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【解説⑤】改正「給特法」によって働き方改革は進むのか?~「変形労働時間制」の導入①~

前回の記事はこちら↓↓↓

◯前回の記事では、「給特法」の改正(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律」)によって新設された「第7条」の中身について書きました。

◯簡潔に振り返ると、「第7条」は文部科学大臣が、教員の健康と福祉の確保、学校教育の水準維持のための「指針」(=ガイドライン)を定めるということを法律(=給特法)に明記したものでした。このことの意義は、文部科学大臣が発出する「ガイドライン」が法律と紐付いたことで、その内容が「法的根拠」をもつものとなったということです。

◯ここでいうガイドラインとは、教員の「超過勤務時間」についての上限の目安を「月45時間、年360時間以内」とするという基本方針を示した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(平成31年1月25日発出)のことを指します(前回記事参照)。

◯今回の記事では、もう一つの軸である「第5条」の改正について触れていきます。この改正「第5条」「1年単位の変形労働時間制」に関わる条項になっています。以下に改正された第5条の条文を掲げますが、法律の素人に読める代物ではありません。

第5条
教育職員については、地方公務員法第58条第3項本文中「第2条、」とあるのは「第33条第3項中「官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)」とあるのは「別表第一第12号に掲げる事業」と、「労働させることができる」とあるのは「労働させることができる。この場合において、公務員の健康及び福祉を害しないように考慮しなければならない」と読み替えて同項の規定を適用するものとし、同法第2条、」と、「第32条の5まで」とあるのは「第32条の5まで、第37条」と、「第53条第1項」とあるのは「第53条第1項、第66条(船員法第88条の2の2第4項及び第5項並びに第88条の3第4項において準用する場合を含む。)」と、「規定は」とあるのは「規定(船員法第73条の規定に基づく命令の規定中同法第66条に係るものを含む。)は」と、同条第4項中「同法第37条第3項中「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」とあるのは「使用者が」と、同法」とあるのは「同法」と読み替えて同条第3項及び第4項の規定を適用するものとする。

◯上記サイトでこの条文の解説をしてくれていますが、これを読んでも正直私にはまったく分かりません。

◯つまるところ、「各自治体が定める条例によって、公立学校の教育職員に対して1年単位の変形労働時間制を適用することができる」という内容だと理解しておけば十分だと思います。

◯ところで、この「1年単位の変形労働時間制」の導入の要件となるのが、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」の順守です。

◯上記の記事から引用すると、

文部科学省は1月17日、各都道府県と政令指定都市の教育長に対し、教員の勤務時間上限のガイドライン(指針)を今年度内に条例化するよう通知した。ガイドラインの順守は、1年単位の変形労働時間制の導入要件でもあり、制度導入を念頭に置いた年間計画の試行も併せて示した。

と書かれているように、「月45時間、年360時間以内」の「超過勤務時間」の上限を守れていない学校(あるいは教員)には、「1年単位の変形労働時間制」の導入はできないということを通知しているのです。

◯以下はその通知(「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」の告示等について(通知)(令和2年1月17日))です。

本指針(「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」*筆者注)の適用は,第7条の施行と同じく令和2年4月1日からとしており,同日までに上限方針が実効性ある形で定められていることが重要であること。このため,服務監督権者である各教育委員会においては,本指針を参考にし,上限方針を教育委員会規則等において定めること。既に上限方針を策定している場合には,本指針に沿ったものとなっているか,学校や地域の実情等も踏まえ,改めて検討の上,必要に応じて改定すること。
都道府県及び指定都市においては,給特法第7条第1項の規定の趣旨を踏まえ,服務監督権者である教育委員会が定める上限方針の実効性を高めるため,公布通知においてもお願いしていた通り,本年度中に各地方公共団体の議会において御議論いただき条例の整備を行うとともに,教育委員会規則等の整備を行うようお願いしたいこと。

◯そして、このように教員の勤務時間上限のガイドライン(指針)を今年度内(令和2年度内)に条例化(具体的には6月または9月の議会で条例化)するよう通知した上で、「改正給特法の施行に向けたスケジュール(イメージ)」を示し、「令和3年度から施行」するよう促しています。

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◯文科省から「令和3年度から施行」するよう促されている以上、おそらくどこの自治体もすでに「1年単位の変形労働時間制」の導入に向けて動き出していると思われます。

◯しかし、現時点でこの上限規制が守られているなどということは、ほとんど考えられない以上、上限規制が守られていないにも関わらず見切り発車的に強行スタートをする自治体が出てくることが予想されます。

◯再び上記サイトから引用すると、

条例制定を今年度内とした理由について、文科省の担当職員は連合通信社の取材に対し、「働き方改革の実効性をもたせるために条例化の推進は重要。1日も早く国の指針を施行したい」と回答。条例制定と同時に全ての公立学校で上限を守るのは難しいと認めた上で、「条例は指針の上限を根拠づけるもの。条例化しても罰則があるわけではない」と説明した。

条例制定と同時に全ての公立学校で上限を守るのは難しい」ということは文科省としてもわかっているわけです。しかも、各自治体で定められた「月45時間、年360時間以内」の条例が守られていなくても、罰則はないわけです。

◯それにも関わらず、文科省は令和3年度からの「1年単位の変形労働時間制」の導入を促しています。これでは文科省自らが、「月45時間、年360時間以内」の条例が守られていなくても強行的にスタートせよと言っているのと等しいのではないでしょうか(あるいは適用できる状態になった学校や教員からスタートさせるということでしょうか)。

