面白かった文芸同人誌紹介2019

今年の振り返り記事でも書こうかと思ったんですが、
そのまえに2019年読んだなかで
面白かった文芸同人誌を紹介させていただきます。

といっても同人誌ってよくわかんないんですけどね。
同人誌と思って買ってるわけでもないし、読んでるわけでもない。
いわゆる商業本と何が違うんですかね。
とかメタ議論してても先が長いんで、
「即売会とかKDPで買った本」の中から選びました。
その定義でいえば、今年読んだ同人誌は53冊でした。

ちょっとどんなかんじで紹介したらいいのか、悩んでいます。
賞みたいな感じで紹介するにしても、数多ある同人誌のうち一部しか読んでないし、ジャンルも作家も偏ってるだろうし、賞とかいえるほど読む力量があるわけでもない。
宣伝という体で紹介するにしても、イチアマチュア文芸愛好家の私が紹介したところで、なんの宣伝にもならないでしょう。
というわけでこの紹介は、「作家本人」に宛てるつもりで書こうと思います。
今年面白い本を読ませてもらった、そのお礼を伝えるつもりで、「すごく面白かったよ!また書いてね!」と伝えるつもりで、この紹介記事を書きます。
なので作家さん以外にとって何か役に立つ記事でもないし、もしかすると作家さん本人にとっても何にもならない記事かもしれないんですが、「ありがとう」という言葉に変えて、書かせてもらいます。

なんとなく、ジャンルごとに書きますね。
いきます。

1.純文学部門
「マスタング」(矢口水晶)

今年たぶん最後に読んだ本になると思います。
いや、最後にえらい本が出てきたな、と。
まさに純文学らしいというのか、人物描写と風景描写の密度がすごい。
しっかり書き込まれている、その文章を読み取るのが楽しい。
知る限りでは、矢口水晶さんの初めての単著だったのではないかなと思います。
ずっと単著が読みたかったので、読めてよかった。
今年のうれしい出会いのうちのひとつでした。

2.大衆小説部門
「ランガナタンの手のひらで」(伴美砂都)

伴さんの小説のジャンルは何か、という話題がツイッターに上がっていて
純文学を挙げる声がけっこうあった気がします。
たしかに伴さんは人物の書き込みが細かく、深いので、
純文学的側面も多いにあると思います。
でも私にとっては、伴さんは大衆小説の人かな、という印象です。
文体が素直だし、ストーリーが整っているので。
そしてその点がまた、私が伴さんの小説を好む理由でもあります。
とりわけ「ランガナタン~」は図書館に関するショートストーリーが
いくつも書き込まれていて、それを追い、風景や人々を追体験するのが
とても楽しい読書でした。
読んでいて楽しい、そんな経験をさせてくれた一冊でした。

3.ライトノベル部門
「特殊状況下連れ人」(小高まあな)

小高まあなさんは、とにかく文章が上手いんですよ。
読んでいてストレスを感じることがほとんどない。
だから小高まあなさんのライトノベルは、
その楽しいところをまるごと味わうことができる。
良質のエンタテイメントなんです。
特にこの「特殊状況下連れ人」は、主人公たちのキャラが生き生きしていて
ストーリーを追っているうちにどんどん感情移入させられてしまう。
隆二と円。小説のキャラでありながら、本当に彼や彼女に会ったかのように
幸せな気分になれる、そんな作品でした。

4.アンソロジー部門
「コハク燈短編集 寄せ植え vol.3」(コハク燈)

アンソロジーって難しいと思うんです。
往々にしてそれぞれの作品が分離していて、
それなら別で(単著で)読んだほうがいいかなと思うことがある。
でも「コハク燈短編集 寄せ植え vol.3」は、
それぞれの作品が分離していない。全体でひとつの作品になっている。
作品と作品の足し算が、1+1=2じゃなくて、3にも4にもなっている。
その点で、ひとつの本として、いいアンソロジーだったなあと思いました。
たぶんそういう本を作るのって、編集が優秀なんだと思うんですが、
あるいは「コハク燈」というグループの強さでもあるのかもしれません。

5.エッセイ部門
「楽しさと惰性」(そらとぶさかな)

そらとぶさかなさんは、本当に素直ないい文章を書くんですよ。
そんなさかなさんの作品が好きで、この部門じゃなくてもいいんですが、
たまたま今年読んだなかではこの作品が一番好きだったので、
この部門にしました。
でも元々、文体としてはエッセイにも向いているかもしれませんね。
エッセイ以外の文章もすごくよくて、そんな部門ないんですが
もし「来年楽しみな作家」部門があったとすれば、
そらとぶさかなさんはそのうちの一人かな、という気がします。

6.短編部門
「満室になる前に」より「想いは水色」(泉由良)

短編って難しいと思うんです。
そもそも面白い短編が多くはないし、
ましてや数千字の作品を、数万字オーダーの作品と同じレベルで書けるかと
言われたら、できる人は即売会では数人じゃないかなと思います。
数万字あれば、足し算で要素をどんどん増やしていけるし、
伏線のパターンも増えるし、総じて「分量の圧で倒す」ことができる。
でも短編ではそれは無理。
センスだけで勝負することになります。
泉由良は、それができる作家のうちのひとりであるように思います。
特に「想いは水色」はわずかな文章のなかに多くのストーリーを
過不足なく収めている。その技量がすごい。
しかもエモの強い作品でありながら、エモを高める小道具や
飛び道具を全く使わず、ただ書くだけでそれを達成している。
短編のお手本のようだなと思います。
なんて分析したりもしますが、エモくて耽美要素のある、
とても美しい作品なので、芸術作品を見るかのように、
何度も開きたい短編です。

