部員の横顔(3) やちん
「部員の横顔」第3回は板橋競馬倶楽部が誇る南洋の鬼才、やちんさんです。損の悪魔に魅入られ、外れ馬券と含み損の十字路でブルースギターをかき鳴らす同氏の半生に迫ります。(聞き手:阿川サワー子)
阿川サワー子(以下、サワー):皆様ご無沙汰しております。1年3カ月の長い休載期間を経て、今回はこの方に来ていただきました!
やちん:よろしくお願いしまーす! インタビューいただけるということですが、サワー子さんのお手を煩わせることはありません。実はもう原稿書いてきちゃったんです。
サワー:ええっ? 超優秀じゃん!
やちん:こんな感じなんですけど、使えますかね?
サワー:お帰りいただけますか? 今ならまだ宮崎行きの便あると思うんで。
やちん:そんな!!
宮崎から上京、そして浦和競馬へ
サワー:気を取り直して始めましょう。やちんさんは今は宮崎にお住まいですが、生まれてからずっと宮崎で暮らしているんですか?
やちん:いえ、大学進学と同時に一度上京しました。大学は埼玉で、住んでいたのは中浦和の学生マンションだったので「上埼」なのかな。
サワー:すんで埼玉だ。
やちん:初めての東京には驚きました。モノレールや山手線から見た高層ビルと車、そして人の群れ。都会の街並みにワクワクしっぱなしでしたが、大宮から離れて(大学に近づいて)いくたびに青ざめていったのを覚えています。地元より田舎やんけ。
サワー:ゆりかもめの高層ビル群から埼玉の奥地はギャップありますね。
やちん:ですです。無理して大学デビューする気もなくなってしまって。バイトにバンド活動と、親元から離れて気ままに生きていましたね。
サワー:バイトは何を?
やちん:浦和にある「酒造力」(※浦和レッズサポーターの集う店)の近くにあった漫画喫茶でバイトしてました。ちょうどレッズが初めて優勝した年(2006年)だったんですよね。深夜1時過ぎてもサポーターがわちゃわちゃしていて、それを3階の窓から漫画片手に見てたのを思い出します。……って、こんな感じのインタビューでいいんですか?
サワー:いいんです。今回はやちん2万字インタビューなので。ロッキング・オンに載ったつもりで答えてください。ガールフレンドはいたんですか?
やちん:いました。付き合う前、浦和駅西口のうなこちゃん横で数時間話し込んだのめちゃ記憶にあります。
サワー:多感な頃って、酒もないのになんであんな長いこと話せるんでしょうね。彼女と甘酸っぱいエピソードとかないんですか?
やちん:お互いにウィルコムの携帯を購入したんですよ。ウィルコム同士なら通話が無料だったので。「これでいつでも長電話できるね~」なんて話してたんですけど、なぜか愛知の大学に通う高校の友人(男)と毎日電話してました。2時間45分話したら通話が一度切れちゃうので、またかけ直したり。依存症でしたね。
サワー:本当にどうでもいいエピソードありがとうございます。
やちん:初めて見た裏ビデオは彼に借りた後藤まみでした。今思えば全然ゴマキに似てなかった。
サワー:競馬にはその頃出会ったんですか?
やちん:その友人に名古屋競馬場に連れて行かれたのがきっかけです。
名前だけで選んだハシリタガールの複勝を当てたのが始まりでした。100円がこんなつくんだって。 ナインティナインのオールナイトニッポンで、西田ひかるの「私はすぐに治りたガール!」(という定番のフレーズ)を聞いていたから買えちゃった。
それから彼と二人で、誰も読まない予想ブログ書いたり共同馬券買ったりしてました。いつかの秋華賞では彼のブラックエンブレムと僕のプロヴィナージュでワイド500倍当てたこともありました。
サワー:そういう成功体験を経て今の霊感馬券スタイルが構築されていったんですね……。浦和には競馬場もありますね。
やちん:浦和競馬場にはふらっと自転車で行ってました。住宅街のなかにポツンと出てくるんですよね。パドックも近いし、B級グルメはうまいし、結構行ってましたね。Theピーズ(1987年結成のロックバンド。メンバーはグリーンチャンネルに出演したこともある競馬好き)のはるさんと偶然お会いして、2人で競馬して、写真撮ってもらったのも良い思い出です。その後、紅布(東新宿にあるライブハウス)で話したら全く覚えられてなかったけど。
サワー:本家の2万字インタビューみたいなエピソードですね。さて、大学卒業後はどうしたんですか。すぐ地元に帰ったんですか?
