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さすらいの診療放射線技師 5

さすらいの診療放射線技師 5回目です。
今までは、過去の話をしてきましたが、今回は現在進行形のお話をしましょう。

私のTwitterなどを見てくださっている方は、私が仕事でMRIの撮像をしていることをご存じかと思います。
私の現在の勤務先は整形外科と歯科を併設しているクリニックで、勤務している診療放射線技師は2人。仕事の範囲は一般撮影、デンタル撮影、パノラマ撮影、骨密度測定(DXA法)、フォルム、そしてMRIの撮像です。
うちは骨密度測定の件数がとても多く、多い日は20件近くになります(病院などでDXA法の測定をしている方はおわかりかと思いますが、これは桁外れに多いはずです)。というわけで、ほぼ1人がここにかかりっきりになりますので、その他の仕事をするためにもう1人技師が必要になるのです。クリニックのくせに(笑)2人も技師がいるという贅沢な状況はこのようにして起こりえるわけです。

さて、そのMRIですが、当院ではG○社製の低磁場オープンタイプを長年使っておりました。そのMRIが昨年夏に突然ハングアップしてしまい、原因と予想される基板が500万円(!)もする上に、日本にはなく、しかもそれを交換してもまた別のところでトラブルが起こる可能性がある…ということで、院長熟考の末、新しいMRIを入れることになりました。
その機械が稼働し始めたのが、3月末のこと。前機器と同じ低磁場オープンタイプなのですが、やはりメーカーが違うためか、なかなかプロトコールが上手く設定できず、今も試行錯誤しながら、毎日の仕事をしています。
そんな中で、気づいたことがいくつかあるので、ちょっとお話ししてみようかと思います。たぶん、こんなことはみなさまご存じのことかと思いますが(笑)、改めて復習するつもりでお読みいただけたらと思います。

MRIの撮像を経験された方ならおわかりかと思いますが、その撮像時の稼働音はなかなかのものです。うちはオープンタイプなので、クローズドタイプのものよりも響く感じは少ないはずですが、やはり相当うるさい音がします。私は「工事現場で昼寝する感じ」と説明します。終わった後、みなさん「そうだねぇ…」と納得してくださいます(笑)。「耳栓はないですか?」と仰る方もいらっしゃいますので、一応使い捨てのものは用意してありますが、はっきり言って耳栓程度で消える音じゃないので(笑)気分の問題ですね。ただ否定はしません。耳栓がほしいと仰る方にはお渡ししています。
『否定しない』
一つ目のポイントがここにあります。
検査に向かう患者さんはとても不安です。いろいろなことを仰います。たくさん質問もされます。同じことを何度も聞かれたりもします。その一つ一つを『否定しない』。
『傾聴』とも言いますが、まず『否定せずに聞く』。
私はクリニック勤務という仕事柄、レントゲンだけを撮っているわけではなく、予診を取ったりすることもあります。そこでも『否定せずに聞く』ことを基本にしています。『聞く』ことで、意外なエピソードが拾えることもありますし、既往を知ることもできます。
『否定せずに聞く』、そして、その方が持っている不安や疑問を解いていく。そのことで不快な検査をギブアップせずに、最後まで完遂できる確率が上がります。