◯上記のサイトの日本共産党山口県議会議員の藤本かずのりさんの8月10日付のブログから引用します。

 私は、今年2月県議会で、公立学校の教員に対する変形労働制導入を可能とする法改正への対応について質しました。
 私は、この制度の「導入の前提」が「労働時間の縮減」であり、具体的には時間外業務について月45時間、年360時間を上限とすることとなっていることを示し、①県教委は、2017年度からの3年間で教員の時間外業務時間の30%削減を目標に取り組んできた。その進捗状況、達成の見通しを示せ。②変形労働制の適用に当たっては、時間外業務時間が月45時間、年360時間の範囲内の教員に限定されていると考えるが、どうか。③検討にあたっては、少なくとも各教員の勤務時間を調査し、全員が国指針の範囲内と確認されることが制度導入の前提と考えるが、どうか。と3点を質しました。

◯まさにおっしゃるとおりです。現段階で全教職員に対して一律に適用できるはずがありません。

 副教育長は、①について「平成28年度に比べて、今年1月現在で、小学校は0.7%の増、中学校は4.9%の減、県立学校は10.6%の減と、現時点では、目標達成に向けて厳しい状況にあると認識しています。」と答えました。
 又、②③については、「変形労働制の導入については、法の施行が令和3年4月となっており、引き続き国の動向を注視してまいります。」と具体的な言及を避けました。

◯藤本さんの質疑に対する副教育長の答弁からもわかるように、現状では月45時間、年360時間を上限とするガイドラインの順守は厳しいわけです。

◯さらに、山口県教職員組合が発行する「山口教育」の記事を参考として引き合いに出して、こう続けています。

 山口県教職員組合が発行する「山口教育」(8月10日発行)は、「消毒や感染防止対策に時間も労力も奪われる中で、一人ひとりの子どもたちに寄り添いながら、大幅な教育課程変更を迫られる学校現場は制度導入の前提がないにもかかわらず『導入ありき』の無責任な態度は到底許されるものではありません。」

◯記事では、制度導入の前提である「月45時間、年360時間」を上限とするガイドラインの順守がなされていないにも関わらず、「導入ありき」で話を進めていくのはおかしいでしょう、と述べられています。

「萩生田文科大臣が『まず各学校で検討の上、市町村教委と相談し、・・・』(2019年12月3日参議院・文部科学委員会)『対象者を決めるに当たっては、校長がそれぞれの教師と対話をし、その事情をよく汲み取る』(11月22日参議院本会議)と述べている通り、『学校の意向を踏まえ』るよう、各学校での話し合いが重要です。文科省が示した改定特措法第7条の『指針』に係るQ&Aの問43には『教育委員会は、校長及び教育職員が丁寧に話し合い、共通認識を持って本制度を活用することが重要』とあります。」と指摘し、県教委が現場の声を十分聞くことなく、文科省の「スケジュール表」通りに、9月県議会に変形労働制導入を認める条例提出を厳しく批判しています。

◯さらに、萩生田文科大臣自身が、「1年単位の変形労働時間制」を適用する対象者を決めるに当たって、校長とそれぞれの教師とがきちんと対話をして、対象者の事情(育児や介護、共働き家庭など、それぞれの生活事情)をよく汲み取る必要があると述べており、それにも関わらず現場の声を十分に聞くことなく文科省が提示している「スケジュール表」通りに性急に条例化するのはおかしいと批判している記事の内容を紹介しています。

 冒頭指摘した文科省の通知等の中で、「対象となる教職員の在校等時間に関し、指針に定める上限時間(42時間/月、320時間/年等)の範囲内であること」などを前提としています。私が2月県議会で指摘をした時間より少ない時間を上限としています。県内の教員の時間外業務時間はこの3年間で3割減どころか、小学校では増加している状況です。制度を導入する前提にないことも明らかです。
 コロナ禍の中で、県内の各学校では夏休みが短縮され、制度の前提である「繁忙期」、「閑散期」がなくなっているのが実態です。
 あらゆる意味で、県教委は、文科省のスケジュール表の通り、9月県議会に変形労働制導入を認める条例提出をすべきではないと考えます。
 教育現場で今、求められているのは、変形労働制の導入ではなく、少人数学級の実現のための大幅な教職員を増員することです。
 文科省は、都道府県に変形労働制導入を認める条例を9月議会に提出するよう指導しています。皆さんはこの問題をどうお考えですか。ご意見をお聞かせ下さい。

「1年単位の変形労働時間制」の詳細については次回以降の記事で具体的に解説しようと思いますが、「1年単位の変形労働時間制」を適用した対象者については、時間外勤務の上限は「月45時間、年360時間」ではなく「月42時間、年320時間」が上限となります。

「1年単位の変形労働時間制」を適用すれば時間外勤務の上限がより少ない時間になるにも関わらず、教員の時間外業務時間が減少どころか増加している状況である中で、制度の導入はおかしい。このように述べていらっしゃるわけですが、もう全てを代弁していただいているような形です。こうした議員さんが議会の中で教育委員会と戦ってくれているのです。

◯さて、もう字数が多くなってしまったので、「1年単位の変形労働時間制」の解説は次回以降の記事に譲りますが(とはいえ、変形労働時間制については私が改めて説明するまでもなく多くのサイトで解説してくれていますので、特に必要はないかもしれませんが)、引き続き改正給特法について書いていきたいと思います。


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