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絶縁してから数年後「実家について聞きたい事がある」と、警察から電話があった

色々あって実家と絶縁して数年になります。絶縁を決めてからも私の心は揺れ動き、苦しい時間も随分ありましたが、今年はようやくそんな気持ちにひとつの区切りをつける事ができました。

あとは、実家の誰かが倒れた時や死んだ時にどうするのか…血縁が存在する以上、完全に無視も難しいだろう…それだけが私の懸念事項です。そんな私に、ある日、警察から1本の電話がかかってきたのです。

「□□警察××課の△△といいます。○○さん(母)名義の車が××で放置されているのが見つかりました。登録されているご自宅に電話したのですが、誰も出ない状況です。何かご存知ありませんか?」

「えっ?どういうことですか」
咄嗟に理解できませんでした。

その日は平日の昼前でした。自宅で仕事の準備をしていると固定電話が鳴ったので出てみたら、電話の向こう側でそんなことを告げられました。放置されている車があるという通報を受けた警察が、所有者を調べて実家に連絡したところ誰も出なかった事で、緊急時の連絡先として登録されていた我が家にかけてきたようです。ヒュッと息が止まるような感覚がし、頭の中が真っ白になりました。

車が見つかったその場所は、山間の自然公園のようなところです。子どもの頃は家族でレジャーにも何度も行きましたし、父が仕事で時々尋ねる場所でもあったので、私はよく父にくっついて遊びにいきました。いわば、私も含め実家家族にとって縁の深い場所。しかし今は冬。寒くなりコロナ禍でもあり、そこを尋ねる人は多くないはずです。人気(ひとけ)のないそんな場所に放置された母の車。

母はジェットコースターのような人です。過干渉で自他境界が甘く、思い通りにならないとキレたり家族を脅したりをするような人です。共依存で家族を所有物のように扱うところがあります。実の娘に徹底的に縁切りをされて数年。母のメンタルがどうなっているのか…いまの私は一切わからないですが、最悪の状態だったとしてもなんの不思議もありません。

それを分かっていながら、私は絶縁を選んだ娘です。むしろそうだったから、絶縁を選んだのです。だから絶縁した事は後悔はしていません。ただ、私は母に死んで欲しいとは思っていないのも事実です。母は母の人生を生きて欲しい。あとは、別の他人として、生きていても死んでも、もう遠くの誰かの話でどうでもいい…ここ最近は、そんな気持ちでいました。

それでも、家族の思い出の多い山間で放置された車、実家の誰とも連絡が取れない状況。まさかそのパターンは想像していませんでした。警察の人が何か言うのですが、うまく答えられません。「弟…!弟がいるんです。実家で一緒に住んでます。弟の職場もわかるので…出勤してるかを確認して…連絡先…待って…調べます」

必死でスマホを操作しましたが、手が震えてうまくいきません。気持ちを整えようと、何か話さなくてはと思いました。「実家と縁を切ってもう数年経つんです。だから、私には何もわからないです…」警察の方が電話の向こうで、少し驚いた声で「えっ…それはどういう?」と聞き返しました。
「いえ、あの…よくある親子の不仲というやつです…でも…母にとっては辛い状況だったと思うので…何があってもおかしくないかと…」
口に出してみて、自分の中で心臓の音が激しく鳴るのがわかりました。ようやくスマホのアドレス帳が開きました。

父の携帯番号、弟の携帯番号を伝えました。弟の職場の会社名と所在地、業種、弟がやってる仕事の内容なども伝えました。「ネット検索してもらったら、すぐわかると思います」動揺のあまり自分ではうまく検索して情報にたどり着けなかったので、できるだけ調べやすいようにと、とにかく詳しく説明しました。震える声の私に、警察の人は「こっちで調べます!」と力強く答えてくれました。

警察の人からいくつか質問がありました。「お父さんの○○さんは、お仕事は何をしてるんですか?」「父は…定年の後、個人事業主で…仕事自体は続けているはずで…母も定年後の再雇用で…でも数年前の時点なので…連絡をとっていないので…今はどうなってるか…」「あ、いえ、お仕事中に携帯にかけても、出られるかと思いまして」「ああ、それは大丈夫だと思います…多分…数年前の時点での話ですけど…」

経済的にはゆとりがあった実家ですが、私の知らないうちに何かあってもおかしくないとも思いました。コロナ禍です。予想外の事がたくさん起こって、たくさんの人の生活が激変した年です。

