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王友第十號 編輯後記

 本號原稿締切は四月末日限と云ふのに、一向

集まらないので心配したが、五月に入つてか

ら、大作力篇が陸續投稿され、猶ほ執筆中の大

篇が二、三あるといふ次第である。古來文筆家

は妙に、几帳面なことが嫌らしく、締切迄に原

稿を書くことを、一種の恥とでも心得られてゐ

るのではあるまいか。

 今度は原稿募集から締切迄約一ケ月間あつた

が、これでは短か過ぎるのだらうか。要するに

筆者の心がけの問題ではあるまいか。

 「王友」は五月と十二月に刊行する定めであ

るから、今後御寄稿家諸氏に於ては、半歳の間

に十分準備をされ、募集と同時に原稿が集ると

いふ工合にしたいものだ。

 雜誌を編輯する以上、相當體裁や配列を工夫

して、及ばず乍ら幾分でもよくしたいと努めて

ゐるが、肝心の原稿が集まらないのでは全く泣

きたくなる。いつも憎まれ口ばかり利いて申譯

ないが、猶一層の御助力を仰ぎたいのである。

 兎に角本號も御覧の通りの多種多様、百花咲

き亂れるの盛觀さであつて、續刊十號の歴史を

語る「王友」の面目躍如たるものがある。誠に

お目出度い極みである。

 注目すべきは漢詩壇の活躍と、新に繪畫の登

場したことである。これらの新境地を開拓し

て、思ふ存分腕を奮ふ新人の出現を期待する次

第である。

 本號には投稿された原稿の殆んど全部を採錄

したが、二、三箸にも棒にもかからぬ程ひどい

ものがあつた。これらの採否に就いて編輯者

に、一方ならず當惑して、議論百だしたが、結

局筆を入れて掲載した。これらは「王友」の品

位のために、潔く沒書とすべきであると信じる

から、今後に、讀んで分けのわからぬもの、句

讀點の目茶目茶なもの、文章の體を具へてゐな

いものは、容赦なく捨てる考へである。「王

友」を向上させるためには、泣いて馬謖を斬る

他ない。餘計なことだが、これらの人は谷崎潤

一郎氏の「文章讀本」でも、一通り讀んで頂き

たいと思ふのである。

 締切日迄に集つた原稿を一讀して、僕の印象

に殘つた作品に就て讀後感を簡述する。

 平塚氏の「歌ひとり語り」は、前號王友歌壇

に現はれたる諸氏の短歌を縦横に解剖して餘す

ところのく、誠に公平懇切なる批評である。こ

の種の記事は夙に出づべかりしもので、編輯者

のひそかに期待してゐたものである。

 凡そ文藝作品の鑑賞は各人夫ぞれの好尚に從

つて、物指が異ふから、一概に氏の說全部を肯

定しかねる點もあるが、吾われ歌道に暗きもの

にとつてよき燈臺であり、現歌壇一方の雄なる

氏の批評は、「王友」歌人諸氏にとつても正し

き指標であると思ふ。御精讀を乞ふ所以であ

る。

 小島園主人氏の「無筆の歌人」は、淡々たる

叙述のうちに、よく歌人磯丸の全貌を傳へ、又

筆者の人生觀の片鱗がうかがはれるよき文章で

ある。

 岩崎氏の「アイスホッケーを語る」は、本年

度優勝の榮を獲得した、わが苫小牧軍のため

に、萬丈の氣焔を吐く雄篇であつて、眞向から

大だんびらを振りかざした勇敢さを賞した

い。筆者の卓見に對する、斯界専門家の意見は

どうであるか。その反響をききたいものである。                 

                 (菊池)

(「王友」第十號 
    昭和十年六月二十日発行 より)

#王友 #旧王子製紙 #昭和十年




           紙の博物館 図書室 所蔵

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