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いっせーのエッセイ「実家のような」#4

経験のないサービスを受けた。

喫茶店が好き。
中でもカメラ片手に自撮りなどをしている人がいないような、古い喫茶店が大変好ましい。
休日に出かける時は、決まってそのエリアの良さげな喫茶店を探すようにしている。

今日は久しぶりに吉祥寺へと向かった。
のんびりお散歩をして、いつもの様に喫茶店へと足を伸ばした。
目をつけていたのは「珈琲の店 プチ」
有名な商店街を抜け、周囲には住宅と歯医者のみといった場所にその店はあった。
最近よく見る小洒落たカフェなどではなく、古ぼけた看板に生い茂る草木。
「これだよこれ」と心の中で唱えた自分の気持ちは高揚していた。
ただ目の前まで行くと営業中の立て札が仕舞われている。
やっていないのかなと不安を抱きながら中を覗くと、カウンターに座るお爺さんが手招きをした。
「営業中ですか?」と尋ねると
「入んな入んな」と微笑んだ。
微妙にずれた会話に疑問を抱かないようにしつつ席へと腰掛けた。

テーブルにメニュー表はなく、壁に手書きで記されていた。
何にしようかとぼんやり眺めていると
「あんた、先に水も出さないでなにやってんのよ~」
見えていなかったがお婆さんもいたらしい。水を持ってきたお婆さんに珈琲を注文しタバコに火をつけた。

程なくして珈琲がやってきた。
その際同時に運ばれてきたものに私は目を奪われた。
それは祖母の家で見るような木で出来た深めのお皿に、山盛りに入ったお菓子だ。
「好きなだけ食べていいからねー」と一言残し去って行ったと思いきや、今度はお茶とせんべい2枚を持ってきた。
「これサービスですか?」
「そうだよー。懐かしいでしょー」
手厚い歓迎にホッコリしたのもつかの間、次はお爺さんが焼いたお餅を運んできた。
「たばこより美味しいよ」
水を出さないことに怒られていたお爺さんはお餅を焼いていたのだ。
珈琲を頼んだだけだがテーブルは食べ物と飲み物で溢れかえった。
離れたカウンターからラジオが流れている。
本当に祖母の家に遊びに来たかのような居心地の良さだった。

気づけば時間は17:00を過ぎていた。
思ったよりも長居をして、お会計を済ますと「若いお客さんなんて珍しいからびっくりしたわ~。いつでもいらっしゃい。」
可愛いお婆さんに「必ずまた来ます」と伝えお店を出た。

最近会えていない祖母に会いたくなって、今度の休みで遊びに行くねとメールを入れた。

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