やちん:いえ、卒業後は彼女が住んでいる埼玉県内の街に就職しました。住居も彼女が用意してくれると言うので。
サワー:ええっ! どういうこと?
やちん:彼女の父親が埼玉南部にアパートを持っていたんですよ。今思えば、その子の家って昔ながらの地主でしたね。
サワー:絵に描いたような逆玉!(その人、西川って名前だったりしないよね?)
やちん:でもその彼女とはリズムが合わなくなって別れてしまって……。その後は川口栄町~池袋と住処を変えていきました。
サワー:ついに東京上陸したんですね。仕事は真面目にやっていたんですか。
やちん:仕事は楽しかったですね。バイトとは違ってもらえる額も多いですし。任せられて何かをするってのも今までなかったから新鮮でしたね。今考えたらブラックなんだけど、会社に寝泊まりして仕事してました。
サワー:やちんさんは昨年東京に来た時、夜を徹して東京を練り歩いてましたよね。タフさはそういう経験で身に付いたんですね。
やちん:若さゆえです。今だったら絶対無理。ちゃんとしたお布団で寝たい。
サワー:寝ないで歩いてたじゃん
サワー:あと、やちんさんの狂気じみた優しさを印象付けるエピソードとして、部員で競馬を見に行った時に10人分以上の地ビールをお土産に持ってきてくださったことがありましたね。すごいうれしかったですけど、宮崎から府中までビール瓶担いで持ってくるって……。
やちん:あれについてはこんな美談があるんですよ。
サワー:地元に帰ったのはいつごろです?
やちん:7年くらい働いた頃かな。ばかみたいですけど、休みで実家帰ったときにめっちゃ星がきれいだったんですよ。それで。
サワー:ときどきロックミュージシャンみたいなこと言いますよね。それで今に至ると。板橋競馬倶楽部にはどういう経緯で入ったんですか?
やちん:僕はもともと不動産アカウントなんですよ(覚えてますか?)。
不動産ツイッタラーもフォローしてたんですけど、いつの日からか土日のTLが競馬一色になり、つぎつぎ湧き出る「おめです!」の嵐。「なんだこれは!?」って感じでしたね。
サワー:TLであまりに騒ぎすぎて部員がミュートされまくってた頃ですね。
やちん:そうそう。2020年のファイナルステークスの時に、門戸を広げていた(※板橋競馬倶楽部のタグを付けてツイートすれば強制的に収容していた)のでそれに乗じて潜り込みました。
推しは相談役。「オルフェ封じ」にシビれた
サワー:競馬の話も聞いていきましょう。好きな馬は?
やちん:好きな馬はレッツゴーキリシマです。競馬を始めたころに走っていた馬で、同じ九州の「キリシマ」の冠名に惹かれました。地元びいきですね。
サワー:騎手の推しは誰ですか?
やちん:柴田善臣ジョッキーです。堅実な騎乗で「公務員ジョッキー」と揶揄されていましたが、その姿が好きになりました。先述の友人も善臣好きで、引退式は一緒に行こうねと話しています。
サワー:最近は「相談役」という愛称で親しまれていますね。まだまだ現役の騎手ですが、キャリアハイの頃は私は競馬やってなかったんですよね。印象に残っているエピソードを聞かせてください。
やちん:宝塚記念をナカヤマフェスタで優勝してからの、ラジオNIKKEI賞アロマカフェ、七夕賞ドモナラズの3週連続重賞勝ちはしびれました。ナカヤマフェスタはその秋に凱旋門賞で2着でしたが、そこも善臣だったら……といまだに夢見てます。(凱旋門賞の鞍上は蛯名正義)
サワー:2010年の宝塚記念ですね。実は板橋競馬倶楽部のメンバーと競馬場でニアミスしていたという話も聞きましたが。
やちん:2011年の日本ダービーです。アンニュイさんとノンデリえもんさんも現地にいたとのことで、どこでどう繋がるかわかんないもんですね。そのダービーは善臣騎手騎乗のナカヤマナイトが目当てでした。4コーナーでオルフェーヴルにタックルをかまして、「あの公務員ジョッキーがこんな気迫を!」と興奮したのを覚えています。
サワー:そういうドラマが生まれるのも競馬の楽しみのひとつですよね。他に思い出に残っているレースはありますか?