7.詩歌部門
「Yeah Yeah Yeah」(壬生キヨム)

短歌といえば壬生キヨムさんが一番好きなんですが、
今年はこれしか読んでいないので、
そのまま壬生キヨムさんの作品を選んでみることにしました。
尾道の個展に出した短歌や絵画を本にしたものです。
この作品もすごくよいのですが、
これまでに読んだなかにはベスト盤「作中人物月へ行く」をはじめ
素敵な歌集がたくさんあるので、
いっぱい追いかけてほしい作家のうちのひとりです。

8.奇書部門
「パリのアゲパン・ハトコ岩」(目黒乱)

即売会は尖った本が多いので、いわゆる奇書の類にはよく出会います。
しかし10年間ぐらいそれなりに多くの本を見てきたなかで
いちばん「イカれてる」のはこの本だと思います。
これだけ「自由」を体現してる本は見たことない。
それでいてちゃんと小説の枠のなかに収めている。
イカれただけではない、笑って読めるいい奇書でした。
「インチキバレエは厭ぁ!」はときどき口にしたい名台詞。

9.総合部門
「ネオメロドラマティック」(住本優)

トータルでみて、今年即売会で会った中で、
いちばん良かったのがこの本。
即売会ってファンタジージャンルのものが
たぶんほとんどの即売会で一番多いんですが、
ふだんの生活に馴染まない素材の処理が難しいからか、
読みにくいものが多いです。
でも「ネオメロドラマティック」は、
なんの違和感もなくファンタジー世界をふだんの生活のように
目の前に展開してくれる。
ふだんの生活とファンタジー世界がちゃんと混ざることは
こんなにわくわくさせてくれるものかと、
一気にページをめくりました。
ストーリーもキャラクターも、エンタメとしてとてもよかった。
一番楽しかった本だし、今年一番の本だと思います。

10.主演男優部門
「おぼえていますか」(東堂冴)より「潮」

東堂さんの側面のうちのひとつとして「痛み」を書く、
というところがあると思います。
人物の痛いところを、弱いところを、ものすごく的確に、描く。
それは多くの作品で現れているのですが、この作品に登場する
潮くんは、まさにその象徴であったように思います。
その意味においては、東堂さん作品のなかでこれがいちばん好きで
潮くんがいちばん好きです。
自分を重ねることすらできないほど断絶的な潮くんの痛みや
弱さをやけに遠くから眺めているのが、この読書であり、
楽しいでも悲しいでもない、稀有な体験を与えてくれるものでした。

11.主演女優部門
「平成バッドエンド」(ひざのうらはやお)より「良子」

この本のなかの「猫にコンドーム」という作品がとても好きなのですが、
それはそのまま、本作の主人公「良子」が好きということに等しいです。
この作品は、良子の語りによって展開されます。
この口語文体のドライブ感がすごくいい。
もし文体によって純文学が評価されるならば、
その点で私は「猫にコンドーム」を高評価します。
そもそもひざのうらはやおという書き手が、
たぶん書くときにあまり何も考えていない(ちょっと失礼)
ドライブ感で文章を進めるタイプの書き手だと思うのですが、
女性+口語文体による「猫にコンドーム」が
ひとつの到達点だったのではないかと思いました。
良子の語りに耳を傾ける読書が、私はすごく楽しかったんです。

12.助演男優部門
「ごはん、できてます。」(紺堂カヤ)より「ジロー」

来ました、備え付け料理男子「ジロー」。
いい人物でしたよねえ、ほんと一家に一人ほしい。
絶妙にツボを押さえた設定で、彼によって構成される
「おいしい」物語がとてもよかったです。
紺堂カヤさんはとにかくやさしくてあたたかい作品を書く印象です。
それがちょうどジローに現れていて、
彼を見ているとき幸せな気持ちになれました。
幸せを与えてくれる、そんな文章を書く紺堂カヤさんが好きだし、
その文章に登場する人物たちが好きです。

13.助演女優部門
「死神のサイコアナリシス」(穂倉瑞歌)より「佐倉」

とにかくいい本なので、どの部門で紹介してもいいんですが、
せっかくなので助演女優部門にて。
佐倉さん、いいですよね。
関西弁のキャラって好きなんです。
それも設定が素直じゃないというか、隠れた面がいくつもあって
びっくりしながら読みました。
佐倉さんはじめ、面白い設定とか伏線が多く入っていて、
ページをどんどん捲っていくというあの感じ。
そして、最後にはちゃんと希望がありました。
希望があるからいい、というわけではないんですが、
それは本の外にある、読者にも繋がっていて、
その広がりがとてもいいと思いました。

14.作家部門
「犬尾春陽」

犬尾春陽さんの作品は今年ふたつ読んだんですが、
「楽園」「雨の庭」どちらもよかったです。
作家という意味では、犬尾春陽さんが一番印象に残っています。
ちゃんと背筋を伸ばして書いている、そんな風に読めたところが
好印象でした。
ちゃんと背筋を伸ばして書かなければいけない、
ちゃんと背筋を伸ばして読まなければならない、
そんなふうに諭してくれる、犬尾春陽さんという作家との出会いは、
そんなふうに大切なことを教えてくれる、いいものでした。

そんなかんじで、紹介を終わります。
ちゃんと書けているか自信ないですが;
いろいろ振り返ってみて、今年はいっぱいいい本に会えたな、と
改めて嬉しくなりました。
ここで紹介させてもらった方々も、
書いてはないけど楽しませてくださった方々も、
ありがとうございました。

来年も、たくさんのいい本に会えるとうれしいです。
また読ませてください。

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