チャタンヤラクーシャンクーのはなし

チャタンヤラクーシャンクーというのは、空手の形の名前だ。
最近の空手の大会の決勝を見ると大抵出てくる。
来年のオリンピックでも注目の清水希容選手の演武を見てみよう。

空手にはいくつか流派があるが、この形は糸東流という流派の形として知られている。(※1)

最近この形の来歴を知った。

この形の起源は喜屋武朝徳(きゃんちょうとく)という明治から昭和にかけて活躍した空手家が北谷(ちゃたん)村の屋良利正という人からクーシャンクーという形を習ったことに始まる。

クーシャンクーという形は非常に有名で、流派や会派によって多くのバリエーションがある。(※2)その中の一つがこのチャタンヤラクーシャンクーなのだ。

ここからが問題で、糸東流は喜屋武朝徳の流れを組む流派ではないので、この形が存在している理由が分かっていなかった。

糸東流というのは糸洲安恒(いとすあんこう)と東恩納寛量(ひがおんなかんりょう)に師事した空手家が師匠の名から一字ずつ取って名付けられた流派だ。

一方で喜屋武朝徳は、現在の少林寺流、松林流などのルーツとなっている人物だ。糸洲安恒とは兄弟弟子の関係にあるものの糸東流とのつながりはない。

では、どこで糸東流に喜屋武のクーシャンクーが入ったのか。

この答えが書かれたブログを最近見つけた。

実は戦後になって松林流のクーシャンクーを糸東流の人が習ったものだった。

それが競技空手として華美にアレンジされたものが今日我々の知るチャタンヤラクーシャンクーだったのだ。

形が変容していくのは特段珍しいことではない。そもそも今メジャーな流派の形は名前も含め原型からかなりアレンジが加えられている。

むしろ競技空手の世界の特異性が垣間見れるように思う。

空手をやっている大抵の人間は競技空手の準決勝とか決勝で見るようなハイレベルな形は練習をしないので、別の世界のものを見るような目で見ている。

競技空手で初めて知る形も多い。1990年代に大会に出てくるようになって初めてこの形を知った人も多かっただろう。(当時のことは知らない)

最近の例だと喜友名諒選手が「アーナン大」という形を世界大会で披露しているが、この形は劉衛流で創作された形で、最初に見たときはなんだこれはと驚いた。

ちなみにこの形は全日本空手道連盟主催の国内大会では大会規定で使えない。(※3)

海外の選手は流派とかそういうのにこだわりがないから喜友名効果でアーナン大を色んな所で見るようになった。

そもそも劉衛流自体が比較的マイナーな流派なので、アーナン大以前にアーナンすらもよく知らなかった。

チャタンヤラクーシャンクーも流派関係なく打つ人をよく見る。
視野が広がるし良いことだとは思うんだけど、どうやって覚えてるんだろう……
強い人たちの世界はわからない。

話を戻してチャタンヤラクーシャンクーの由来については、ググってみると結構有名な話だったようだが、これまでただ漠然と糸東流の形だと思っていたので感動してしまった。

最近世界大会における形競技のルールがフラッグから点数制になるなど、オリンピックに向けて大幅に競技規定が変わっており、空手界はニュースが増えている。それに伴い歴史的な部分も明らかになっていくと嬉しい。

最後に様々なクーシャンクーの動画を貼る。

前の2つは喜屋武朝徳の流れを組むクーシャンクーだ。いずれもチャタンヤラクーシャンクーとよく似た動きをしていることがわかると思う。

3つ目に、松濤館流、糸東流、和道流という3つのメジャーな流派のクーシャンクーを同時に演武した面白い動画を見つけたので共有する。いずれも歴史的には糸洲安恒の流れを組んでおり、喜屋武の流れを組むクーシャンクーとは大きく異なることがわかる。

松林流 クーシャンクー

少林寺流 クーサンクー

松濤館流 観空大、和道流 クーシャンクー、糸東流 公相君大


※1 全日本空手道連盟の大会では形のリストから選択して演武する。このリストの中でチャタンヤラクーシャンクーは糸東流の形として登録されている。

※2 観空大(松濤館流)、公相君大(糸東流)、クーシャンクー(和道流)など

※3 「昭和39年9月30日以前に存在したと判断された形」という規定がある。全日本空手道連盟が生まれた日よりも前であることが基準だ。

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