときには暴力沙汰になることもありました。
 大規模な工事ともなれば、利権による争いがおこります。地域住民からの反発もあります。時に、反社会勢力の人がやってくることもあります。
 指さしして指示を出しているような表現もありましたが、実際にあんなことをしていたら、職人から嫌われます。指さしするときは指差喚呼するときくらいです。
 食事の風景では、食後にみんなで楽しく談笑していましたが、そんな余裕はありません。限られた休憩時間、職人さんは寝ていますし、管理者は仕事にもどります。仕事を片付け時間を作り気分転換にレストランなどに行こうものなら、トラットリアであっても作業服姿では追い出されることもあるでしょう。図面を書くだけで服も靴も汚れていない人でもです。
 たしかに地図に残る仕事です。自分が寿命で死んだあと自分が携わったインフラは活き続けるでしょう。しかし、現実はとてもキラキラした仕事だと自慢できるものではありません。

追記
 アニメーションは詳しくないけどよかったと思います。ある意味、同級会にいけない、返信さえ当日になるのはリアルに描いていたと思います。それなのに、Twitterでは多くの人は感動しているようです。アニメーションの影響はすごいですね。

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