さて、テーブルに患者さんを寝かし、コイルを装着し、いよいよ撮像です。
おっとその前に。
患者さんにエマージェンシーボタンをお渡しします。
うちに入っている機械は富士フイルム社製なので、ボタンと言っても、空気の入ったピンポン球のような形状をしていて、それをぎゅうっと握ることでアラーム音が鳴ります。
実は前の機械にもエマージェンシーボタンはあったのですが、これを鳴らすと機械が止まってしまうため、患者さんにお渡しすることができませんでした。ミスタッチしてしまいそうな形状だったのです。当院のトイレにもエマージェンシーボタンがついているのですが、これを誤って押してしまう方がどれほどいることか…。その実情を知っている身としては、機械が「ドンッ!」と止まってしまうものはなかなか怖くて使えませんでした。
しかし、富士フイルム社製のエマージェンシーボタンはアラーム音が鳴るだけで、機械は止まりません。しかも「強く握ることによって作動する」というミスタッチの起こりにくい形状です。これを患者さんに渡して、一度作動させます。「ぎゅっと握ってみてください。音がします」と、やってもらって、どのくらいの強さで握るとどういう音がするかを体験してもらいます。そして「検査はいつでも止められますから、何かあったら遠慮せずに、これをぎゅっと握ってくださいね」と言います。
二つ目のポイントです。
『いつでも検査は止められると、知らせる』
場合によっては、そういうわけにもいかないものもあるかと思いますが、造影を伴わないMRI検査は途中で止めることも可能です。もちろん、止めないことが再現性などの上で大事なことは当然ですが、私はそれよりも「検査を成立させる」ことが重要と思います。診断を下す上で必要と考えて、医師は検査をオーダーします。その検査を完遂し、診断するに値するデータを提供するのが私たち技師の仕事です。患者さんに苦痛を強いたり、不安にさせることによって、検査を完遂できなかったり、次回の検査を拒否されるようになってしまってはいけないと思います。
この検査は途中で止められる。何かあったら、このボタンを押せばいいんだ。
そう知らせることで、患者さんは不安を少しだけ解消できます。事実、このボタンを持っていただいてから、ギブアップは1件もありません。かなり状態が悪いと思っていても、みなさん最後まで頑張ってくださいます。
「痛かったら、検査止められるんだと思ったら、最後までできた」
何人かの患者さんにそう言っていただきました。
ぎちぎちに逃げ場を奪うのではなく、少しだけ逃げ道を残してあげることで、精神的なパニックはかなり回避できます。
これはMRIではなく、CTでの話ですが、以前病院勤務だった時、かなり強い閉所恐怖のある男性患者の検査を担当したことがあります。閉所恐怖(特にパニック障害に伴うもの)は狭いところが怖いだけでなく、自由に動けないことが怖い…という性質のものもあります。その方はまさにそれで、CT検査にとても不安を持っておられるようでした。そこで私が提案したのは「プレーン(造影をしない)撮影と造影撮影を別々の日に分けて行う。造影も最初に留置針を入れてからテーブルに寝てもらい、すぐに造影剤を流せるようにする」というものでした。確かに再現性という点ではこれはダメでしょう。しかし「必要な検査を行い、診断を確定する」ということを優先させるとしたら…。100%を狙って0%になることよりも、私は75%を最初から目指すことにしました。当時の上司には相当嫌味を言われましたが(苦笑。後にこの上司からのパワハラで私は退職することになります)、私はこの方法を強行し(笑)、無事この患者さんの検査を終え、確定診断をつけることができました。患者さんも「先生にCT撮るって言われた時は怖くて仕方なかったけど、すごく短い時間でやってもらってよかった。自信がついた」と言ってくださいました。

当院は病院ではなく、クリニックです。
私のやっていることはクリニックの手法です。
なぜなら…患者さんは病院だと我慢するんです。
予約時間から1時間待たされても、我慢します。
多少痛くても、怖くても我慢します。
でも、クリニックでそれは許されません。
なるべく待たせない。痛くしない。怖がらせない。
クリニックが生き残っていくために、それは必要なことなのです。
そして…患者さんに選んでもらって、的確に診断をし、時に病院に渡す…それがクリニックの使命です。
先日も某病院でずっとフォローしているがん患者さんの転移巣を当院のMRIで発見しました。
不定愁訴と病院から診断され、ドクターショッピングを繰り返していた患者さんの髄内腫瘍を見つけたこともあります。
細かく拾う。裾野を広げて拾う。そして、その上の段階を病院にお願いする。
そのために、今日も相棒を立ち上げます。
頑張っておくれ、我が新しき相棒!(笑)