泡になって消えないように


 生きたいように生きれば良い。
 それが難しい事に気が付いたのは、社会人になってずいぶん経ってからの事だった。

 自分の好きな仕事をして、
 自分の好きな事をして、
 自分の好きなように時間を使って、

 学生時代、そして新社会人だった頃、簡単に出来たそれは時間が経つほどにとても難しくなっていく。

 金銭的な感覚の変化、仕事のストレス、人間関係の悩み。
 いっそ何もわからないくらい、必死で『今』を生きていたあの頃の方が、ずっと生きやすかった。
 わき目も振らずに前だけ見て走っていたから、余計な事を何も考えなくて良かった。

 余裕があると見えてくる、

 嫌なもの、
 自分とは違うもの、
 どうしても理解できないもの、

 そういう余計な事が、頭の中に張り付いて。
 良い事はたくさんあるはずなのに、それだけがクローズアップされて。
 そしてそれに対しての耐性だけはどんどんなくなっていく。

 生きたいように生きる事が出来たら良い。
 当たり前にできていたそれらが、いつの間にか夢を語るような言葉になって。
 その夢が人魚のように泡になって消えないように、必死に手を伸ばして掴んでいる。

 まるで海の中で水面の光を目指してもがくように。 

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