扇風機
あ~~~~~~~~ あ~~~~~~~~
あ~~~~~~~~ あ~~~~~~~~
何かがおかしい。
フローリングの床にベタっと座りながら、扇風機に向かって声を出していた私は、奇妙な違和感を覚えた。
寂しい。なんか寂しい。物足りない。手ごたえがない。ない。ないんじゃああああああああ!!!!
一生懸命脱力して誠心誠意ダルい声を出しているというのに、返ってくるのは、わずかに震えるだけで普段と大して変わらぬ私の声と、機械的に回り続けるスマートな風の音だけ。
わかった。これは令和の扇風機だ。平成とは違うんだな、お前、そうだったな。
私にとって平成の扇風機は、汗を飛ばしながら、夏のかったるさを声に乗せて吐き出させてくれるダル友だった。決してお洒落とは言えない見た目をしながらプラスチックの大きな羽がブンブンと回り、【強】を押すと急な風圧の変化が私を驚かす。【弱】【中】と【強】の風量をしっかりと差別化して、というか、馬鹿の一つ覚えのように【強】にビクッと反応して突然ギアチェンジする計算の出来なさが、意味わかんなくてアホっぽくて大好きだった。
そして何よりも私の声が良い。ちゃんとガラガラしてくれる。ちゃんとダルそうに聞こえる。
あ"あ"あ"あ"~~~~~~~
あ"あ"あ"あ"~~~~~~~
そうそう、やっぱ扇風機はこうじゃなくっちゃ。
それに引き換え令和の扇風機はどうか。
声を風に乗せても、全然思いを受け取ってくれない。少しだけノイズの入った声に変化するが、その絶妙な加減のせいで、むじろ洒落たエフェクトをかけた最先端みたいな声になってしまう。最先端とは??なんでもいいがとにかくムカつく。
風量だっていけ好かない。もはや弱中強の名前を捨て、ちっちゃなグリーンのライトの数でさりげなく現在の風量を示す。
〇〇さんってどんな場所でもすんなり馴染めますよねー。えーっそんなことないですよー。にこっ。
人当たりの良すぎるデキる社会人みたいに、ちょうどいいサイズでちょうどいいポジションでちょうどよく存在する4つのライトたち。もちろん風量の変化もグラデーションのように、均等に、柔らかく、私を驚かせずにスマートに行われる。
はーあ。
扇風機。
お前くらい、不格好でいてくれよなっ!
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