「あっ、お母さんの携帯番号もわかりますか?」警察の人にそう言われて、「あっ、そっか、そうですね。わかりますわかります!」母の携帯番号も伝えました。そこで警察の人が「では、連絡してみますので」そう言って電話を切ろうとしたので「あのっ!あの!何があったか、分かったら教えてもらえるんですか!?!?」と縋るように聞きました。「はいっ、えっ?あっ、とりあえず連絡しますので。では」よくわからないままあっさり電話は切られてしまいました。

電話が切れた後、呆然としたまま部屋の中をウロウロしました。旦那にLINEをしました。詳細を文章にして改めて目で見るのが怖くて「いま電話したい」程度のメッセージしか送れませんでした。よっぽどの何かが発生した事を察した旦那が、仕事を抜けて電話で話を聞いてくれました。とはいえ、長時間話すわけにもいかず、少しだけ状況を説明して「何かわかったらまた連絡する」と言って電話をすぐ切りました。

その日、私は午後から重要なオンラインミーティングが入っていました。こんな精神状態で話ができると思えない。中止のお願いをする?いや、でも全体への影響が大きすぎる。それにまだ何があったかわからないのに、他人に簡単に事情を話せるような内容じゃない。どうしよう。頭の中が真っ白で、何も決められませんでした。

また、別のことも考えました。これ、本当に実家の全員になにかあったら私はどうするの?何をしないといけないの?後片付け?手続きとか?なにするの?とりあえず実家にいくの?もう2度と行かないと決めたあの場所にこんな形で行くの?耐えられるの?無理では?誰かに頼む?誰に????

◇◇

そのまま呆然としていたら30分ほどで今度は私のスマホに着信がありました。末番110。警察の番号です。そういえば、次はスマホにかけてくださいと、さっき私の番号も伝えたのでした。

「□□警察の…」「ハイっ!ハイっ!何かわかったんですか!?!?」相手が名乗るのを遮るように聞く私。警察の人の落ち着いた声が電話の向こうからしています。

「結論から申し上げますとですね…みなさんお元気でした!お父様の○○さんが、お仕事で今朝から行ってるんだそうで。置いてある車を見かけた方が、何日も前から放置されてると勘違いして警察に連絡してしまったみたいなんですよ〜」
「はっ…」
「お母様も弟さんも携帯にかけたら出まして、そのように教えてくれました」
「ええええええええぇえええええええ!!?!?そういうこと!!??」
「はい!なのでみなさん無事です!大丈夫です!」
さわやかに話す警察の人。

そうか!そうか!父がもともと仕事でよく行っていた場所です。今日だって仕事で行っていてもなんの不思議もない場所です。しかもこの日に父が乗って行った母名義の車は、人気車種の定番カラーです。通報した人は、たまたま最近見かけた別の車と混同して「ずっと置いてあった」と勘違いしたとしても仕方がない気がします。

「あっあっあっ。そ、そうなんですね!よかっ…よかったです。やだっ。私ったら、いらん情報いっぱいいいましたね!?やだぁ〜〜〜〜!」勝手に思い込んで深刻なテンションでベラベラしゃべってしまった自分が猛烈に恥ずかしくなり、突然のおばちゃんテンションが炸裂する私。
「いやいや、はははは!とにかく皆さん無事でよかったです!」
どこまでもさわやかな警察の人。
「そうですね!そうですよね!あっでも、私、ほんと余計な情報をいっぱい伝えてしまって…も〜!やだわあぁあああ!すいません〜〜!」
恥ずかしさで同じ事を2度いう私。

「それでは!」と警察の人が挨拶をしたので、私も「お世話かけました〜!」と電話を切りました。

なんだ、そうか、そうだったのか。膝から崩れ落ちながら、この日ほど、心の底からこの言葉を言った日はありません。

「生きとったんか、ワレ!!!!」

◇◇◇

追記

別視点のおまけの話です。我が家の固定電話にはナンバーディスプレイ機能をつけておりません。なので、最初の電話の時点で私は相手が名乗る「○○警察です」という言葉だけを信じ込んで、ベラベラと個人情報を喋ってしまっております。今回は結果的に本当に警察の方だった(後のスマホの着信で判明)ので問題なかっただけです。

警察を名乗られたとき、そして家族の万が一を伝えられた時、自分がこんなに頭が真っ白になると思っていませんでした。普段使いこなしてるスマホも検索も、上手くできなくなる事も想像していませんでした。冷静な今なら、最初の電話を受けたときにまずは相手の所属と名前をメモし、調べた後で折り返せばよかったことはわかります。その知識も以前からありました。でも、実際に電話を受けたその時は全く思い出せませんでした。

予想を超えた突然の非日常は、人の判断力をこうも簡単に奪うのだと、いい教訓になりました…。

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