自傷行為について

 少年院に送致された子どもの身上調査書を読むと、よく「根性焼き」とか「リストカット」が何か所あるといった記載を見かけます。これは「自傷行為」と呼ばれる、自殺を目的としない自身の健康を害する行為の一つです。
 少し古いですが国立精神・神経センターの調査では、一般の中・高生で自傷行為経験者は9.9%であったところ、少年鑑別所及び少年院(少年施設)の入所者では21.1%になり、そのうち女性はなんと54.8%に上っていたのです。つまり非行のある少年たちは、いわば自傷行為のハイリスクグループと言えます。これら少年施設入所者の自傷行為経験者には、その養育者の問題飲酒、ネグレクトや心理的虐待経験、家庭内暴力場面への頻回暴露体験を持つものが有意に多かったのです。さらに、彼ら自身の多くが、問題飲酒や薬物乱用経験を有していました。
 私が、数年にわたって女子少年院の仮退院審査に関わっていたときも、多数の少女に身体中にタバコを押し当てた痕や手首のリストカット痕が見られました。彼らに概ね共通していたのは、自尊意識・自己肯定感の低さでした。表面的には傷つきやすい反面、自分自身にもう存在価値もない、汚れてしまったという絶望のような感情でした。ある子は、母親と仲良くしたいのに、反発して面罵してしまった自身を受け入れられず、罰としてリストカットをしたと述べました。また、自己肯定感を失った子は、いわば捨て鉢になって、薬物や性に身を沈めてしまうこともよく見られました。
 なぜ、彼らは自傷行為を行うのか。
 自傷行為の機能として、感情調整、顕示、自他の境界/解離への抵抗、承認欲求、自罰の5つが指摘(高橋哲、藤生英行 ※)されています。根性焼きの場合、非行グループの中での制裁として行われる場合や仲間である象徴として行われる場合もありますが、自分自身に繰り返すようになる子もいました。自分がたまらなく嫌になってきたとき、自分に傷をつけ、その痛み、流れる血を感じる事によって、一時的に気持ちが楽になる効果もあるようです。神戸で令和2年9月に自殺した女子中学生が残したメモに、「学校疲れた リスカしたい 授業ダルイ 死にたいな」と書かれていました。
 あまりに痛々しいと思います。私達は、彼らの自傷行為に走らざるを得なかった生い立ち、置かれた状況、やるせない気持ちに思いを寄せて、受け止め、理解を深めたいと思います。身体の傷は、時間をかければ消えないまでも薄れていきますが、心の傷として放置すれば何度もぶり返すことになります。埋まっているどろどろとした感情記憶を表に出して、やっつける手伝いをしたい。救い出したいと思います。

※高橋哲・藤生英行(2015) 非行少年の自傷行為の経験率とその心理的機能 Japanese Journal of Counseling Science, 48, 75-85.


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