やちん:馬券的な意味合いだと2013年の富士ステークスですね。1000円ちょっとが30万越えしました。
サワー:すごすぎ!
やちん:イギリス旅行かドラム式洗濯機か、悩みに悩んで洗濯機を買いました。当時住んでたマンションはリビングに洗濯機を置く間取りだったので、洗濯物がぐるぐる回ってるのを見ながら毎日ビール飲んでました。
他には、ウオッカとダイワスカーレットが激突した秋の天皇賞です。現地で見てましたが、本当に人が多く、身動きとれないし、レースも見れないし、たまりませんでした。馬券はダイワスカーレットの単勝でした。インチキ!
サワー:やちんさんってどうやって予想してるんですか? というか予想してるんですか?
やちん:失礼な! ちゃんと予想してますよ。芝レースはラスト5ハロンのラップを重視してます。最後の5Fを見て、瞬発タイプか持続タイプかで分けて、そのレースに合う馬を選んでいます。
サワー:なんかそれっぽく聞こえる……。これまでの競馬収支を教えてください。
やちん:AーPATを覗いたら去年は78%でした。通算の収支はどれくらいだろう。AーPATって1年前までの収支しか見れないから分からないですよね。分かりようがないんですよ。もしかしたら勝ち越しているかもしれないし。ブラックボックスです。
サワー:負けてるということですね。傷に塩を塗るようで申し訳ないんですが、やちんさんは株も相当ヘタ……ではなく、独特の投資方針で資産運用されていますよね。
含み損でできたSR400でツーリング
やちん:株は板橋競馬倶楽部に入ってから始めました。みんなやってるし、平日が暇だったからついつい手を出して……。初めて買ったのは清水建設で、年末に板橋の投資顧問が太鼓判を押していたアバールを買っていました。
サワー:何をやっている会社かわからないのに信用買いしたんですよね。初場所の飲み会で、たかさんが狂人を見るような目でやちんさんを見ていたのが印象に残っています。
やちん:アバールではハンターカブくらい負けたのかな。今は日経ダブルインバースにしこたまやられています(※本稿執筆時、日経平均はバブル後最高値を更新し、ダブルインバースは最安値272円を記録した)。含み損でSR400が買えるのでツーリングにでも行こうかな。かもめさんも空気製のミニクーパーでよくドライブされてますね。
サワー:一応聞きますが、株式投資で重視していることは何ですか?
やちん:始めた当初は数をこなすことを重視していました。日本郵船など値動きが激しい銘柄でのデイトレや、先物取引やったりしてましたね。でも、株に気を取られて仕事が手につかなくなったり夜中に起きたりしてきたので、今はガチホ中長期でやっています。
サワー:それが賢明ですね。株は余剰資金でやるものですよ。
やちん:府中からの帰り道、たかさんからいろいろ教えてもらって、それまでの信用全力から現物に切り替えたのもよかったですね。あとはやっぱり信頼の翼。信じるものは救われます。
サワー:それでは最後の質問です。やちんさんと言えば、大レース直前にアップする霊感動画(下記ツイート参照)がTwitterのごく一部で熱狂的に支持されています。あれはどういう気持ちでやっているのですか?
やちん:半分受ければいいかなと思ってやってます。板橋の皆さん芸達者じゃないですか。文才あったり、画才があったり、博打うまかったり、料理できたり、凄い球なげたり、激務だったり。自分はなんもネタがないなあって思ってたけど、「それなら自分自身がネタになればいいじゃん」って。あいつばかだなあ、って思ってくれればこっちのもんです。
サワー:それにしても発想の角度が異常ですよ。
やちん:お風呂とか歩いてる時、運転してる時にこんなん面白いかなーって何気なく浮かんでそれを形にしてます。やればやるほど、頭の中のものを表に出すことができるクリエーターってすごいなと思います。思いついてもほとんどポシャっちゃうし。
サワー:負けが込んでる時は特にすごいですよね。
やちん:妻と喧嘩してるときや株や競馬で損してるときに思いつくんですよね。死にそうになったら子孫残そうと性欲高まるみたいに、自分のいた意味を形にしてんのかな。今もインバが最安値を更新してますし、すごく創作意欲が高まってるんですよ。
というわけで、新作です。子を授かった人が直面する悩みについて、日本ダービーに絡めて表現しました。ご覧ください。
サワー:ありがとうございました!
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