着圧タイツと介護の話

着圧タイツと聞けば思い浮かぶのは、若い女性が脚を細く見せる為に履く姿がほとんどではないだろうか。
恐らくTVCMなどで得た知識が、そのままフラッシュバックされるのであろう。

そうは言ってもあまり詳しく知らないなと思い、「着圧タイツ」と調べてみたところ、脚を細く見せるだけではなく、くびれやお尻をすっきり見せる効果もあるのだと言う。

しかし私は着圧タイツは別の用途で使用されるのを見た事がある。
それは介護現場で、だ。
5年ほど前、私が介護職をしていた時である。

「鈴木さん」
「んっ?」
「着圧タイツ履きますね〜」
「あ〜、そう」

鈴木さんは元々目が見えておらず、耳も遠く、また、数ヶ月前に転んで車椅子生活になり、身の回りの事は自分では出来ない。

食事以外は車椅子でうとうとするか、ベッドで寝転ぶかという状況で、下肢筋力は衰退し、足はむくんでいく一方だった。

介護現場では、足がむくむ事を「浮腫ができる」「浮腫になる」と言っていた。

若い人が「足むくんだかも〜」とマッサージして次の日には治るような軽度のものではなく、
お年寄りの浮腫はまた状態が違う。

見た目はというと、ゾウのように太く、
ヒラメ筋の形がわからないほどにむくんでいる。

むくんだ皮膚を強く指で押し続けると、跡が残り戻らなくなる。

そんな浮腫をどうやって軽減させるかというと、
仰向けで寝転び、足の下にクッションをかませて寝る(お尻より高い位置に脚を上げる)と良いらしい。

実際に浮腫の酷いお年寄りにそうして一晩寝てもらったところ、「今日は脚の痛みがマシだわ」と仰っていたので、多少の効果はあるのだろう。

浮腫自体、血液が体の中を巡り足の方へ行き、
足の筋肉で血液を上へと上手く循環させられないから起こる症状なのだから、理にかなっているのだと思う。

しかし、その処置をした上でも中々浮腫が良くならない状態を見かねた鈴木さんのご主人は、「着圧タイツを履かせて寝かせてほしい」と言った。

それが実際に良い処置だったのかは私にはわからない。
何故なら症状が良くなった記憶が無いからだ。

5年前の事だから覚えていないのか、
それとも鈴木さんが症状の経過を伝える事ができる人ではなかったから覚えていないのか、
はたまた思った事が無いから覚えていないのかは分からないが、それでもただ一つ覚えている事はある。

浮腫の上からピチピチの着圧タイツを履かせる大変さは…。

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